3万年以上前、ホモ・サピエンスは舟で日本列島にたどり着いたことを実証(日本研究)
当時の丸木舟を作り、実際に海を渡る実験を行う 2025 Kaifu et al. CC-by-ND

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 3万8000年前頃、日本列島に現れたとされる現生人類、ホモ・サピエンスだが、彼らは海を渡って辿り着いたと考えられている。

 2019年に実施された「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト[https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z1304_00299.html]」では、当時の丸木舟を再現して航海し、それが実際に可能だったことを実証している。

 同プロジェクトの締めくくりとなる2本の論文では、当時の黒潮は現在のものよりも流れが速かったことが明かされた。

 それでもなお、当時の人類は、熟練の技と知恵で丸木舟を作り、黒潮に挑み台湾から琉球諸島にたどり着くことができたようだ。

 旧石器時代のホモ・サピエンスは無謀な冒険者などではなかった。高度な舟作りの技術を持ち、黒潮の流れを読み取る戦略性を兼ね備えていたようだ。

旧石器時代の丸木舟で黒潮を横断することは可能なのか?

 人類はいつ頃、大海原へと船出するようになったのか?

 これまでの研究では、人類の本格的な海洋進出は、後期旧石器時代(5万~3万年前頃)にインドネシア東部を含む、オーストラリアから日本列島にかけての西太平洋地域で始まっただろうことが明らかにされている。

 たとえば、奄美群島・沖縄諸島・宮古列島・八重山列島で構成される琉球諸島には、27,500~35,000年前の遺跡が存在する。

 つまりその時期までには、私たちの祖先、旧石器時代のホモサピエンスは海を渡っていたということだ。

 だがその海は秒速1~2mで流れる世界最大規模の海流「黒潮」に阻まれた難所で、隣の島が見えないほど広い海峡もある。

 旧石器時代の人類の技術で、本当にこの難しい海を航海できたのか確かなことはわからなかった。

 それを実際に船で渡って実証したのが、2016~2019年に国立科学博物館(当時)の海部陽介氏が中心となって行われた「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト[https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z1304_00299.html]」だ。

 同プロジェクトでは、旧石器時代の道具で製作した丸木舟で、台湾から与那国島までの約200kmを横断する実験を行った。

 その結果、当時の技術でも、黒潮が流れる難しい海を本当に渡れることを見事に証明した。

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技術、熟練の技、そして時の運

 今回海部氏らによって新たに発表された2本の論文は、このプロジェクトの締めくくりとして発表されたものだ。

 1本目の論文は、今述べた丸木舟の公開実験を学術的な分析を交えて報告している。

 それによると、2019年の航海の成功は、丸木舟と漕ぎ手の熟練した技術はもちろんのこと、運の要素も大きかったことを伝えている。

 というのも、漕ぎ手の疲労がピークに達した航海の終盤、休憩を入れた際、うまい具合に船が与那国島に流されてくれたのだが、海流分析の結果、これはたまたま後ろからやってきた長波のおかげだったことが分かったのだ。

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旧石器時代、黒潮は今よりも速かった

 2本目の論文では、現代の海ではなく3万年以上前の海で、なおかつ出発地や時期を変えても同じことが可能だったのかが検証された。

 そのために研究チームは、海洋研究開発機構のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を使い、3万年前の黒潮の流れを再現している。

 すると古代の黒潮は現代よりも速かったことが判明したのだ。

 ただし、その流れはやや東(与那国島の方向)に傾いており、流れに逆らうように航路を東南にとり根気よく漕ぎ続ければ、与那国島に到達できる可能性が高いことも示されている。

 さらに出発地点も、2019年に選ばれた「烏石鼻」よりも、やや北にある「太魯閣」付近のほうが、流れに乗る上で有利であることが分かったという。

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旧石器時代の人類は戦略的な航海者だった

 こうした研究で明らかになったのは、後期旧石器時代の人々は、彼らが持つ技術を駆使することで、丸木舟で黒潮流れる海を渡り、琉球諸島にたどり着けたということだ。

 ただしそのためには、彼らが熟練の船乗りであるだけでなく、黒潮という自然の障壁の存在を知り、それに対処するための作戦を持ち合わせている必要があった。

 このことは、数万年前に大海原へと漕ぎ出した私たちの祖先は、無謀な冒険者などではなく、戦略性のある挑戦者だったことを示唆しているとのことだ。

 この2本の研究は『Science Advances』(2025年6月25日付[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adv5507]、2025年6月25日付[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adv5508])に掲載された。

References: Um.u-tokyo.ac.jp[https://www.um.u-tokyo.ac.jp/research/umutnews/20250626.html] / U-tokyo.ac.jp[https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z1304_00299.html] / Science[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adv5507] / Science[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adv5508]

本記事は、海外の情報を基に、日本の読者向けにわかりやすく編集しています。

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