
ある日のこと、アメリカで長距離を旅してきた大型トラックから、小さな命の鳴き声が聞こえてきた。
驚いて車体を調べてみると、後部にある突入防止装置の背後から、巣ごと旅してきた3羽のコマツグミのヒナたちが見つかった。
誰にも気づかれず、食べ物も水もない状態で15時間以上トラックに揺られて来たヒナたち。それでも彼らは生き延び、発見者に大声で餌をねだっていたという。
目的地についてみたら、トラックの下から鳴き声が…
2025年4月のある日のこと、アメリカのバージニア州からニューヨーク州のロングアイランドまで、約1,100kmの距離を旅してきたトラックが目的地に到着した。
ドライバーがトラックの車体を点検していたところ、どこからか小鳥のさえずりが聞こえてきたため、不審に思って車の後ろに回ってみた。
そこで彼は、ビックリ仰天する羽目に。なんとトラックのアンダーライドガードの後ろに、小鳥の巣と3羽のコマツグミのヒナが挟まっていたのだ。
ちなみにアンダーライドガードとは、一般車より車高が高いトラックなどに取り付けられる車両突入防止装置で、一般車がトラックに追突したとき、その下に潜り込む(アンダーライド)のを防ぐ枠のようなもの。車体下部の前後、または側面下部にとりつけられる。
コマツグミは、北アメリカ大陸に生息するスズメ目ツグミ科ツグミ属の渡り鳥。全長約25~28cm、体重約77gほどまで育つ。成鳥の胸元はオレンジ色になる。アメリカンロビンとも呼ばれている。
どうやら誰も気づかないうちに、コマツグミがトラックの隙間で巣を作り、卵を産み、子育てをしていたらしかった。
だが親鳥が目を離した隙に、ヒナたちを乗せたトラックが発車してしまい、そのままロングアイランドへ到着してしまったのだ。
鳥たちを発見したドライバーは、配送先のエグゼクティブ・アシスタント、ヌビア・ヴィラトーロさんに連絡を取った。実は彼女が以前にも、野生動物を保護したことがあったのを知っていたからだ。
どう説明したらいいかわからないけど、巣は固定されておらず、不安定な状態でした
ヴィラトーロさんが見ると、ヒナたちは大きな口を開け、餌を求めて鳴いていた。一刻も早く何とかしなければならない。
下のInstagramの投稿を右にスワイプしてもらうと、餌を求めて鳴くヒナたちの様子が見られる。
長旅を生き抜いた、生後2週間のコマツグミのヒナたち
ヌビアヴィラトーロさんはすぐに、地元の保護施設「スィートブライアー自然センター(Sweetbriar Nature Center)[https://www.sweetbriarnc.org/]」に連絡を取った。これまでの経験から、ヒナたちに最善なな場所がそこだと知っていたからだ。
同センターで野生動物のリハビリを担当するジャニーン・ベンディクセン所長はこう語る。
最初にヒナたちの旅の話を聞いたときは、彼らが生き延びたことが信じられませんでした。ヒナたちはおそらく、少なくとも15時間は飲まず食わずだったはずなんです
ヒナたちは生後2週間にも満たない幼さだったが、驚くほど健康状態は良かったという。
箱を開けた途端、みんな一斉に頭を上げて「ご飯をちょうだい!」って感じで大騒ぎだったんですよ
アメリカでは「渡り鳥条約法」により、渡り鳥たちは連邦政府によって保護されている。そのため、ヒナといえども保護・治療が行えるのは、連邦の認可を受けた施設のみなのだ。
幸い、スウィートブライアー自然センターはその資格を持っていた。ベンディクセン所長によると、通常は動物が運ばれてくる前に連絡が入ることが多いそうだ。
だが今回、ヴィラトーロさんはためらうことなくすぐにヒナたちをセンターに運び込んできたという。
こんな奇跡のような話を聞いてしまったら、このヒナたちを断ることなんて絶対にできませんでした
同センターに、「うっかり乗り物に乗って」しまったヒナたちが運ばれてくるのは、実はこれが初めてではないという。
だが、巣を丸ごと移動してきた鳥としては、今回が間違いなく最長記録だろう。 ベンディクセン所長は、ヒナたちが生き延びられたのは、コマツグミの丈夫な性質のおかげだと考えている。
この子たちはもともと、生き残るようにできているんだと思うんです。ほかのほとんどの鳥たちよりも、コマツグミはちょっとだけ強いんです
それでも所長は、この過酷な旅をヒナたちが生き延びたことに対し、驚きを隠せないでいるそうだ。
ヒナたちは日の出から日が沈むまで、30分ごとに給餌された。ヒナたちが成長するにつれ、スタッフは彼らが自力で餌をとれるように見守り続けた。
そして4週間後、野生に帰る時が来た
ある日突然、ヒナたちが「もうあなたのことなんて知らない! エサなんかもらわないよ!」って態度を取り始めたんです。
そうなった時、彼らを屋外にある鳥小屋に移すタイミングだと、私たちは判断しました
この屋外の鳥小屋とは、野生復帰への準備として、外の環境に慣れさせるための小屋である。
ヒナたちが保護されてから、あっという間に4週間という時間が過ぎていた。長旅の疲れを癒した彼らは、野生で生きていく術を、親鳥の代わりにスタッフたちから学んで行った。
そして5月も終わろうとするある晴れた日。鳥小屋の扉が広く開けられた。もうヒナたちは自由に飛んで行けるのだ。
放鳥の基準は、ヒナたちが自力で餌を食べられることと、天候が良いことです。そして彼らは、飛び立っていきます
ヒナたちの4週間を見守って来たフォロワーからは、感謝と祝福のメッセージが多数寄せられていた。
- あなたがたが彼らに与えてくれた愛と本能が、彼らを残りの道のりへと導いてくれますように
- 素晴らしいお仕事ですね。ありがとう!
- 本当にやりがいのある仕事だと思う
- それにしても何て大きな口!
- 虫の捕り方をどうやって教えるんですか?
- 土を入れた容器にミミズを入れておくんです(センターコメ)
- 雨が降るとミミズが地面に出てくるので、よく庭に鳥たちが集まっていたわ
- ミミズを与えるときは、親鳥がやるように殺してから小さく切り刻まないと
- 小さいうちはそうですが、巣立ったあとは丸ごと食べますよ(センターコメ)
- 本能ってすごいね
- 今頃きょうだいたちでいっしょにいるのかな
- きっと母鳥は、ヒナたちがどこに行ったのか不思議に思っているでしょうね
- かわいそうなお母さん、きっと探し回ったんじゃないかな
- 庭でコマツグミが子育てをしているのを見たことがある。親鳥は一日中ヒナたちの面倒を見ていたわ
- 在来種のコマツグミで良かった。外来種ならかわいそうなことになっていたでしょう
- この子たちは産まれたヴァージニアの訛りじゃなくて、ニューヨークの訛りを覚えたよね
- この素晴らしい旅を共有してくれてありがとう
センターではしばらくの間、ヒナたちが戻って来てもいいように餌を用意していたが、今のところ姿を見せたことはないそうだ。
少し寂しい気もするが、彼らが自然を棲み処とし、野生でたくましく生きているなら、それは喜ばしいこと。彼らの生命力を信じ、無事巣立ったことを祝いたい。
References: Employee Checking Box Truck Finds Nest Of Stowaways After A 700-Mile Journey[https://www.thedodo.com/daily-dodo/employee-checking-box-truck-finds-nest-of-stowaways-after-a-700-mile-journey]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。