
一度恨みを抱いたら、なかなか許してくれないのは人間だけではなかったようだ。とても小さな存在かもしれないが、全世界に約20京匹いるアリも同様だ。
新たな研究によると、アリは嫌なことをされた相手に恨みを抱き、ずっと覚えているという。全世界のアリに恨まれたら一巻の終わりだ。
過去の出会いで嫌な思いをしたアリは、次にその相手に出会うと、アゴで噛みついたり、蟻酸を噴射したりと、攻撃的で復讐的な態度を取るという。
ドイツ、フライブルク大学の昆虫学者によるこの研究は、小さなアリにも記憶があり、経験を通じて学習しているという意外な事実を伝えている。
なのであまりアリを怒らせない方がよさそうだ。
アリは嫌な経験を記憶し、仕返しするために活用する
アリが経験を通じて学習し、過去の敵対的な遭遇を記憶して行動を変化させることが、フライブルク大学の研究チームによる新たな研究で明らかになった。
実験に使用されたのは、ヨーロッパ全土に分布する、ごく一般的なクロアリとして知られている、ヨーロッパトビイロケアリだ。
まず最初に観察対象となるアリ(対象アリ)の群れを3つのグループにわけた。
各グループのアリは、1日1回、1分間の短い接触を5日間繰り返した。
生憎なこと攻撃的な競争相手と遭遇した対象アリは、相手から攻撃をしかけられ嫌な思いをすることになる。
この出会いのあと、全グループの対象アリに巣Aアリと対面してもらう。
すると案の定、巣Aアリと遭遇した第2グループの対象アリだけ、激しく攻撃的な行動を取ったのだ。どうやら最初の出会いで起きた嫌な経験をきちんと覚えていたようだ。
売られた喧嘩は買うし、後で遭遇しても敵対する
では、もし巣Aのアリが攻撃的でなければ、次の出会いも平和なものになったのだろうか?
研究者たちは「敵意」の度合いによってアリの反応が変わるかを調べるために、別の実験を行った。
一部の遭遇相手のアリの触角を切り落とし、攻撃的な行動を制限しておとなしくさせた。アリは触覚を切り落とされると攻撃性が低下するのだ。
すると、対象アリはこのおとなしい相手に対してはその後の出会いで攻撃的な態度を示すことがなかった。
一方、最初の出会いで一悶着あった対象アリは、その後の出会いで攻撃的な態度を示した。
こうした実験からは、アリにはきちんと記憶があり、過去の出会いから学んでいることを示している。そのときに嫌な思いをすれば、恨みを抱いて忘れないのだ。
アリはニオイで敵か味方か区別している
とういうことは、アリは目の前のアリが敵なのか、敵じゃないのかを見分けられるということになる。
過去の研究は、アリはニオイを利用して、自分の巣の仲間とよその巣の部外者とを区別していることを明らかにしている。
アリの巣にはそれぞれの独特のニオイがあり、アリはそれを嗅ぎ分けて、仲間か敵か判断しているようだ。
人間でもしばしば隣近所で仲が悪くなることがあるが、アリもすぐそばの巣のアリに対しては特に攻撃的になる傾向があるそうだ。
フライブルク大学のフォルカー・ネーリング博士は、「アリが単なるプログラムされたロボットのように振る舞うという考えは誤りだ」と語る。
この研究は、進化の過程でアリが競争や共存のバランスをどのように適応させてきたかを理解する上で重要な手がかりとなる。
今後の研究では、アリが嗅覚受容体をどのように適応させて記憶を反映するのかを深く追求する予定だという。
この研究は『Current Biology[https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(24)01595-1?_returnURL=https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0960982224015951?showall=true]』(2024年12月31日付)に掲載された。
References: Ants hold grudges, study suggests[https://phys.org/news/2025-01-ants-grudges.html] / Even ants may hold grudges | Popular Science[https://www.popsci.com/science/ants-grudges/]