
心の健康は現代社会において最大の関心事項の1つだ。その謎めいた性質は、世間の人々のほか、原因や治療方法を探る専門家をも困惑させて続けている。
うつ研究の1つのアプローチとして、免疫系や炎症に焦点を当てる方法が知られている。これは1990年代に発展したコンセプトで、炎症分子と、慢性疲労症候群などの慢性疾患との関連性に着目したものだ。
それから10年に渡って続けられた研究によって、この仮説を支持する炎症とうつの関連を示唆する証拠が積み重ねられてきた。中でも6,000名を対象に実施された2009年の研究は、炎症がうつ症状の発症に関与していることを示したものとして重要である。
炎症うつ理論が支持を集めるようになると同時に、社会的要因についての研究も進められている。昨年には、社会経済状況と肥満や糖尿病などの代謝異常を対象とした研究を基にして、うつとの関連性が検討された。そして、どの事例においても、経験的損傷であるか細胞損傷であるかを問わず、炎症が認められる場合は心の健康が悪化するリスクが高まることが判明した。
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このことから、脳の炎症による心理状態への影響が注目を浴びるようになる。斯くして、かつては脳科学のニッチ分野であった神経炎症というコンセプトが日の目を見ることになる。
しかし、日常における経験と炎症とうつの関連性についてはかなり理解が進んだようだが、そもそもなぜ分子レベルで炎症が起きるのかという問いは残ったままである。