
我々地球上に存在するすべての生き物の体は炭素をベースに作られている。ではこの炭素はどこからきたのか?
新たな研究によれば、この元素はかつて銀河鉄道に乗って銀河の外にまで旅をしていたそうだ。
銀河鉄道とは、すなわち銀河の空間を取り囲む「銀河周辺物質」のこと。ベルトコンベアを思わせるこの巨大な流れは、超新星爆発によって銀河から押し出され、また舞い戻るという循環を繰り返している。
壮大かつロマンあふれるこの新発見は、私たちが暮らす天の川銀河がいつまで星々を産み続けるのかという疑問を解く手がかりにもなるそうだ。
生命を構成する炭素は壮大な宇宙旅行をしていた
地球上の生命は、炭素がなければ誕生できなかった。だがその炭素は、夜空に輝く星がなければ誕生できなかった。
炭素・酸素・鉄をはじめとする、水素とヘリウム以外のほとんどの元素は、星によって作られたからだ。
星の寿命が尽き、超新星爆発を起こすと、そうした物質は宇宙にばら撒かれる。それらはやがて集まり、地球などの惑星に取り込まれる。
この地球の核にある鉄や大気の酸素、あるいは私たちの体を構成する炭素などは、この壮大な循環プロセスを経て今ここにある。
今回の研究は、この宇宙の循環プロセスをテーマにしたものだ。
研究チームによれば、宇宙に放出された原子は、ただ宇宙を漂っているだけではなく、まるで銀河鉄道のように銀河の外にまで飛び出し、やがて戻ってくるのだという。
星が作り出す重い原子は、超新星爆発によって銀河から押し出され、巨大な流れに乗っては、また銀河に引き戻される。この流れを構成するのが「銀河周辺物質(circumgalactic medium)」だ。
研究の主執筆者であるワシントン大学博士課程学生、サマンサ・ガルザ氏はニュースリリース[https://www.washington.edu/news/2025/01/03/galaxy-carbon-conveyer-belt/]でこう説明する。
銀河周辺物質を巨大な駅だと思ってください。そこでは常に物質が押し出されたり、引き戻されたりしています(サマンサ・ガルザ氏)
私たちの体を作っている物質は、かつて銀河の外にまで広がる壮大な宇宙旅行をしていたと思えば、とてもロマンチックに感じられるはずだ。
研究チームのジェシカ・ワーク教授は、こう語る。
私たちの体にあるまさに同じ炭素が、相当な時間を銀河の外で過ごしていた可能性が高いのです!(ジェシカ・ワーク教授)
ハッブル宇宙望遠鏡が炭素に吸収される光の痕跡を発見
天の川のように星々が誕生している銀河が、銀河周辺物質に囲まれていることが判明したのは、2011年のことだ。
このとき、循環する大規模な物質の雲には、「酸素」たっぷりの高温ガスが含まれていることが確認されていた。
今回の研究では、銀河周辺物質には酸素のほか、もっと温度の低い「炭素」などの物質も混ざっていることを発見している。
こうした壮大な物質の循環は永遠には続かず、いつかは終わることになる。
だが、それがいつなのか解明にするには、銀河周辺物質を詳しく研究する必要がある。
なぜなら星の形成の停滞は、銀河周辺物質による循環プロセスの停滞が関係していると考えられるからだ。
今回の研究では、ハッブル宇宙望遠鏡に搭載された分光計で、9つのクエーサーからの光が星生成銀河の銀河周辺物質によってどう影響されるのか分析された。
その結果、クエーサーの光の一部が炭素によっても吸収されていることが明らかになった。
銀河周辺物質がほかにどんな元素で構成されているのか、星を産み続ける銀河とそうでない銀河の銀河周辺物質にどのような違いがあるのか、といった疑問は今後の研究を待つ必要がある。
その答えは、天の川銀河がいつまで星々を作り続けるのかという疑問の答えにもつながっていることだろう。
この研究は『Astrophysical Journal Letters[http://www.apple.com/jp]』(2024年12月27日付)に掲載された。
References: The carbon in our bodies probably left the galaxy and came back on cosmic ‘conveyer belt’ | UW News[https://www.washington.edu/news/2025/01/03/galaxy-carbon-conveyer-belt/]