
ポーランド南部のオブワゾヴァ洞窟で、初期人類(ホモ・サピエンス)が使用していたマンモスの牙から作られたブーメランが発見された。
その年代は約4万2,000~3万9,000年前の後期旧石器時代にさかのぼるとされ、これまで知られている中では世界最古のブーメランであるという。
このブーメランは飛ばしても、投げた人の元には戻ってこないタイプのもので、狩猟道具としてだけでなく、何らかの儀式に使用された可能性もあるという。
この研究は『PLOS One[https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0324911]』(2025年6月25日付)に掲載された。
洞窟で眠っていたマンモス牙のブーメラン
「オブワゾヴァ洞窟(Obłazowa Cave)」は、ポーランド南部の石灰岩の崖でこっそりと口を開けている。
その暗く湿った空間の中で発見された三日月のようなブーメランは、長さ70cmほど。
湾曲したマンモスの牙を丁寧に削り出して作られており、世界最古のブーメランかもしれないという。
このブーメランが発見されたのは1985年で、当時の放射性炭素年代測定では約1万8,000年前のものとされていた。
だが、最新の研究では、それよりさらに古いものであることが明らかになった。
新たな分析で約4万年前のものと推測
イタリア、ボローニャ大学のサハラ・タラモ博士を中心とする国際的な研究チームは、ブーメランが出土した層から発見された動物の骨やホモ・サピエンス(現生人類)の指の骨を対象に、ベイズモデルを用いた統計解析を実施。
ベイズモデルとは、観測データと事前の知識(仮定)を組み合わせ、確率的に最も妥当な結果や推定値を導く統計手法で、考え方の基盤はベイズの定理[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%82%A4%E3%82%BA%E3%81%AE%E5%AE%9A%E7%90%86]にある。
その結果、ブーメランの実際の年代は4万2,000~3万9,000年前の後期旧石器時代、氷河期(最終氷期のピークよりも前、農耕のはるか以前のものだと判明した。
「たとえ微量であっても、接着剤や保存処理に含まれる現代の炭素は、放射性炭素年代を数万年単位で狂わせてしまうことがあります」(タラモ氏)
また、ブーメランが出土した層から発見された人間の指の骨のDNAと放射性炭素分析を行い、少なくとも3万1000年前に生きていた現生人類であると判定しました。
この時代のヨーロッパ大陸には、まだネアンデルタール人が存在しており、現生人類(ホモ・サピエンス)はようやくこの大陸に進出し始めたばかりだった。
ブーメランの使用目的は?
このブーメランは、投げても手元には戻ってこないタイプのもので、遠くの獲物を仕留めるために特化した形状だ。
しかし、よく見ると表面には艶のある磨き跡やV字型の繊細な切れ込み、さらには旧石器時代においては儀式的・象徴的な行為と関連づけられる赤い顔料の痕跡もある。
使用目的は、単なる狩猟道具としてだけではなく、儀式的あるいは象徴的な意味もあった可能性があるという。
新たに判明したブーメランの年代は、4万3,000千年前~2万6,000年前にヨーロッパで広がった「オーリニャック文化[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%8B%E3%83%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E6%96%87%E5%8C%96]」の時期に当たる。
ホモ・サピエンスが担ったこの文化のものとしては、彫像・笛・ペンダント・装飾品などが多数見つかっており、現代人の象徴的行動が飛躍的に発展した時代だ。
そしてブーメランは、これまで知られていなかった新しいタイプの文化表現である可能性もある。
すなわち、形態・機能・表現が動きの中で融合しており、投げることが文化的行為だったのかもしれないのだ。
オブワゾヴァ洞窟自体もまた、1つの居住地というよりは、何度も異なる人類によって利用された“文化の重なり”を持つ場所だ。
ネアンデルタール人のムスティエ文化から、現生人類のオーリニャック文化まで、この洞窟の入口には、人類が繰り返し惹きつけられた痕跡が刻まれており、農耕以前の象徴的な意味を帯びた土地である。
初期のホモ・サピエンスの高い技術力
ブーメランといえばオーストラリア先住民のものが有名で、1万年前の木製のものが現存している。
一方、ヨーロッパでも「投棒」の類は出土しているが、ブーメランのように曲がった形状のものは珍しい。
オーストリアのシュティルフリート、デンマークのユトランド半島、オランダのフェルセンなどでそれに近いものが見つかってはいるが、オブワゾヴァ洞窟のブーメランほど丁寧に加工され、象徴性を備えたものはこれまでなかった。
研究チームは断定を避けつつも、意図的な形状加工・配置・装飾品との関連性(キツネの歯のペンダントや彫刻された貝殻など)から、単なる機能性を超えた意味合いがあるだろうことを示唆している。
シャーマン的な儀礼の一環として埋葬されたり、集団のアイデンティティを象徴するものとして扱われた可能性もある。
いずれにせよ、オーリニャック文化の地層に残されたブーメランは、当時のホモ・サピエンスが高い技術を持っていたことを裏付けるものだ。
References: Journals.plos.org[https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0324911] / World's Oldest Boomerang Found in Poland, More Than 40,000 Years Old![https://www.ancient-origins.net/artifacts-other-artifacts/poland-oldest-boomerang-0022223]
本記事は、海外の記事を参考に、日本の読者向けに重要な情報を翻訳・再構成しています。