
アメリカ、イエローストーン国立公園の道路付近で、首輪をつけた大きな黒い犬のような動物が目撃された。道路を駆け抜けようとしていたが、気づいたドライバーが車を停止した。
実はこの首輪はGPS付きで、犬と思われていたのは、公園で管理されている黒いオオカミだった。
イエローストーン国立公園では、一度は絶滅させてしまったオオカミを1995年に再導入するプロジェクトを開始し、現在は順調に生態系が回復している。
偶然現場に居合わせた野生動物写真家のマルセラさんがその瞬間を撮影した。オオカミたちはいま、この地にしっかりと馴染み、たくましく暮らしている。
絶滅を経験したイエローストーンのオオカミたち
かつてイエローストーン国立公園では、オオカミたちが自然の中で自らの役割を果たしながら自由に暮らしていた。しかし、20世紀初頭から害獣として駆除が進み、1926年には完全に姿を消してしまった。
オオカミがいなくなると、鹿やワピチ(キジリジカ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AF%E3%83%94%E3%83%81])など草食動物が増えすぎてしまい、川沿いのヤナギやヤマナラシ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%9E%E3%83%8A%E3%83%A9%E3%82%B7]が食べ尽くされ、湿地は荒廃。食物連鎖のバランスが崩れ、多くの生き物たちの住処が失われていった。
こうした生態系の乱れを回復させるため、1995年からカナダやモンタナ州から41頭のハイイロオオカミ(タイリクオオカミ)が再導入された。
以来、オオカミは順調に繁殖し、現在では100頭を超える群れが公園内で確認されている。
オオカミの復活によって、エルクの行動が変化し、過剰な採食が抑えられるようになった。これにより川沿いのヤナギやヤマナラシが大きく回復。北部レンジではヤナギの樹冠が1500%も増加した例もある。
さらに湿地が整いビーバーが繁殖。彼らの作るダムが湿地環境を改善し、渡り鳥やカワウソ、猛禽類など、多様な生き物が戻ってきた。
再導入から30年、オオカミはイエローストーンに定着
今回撮影されたのは、イエローストーン国立公園のヘイデン渓谷付近だ。
道路脇を大きな黒い動物が堂々と歩き、道路を横断しようとしていた。その首には個体管理用のGPS首輪がつけられていた。
ちょうどカーブの先から車が接近していたが、ドライバーが減速したことで無事に横断できた。
撮影したマルセラさんは「犬に見えたかもしれませんが、これはGPS首輪を付けた黒オオカミです」と説明。
SNSでは「こんな姿を見られるなんて感動」「オオカミが堂々と歩いているのが素晴らしい」など、多くの反響が寄せられている。
現在も公園ではGPS首輪やカメラを用いて、オオカミたちの行動や生態系への影響が継続的にモニタリングされている。
人と野生動物が共存するために
現在、国立公園外に出たオオカミが狩猟対象となったり、交通事故に巻き込まれるケースもあり、課題は残っている。
それでも再導入から30年が経ち、オオカミたちはこの場所にしっかりと根付いている。
「私たちは彼らの環境にお邪魔している存在」とマルセラさんは語る。観光客には引き続き安全運転と野生動物への配慮が求められている。
なぜ黒いオオカミが?
今回目撃されたオオカミは全身が黒い毛に覆われたいわばブラックウルフだ。
再導入されたのは「ハイイロオオカミ」だったはずだが、なぜ黒い個体がいるのだろうか?
実は「ハイイロオオカミ」という呼び名とは異なり、この種には白、灰色、茶色、黒色など、さまざまな毛色の個体が存在している。
なかでも北米大陸では黒毛のオオカミが比較的よく見られる。
黒毛はMC1Rという遺伝子の突然変異によって生まれたもので、森林や山地などでは黒い毛がカモフラージュ効果を発揮しやすいため、生存に有利に働く場面もあるようだ。
イエローストーン国立公園のオオカミについても、現在では黒毛と灰色の個体がほぼ半々の割合で確認されている。
再導入の際に黒毛のオオカミが含まれていた可能性は高いと考えられる。