海外では寝る前に食べると高確率で「奇妙で鮮明な夢を見る」と言われている食べ物がある。それはチーズだ。
また、古来から魔術にチーズが使用されることが多かったという話もある。
果たしてこれは単なる迷信なのか?人間の思い込みか?それとも科学的根拠があるのだろうか?今回はチーズと夢の関係について深堀りしていこう。
古代から続くチーズと悪夢の関係
チーズを食べると奇妙な夢を見たり、妙に鮮明な夢を体験したりすると言われてきた。この考えは、実は古代ギリシャ時代にまで遡る。
古代ギリシャのヒポクラテスやガレノスが提唱し、長らく信じられていた医学理論「体液病理学」では、人間の体液のバランスにより病気が引き起こされるという考えから、消化しにくい食品で悪夢をみるとされてきた。
19世紀には、チーズだけでなくやアーモンド、キュウリ、アボカドも悪夢につながるとされた。
こうした考えは、ディケンズの『クリスマス・キャロル』の中でエベネーザ・スクルージが、ジェイコブ・マーレイの幽霊は未消化の食事の産物だと非難する場面にも出てくる。
2005年に行われた英国のチーズと夢の研究
チーズが悪夢の原因だという考えは、2005年に英国チーズ協会(現在は解散)がチーズを食べると鮮明な夢をみるかどうかという研究に資金を提供したことで、かなり支持された。
1週間にわたるこの研究には200名のボランティアが参加し、様々なチーズを使って行われたが、結局奇妙な夢を見た確率が多かったのはスティルトンチーズだけで、他の種類のチーズはそんなことはなかった。
またこの研究は、きちんとした学術誌に掲載されたわけでもなく、それほど科学的なものではなかったということだが、チーズと夢の関係性を一般の人々の脳裏に植えつけた。
チーズに含まれる乳製品が関係しているのではないかという仮説もあったが、現時点ではチーズが悪夢を引き起こす確かな科学的証拠はないようだ。
科学的根拠はないものの、チーズを悪夢と関連付ける人は多い
2015年に行われたカナダの研究[https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2015.00047/full]で、悪夢と食べ物や食生活との関係を調査したところ、382人の被験者のうちおよそ18%が乳製品が悪夢や睡眠不足の原因だと考えていることがわかった。
しかし、これも因果関係を明確に示すものではなく、基本的に文化的な現象だとみなす「民間伝承仮説」の一例にすぎないとされている。
「民間伝承仮説」とは、文化や世代を超えて受け継がれる特定の信念が、人々の心理や体験に影響を与えるという考え方だ。
例えば、ピクルスを食べると奇妙な夢をみる、という迷信がある文化では、それを信じた人々が実際にそのような夢を体験したと感じる可能性がある。
これは、食べ物が直接夢に影響を与えるというよりも、心理的・文化的な要因が関与していると考えられている。
チーズと悪夢がまったく無関係とも言い切れない
現時点では、チーズが悪夢を引き起こすという科学的な証拠は存在しない。
しかし、食生活や特定の食べ物が睡眠や夢にどのような影響を与えるかを解明する研究は、まだ十分に行われていない。何世紀も人々が食べ物と夢を結びつけてきたことを考えるとかなり奇妙だ。
将来的に、チーズを含む特定の食品と夢の間に間接的なつながりが見つかる可能性もあるかもしれない。
しかし、少なくとも現時点では、チーズが悪夢の犯人であると断定することはできない。
References: Does Cheese Really Give You Bad Or More Vivid Dreams? | IFLScience[https://www.iflscience.com/does-cheese-really-give-you-bad-or-more-vivid-dreams-77043]