
中国の国防科技大学が、蚊ほどの大きさしかなく、蚊にそっくりの極小ドローンを公開した。
羽と細い脚を持ち、カメラやマイクを搭載しており、通常のレーダーにも写りにくい特性を持っている。
この極小(マイクロ)ドローンは、都市部や室内といった従来のドローンが苦手とする環境でも監視、偵察することを可能にするという。
その一方で、個人情報の盗難や企業への侵入といったリスクも指摘されており、技術の進歩と倫理の課題が同時に問われる局面にある。
蚊にそっくりの超小型ドローン
中国湖南省長沙市にある国防科技大学(NUDT)が開発したのは、蚊を模した超小型ドローンだ。
黒い縦長の本体に2枚の羽、そして髪の毛のように細い3本の脚を備えており、自然界の蚊にそっくりの外見を持つ。
NUDTの学生リャン・ホーシャン氏は、中国の国営メディアCCTVの映像で「私の手の中にあるのは蚊のようなロボット。こうした小型バイオニックロボットは、情報偵察や特殊任務に特に適している」と語った。
バイオニックとは、生物の動きを模倣する技術のことで、このドローンは羽ばたきによる飛行が可能だ。
都市戦や屋内任務にも対応、ただし問題点も
このドローンは超小型カメラやマイクを内蔵し、映像や音声、電子信号を収集する能力を持つ。
そのサイズの小ささゆえに、人間にはほとんどドローンと識別できず、一般的なレーダーにも映りにくいという特性がある。
都市部の建物内や狭い空間といった従来のドローンが入りにくい場所でも活動可能とされ、情報収集や監視、捜索救助、電子偵察など、多様な用途が想定されている。
一方で、ドローンの小型化に伴う技術的課題も大きい。
電源システムや通信機器、センサー類を極小サイズにまとめる必要があり、高度な工学技術が要求される。特にバッテリーの持続時間や信号の送受信範囲といった点は今後の課題となる。
極小ドローンのリスク
こうした極小ドローンの開発には、セキュリティ面での懸念も多い。
米ジョージタウン大学の研究員サム・ブレスニック氏は、「このドローンは室内のような大型機が入りにくい場所でのスパイ活動に使われる可能性がある」と指摘。
また、米ランド研究所の上級防衛研究員ティモシー・ヒース氏は、犯罪者による個人情報や企業情報の盗難にも利用されかねないと警告。
ただし、こうした極小ドローンは航続距離や稼働時間に限界があるため、実際に長期間のスパイ活動を行うには、充電や再展開、データ収集の継続的な作業が必要であり、運用には手間がかかるとも述べている。
極小ドローンの開発は各国で行われている。
アメリカやノルウェーなど各国も、軍事・非軍事の両分野でこの技術に注力している。
ノルウェーの「ブラックホーネット(Black Hornet)」はその代表例だ。
この手のひらサイズのドローンは、西側の多くの軍隊で近距離の偵察用に使用されており、最新型の「ブラックホーネット4[https://www.flir.co.uk/products/black-hornet-4/]」では耐久性や航続距離が大幅に向上している。
この機体は米国防総省の「Blue UAS Refresh 2025賞」を受賞しており、バッテリー寿命や悪天候への耐性、通信範囲の強化といったマイクロドローンの課題を克服している。
アメリカではハーバード大学が「ロボビー(RoboBee)[https://wyss.harvard.edu/technology/robobees-autonomous-flying-microrobots/]」という羽ばたき式の超小型ドローンを発表済みで、飛行や着地だけでなく水面から空中への移行も可能だ。
また、米空軍も2021年に極小ドローンの開発を進めていることを認めたが、具体的な成果や配備の情報は明かされていない。
これらの極小ドローンは悪用されると非常に危険だが、軍事以外の分野で重要な役割を果たすと期待されている。
たとえば医療では、手術、薬剤投与、診断、画像撮影に活用する研究が進められている。
さらに、環境監視では汚染状況の追跡、農作物のモニタリング、災害対応への応用も視野に入れられている。
中国のドローン戦略
今回の“蚊型ドローン”の発表は、中国が2025年4月に公開した空中母艦「(Jiu Tian SS-UAV)」に続くものである。
これは全幅約25mの航空機型ドローン母艦で、100機以上のドローンと約1トンのミサイルを上空から発射できる能力を持ち、各国の中距離防衛システムを超えて作戦行動をとることを想定している。
中国は大型と極小、双方の無人機技術を同時に進化させ、戦略的に複雑な戦術の先鞭を切ろうとしているようだ。
References: Interestingengineering[https://interestingengineering.com/military/chinese-military-unveils-mosquito-sized-drones] / Scmp.com[https://www.scmp.com/news/china/science/article/3315206/chinese-military-robotics-lab-creates-mosquito-sized-microdrone-covert-operations]
本記事は、海外メディアの記事を参考に、日本の読者に適した形で補足を加えて再編集しています。