ガラパゴスの野生トマトに進化の巻き戻し。数百万年前に持っていた毒を再び復活させる
ガラパゴス諸島で野生化したトマトに進化の巻き戻しが起きている / Image credit: Adam Jozwiak/UCR

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 ガラパゴス諸島の火山島でかつて失われたはずの毒素を再び作り出している野生のトマトが見つかった。

 カリフォルニア大学リバーサイド校の研究によると、数百万年前のトマトが持っていた化学防御機能を復活させ、現代のトマトには見られない有毒成分を作り出しはじめたという。

 研究チームはこれを「進化の逆転」と呼んでいる。通常、進化とは一方向に進む適応プロセスを指すものだが、かつて失われた特徴がまったく同じ遺伝的経路で復活するのは極めて珍しいことだ。

 ガラパゴスのトマトにいったい何が起きているのか?

 この研究は『Nature Communications』誌(2024年6月に掲載された。

進化を巻き戻し、古代のアルカロイドを作るようになったトマト

 ガラパゴスのトマトに見られる「進化の逆転」は、「アルカロイド[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89]」と呼ばれる化合物に関連するものだ。

 アルカロイドとは、植物が作り出す苦味のある天然の化合物で、害虫や動物の食害を防ぐ防御物質だ。

 トマト、ナス、ジャガイモなどのナス科植物に多く含まれ、種類によっては人間にとっても有毒となる場合がある。

 ガラパゴス諸島のトマトは、現代のトマトとは異なる“古い型”のアルカロイドを作っている。

 ガラパゴス諸島は、動物にとっては捕食動物が少ない場所だ。だが植物については必ずしもそうではなく、トマトはアルカロイドで身を守る必要があった。

 一方で、人間にとって大量のアルカロイドは有毒であり、作物としてその量を一定程度に抑えておきたい。それが今回の研究が行われた背景となっている。

 カリフォルニア大学リバーサイド校の研究チームは、ガラパゴス諸島内の複数地点から30以上のトマトのサンプルを収集・分析した。

 その結果、東側の島々では現代のトマトと同じアルカロイドが作られていたが、西側の島々では、ナスに見られるような古代型アルカロイドが生成されていることを確認した。

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島の環境がトマトの化学防御を変えた

 なぜ東側と西側の島々のトマトが生成するアルカロイドに違いが出たのか?

 その理由は島の環境にあると考えられている。

 東側の島々は地質的に古く、土壌が発達していて栄養が豊富だ。植物や動物の多様性も比較的高く、安定した環境と言える。こうした場所では、現代型のアルカロイドでも十分に防衛機能が働いていた。

 一方、西側の島々は比較的新しい火山島で、土壌はまだ未熟で栄養が乏しい。生物多様性も低く、植物にとっては生き残るのが厳しい条件だ。

 このような過酷な環境では、通常のアルカロイドだけでは害虫や微生物、動物の食害を防ぐのに不十分だった可能性がある。

 そこで、古代型アルカロイドを作る能力を持ったトマトが、自然選択の中で有利となり、その特徴が広がっていったのだ。

 つまり、進化の方向を決めたのは環境そのものであり、古代型アルカロイドが最も適した防御手段として「選び直された」と言えるだろう。

 その進化の方向を確かめるために、研究チームが現代のDNAから祖先のトマトの特徴を推定してみたところ、西側の島々のトマトの特徴とピッタリ一致することが確認されている。

 つまりガラパゴスの西側の島々のトマトは、進化が逆戻りした可能性が高いということだ。

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たった4つのアミノ酸を変えるだけで古代型アルカロイドに

 アルカロイドの違いのカギは「立体化学」にある。

 まったく同じ原子を持つ分子であっても、その空間的な配置が異なることで、まったく異なる働きを持つようになるのだ。

 今回の研究では、アルカロイド分子を合成するトマトの酵素を分析し、たった4つのアミノ酸を変えるだけで、この古代型アルカロイドに切り替わることが判明している。

 また実験として、この酵素の情報をもつ遺伝子をタバコに移植したところ、同じ古代型アルカロイドが作られることが確認されたという。

進化は一方通行ではないのか?

 なお進化の逆転は科学的に完全に証明された理論ではなく、懐疑的な意見もある。

 ヘビ・魚類・細菌などで古い特徴が復活する事例はいくつか確認されているが、ガラパゴスのトマトほど明確で、化学的にも正確な事例は滅多に見られない。

 だが、研究チームは、遺伝的・化学的な証拠が祖先の状態への戻っていることを示していると主張する。

これは進化という現象が思っている以上に柔軟であることを示しています(カリフォルニア大学リバーサイド校 アダム・ジョズウィアク氏)

 ジョズウィアク氏によると、生命はときに「過去に手を伸ばすことで前に進む」ことがあるのだという。

 しかも驚くべきことに、環境が大きく変化すれば、人間にもこうした“進化の逆転”が起こることはあると理論上は考えられるのだそうだ。

追記:(2025/07/03)タイトルを一部訂正しました。

References: Nature[https://www.nature.com/articles/s41467-025-59290-4] / News.ucr.edu[https://news.ucr.edu/articles/2025/06/23/tomatoes-galapagos-are-de-evolving]

本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。

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