宇宙葬のカプセルが大気圏突入に失敗。166名分の遺灰が失われる
宇宙葬の為の遺灰が乗せられたカプセル/ Image credit:<a href="https://www.exploration.space/nyx" target="_blank">NYX</a>

宇宙葬のカプセルが大気圏突入に失敗。166名分の遺灰が失われ...の画像はこちら >>

 樹木葬や海洋散骨、山林散骨など、故人を送る葬送のかたちは、時代とともに多様化してきている。

 そして今、「宇宙葬」という新たな方法が、供養の選択肢の一つとして脚光を浴びるようになってきた。

 だが宇宙葬にはまだ技術面や費用面、そして倫理面での課題も多く、誰でも気軽にできるというものではないようだ。

 2025年6月、166名分の遺灰を乗せて宇宙へと打ち上げられた実験機のカプセルが、大気圏に突入後に太平洋へ墜落した。

 これらの遺灰は宇宙を旅し、遺族のもとに戻る「アース・ライズコースのものだったが、海で永遠の眠りにつくこととなった。

遺灰を乗せたカプセルがロケットで打ち上げられる

 2025年6月23日、イーロン・マスク氏がCEOを務めるスペースX社のファルコン9ロケットが打ち上げに成功した。

 今回の打ち上げは、「トランスポーター(Transporter)‑14」と呼ばれる相乗りミッションを目的としており、複数の依頼主から預かった約70の積み荷を、宇宙に届けるためのものだった。

 積み荷の中には、ドイツの「エクスプロレーション・カンパニー(Exploration Company)」という企業のプロトタイプカプセル、「NYX[https://www.exploration.space/nyx]」が含まれていた。

 NYXは有人宇宙探査を目指す同社が開発中の再突入用実験機で、カプセルの中には166人分の遺灰とDNAサンプルが格納されていた。

 これらの遺灰やDNAサンプルは、宇宙葬を専門に扱うアメリカの企業、「セレスティス(Celestis)[https://www.celestis.com/]」社が遺族から託されたものである。

 DNAサンプルが含まれているのは、信仰上の理由などで火葬を希望しない故人に向けたサービスだという。

 ファルコン9の打ち上げは成功し、NYXは地球を回る軌道上でロケットから分離。当初の予定通り、地球を回る軌道を2周した。

[画像を見る]

地球への再突入後パラシュートが開かず海に落下

 これらの遺灰は、大気圏に再突入した後、遺族の待つ地上へと帰還する……はずだったのだが、ここでトラブルが発生した。

 再突入そのものはうまく行ったのだが、その後大気圏内でパラシュートが開かず、カプセルはそのままのスピードで海に墜落してしまったのだ。

 もちろん肝心の遺灰やDNAサンプルもカプセルの中に積まれたまま。

一緒に海に落下してしまい、回収できる見込みはなくなった。

 セレスティス社は、地上で故人の遺灰の帰りを待っていた遺族に対し、次のような声明を発表した。

現時点では、カプセルの回収は難しいと考えています。ご遺族の皆さまには、愛するご家族が歴史的な旅の一部となり、宇宙へと打ち上げられ、地球を周回し、今は伝統的で敬意のこもった海への散骨のように、太平洋という広大な海に眠っておられることを知って、少しでも安らぎを見いだせることを願っています

[動画を見る]

さまざまなコースから選べる「宇宙葬」

 セレスティス社は1997年から宇宙葬を手がけており、「スタートレック」のプロデューサー、ジーン・ロッデンベリー氏や、天文学者のユージン・シューメーカー博士の遺灰も宇宙へ送られている。

 さらに2024年には、ジョージ・ワシントンやジョン・F・ケネディ、ドワイト・D・アイゼンハワー、ロナルド・レーガンの4人の元アメリカ大統領を含む、330人分の遺灰や遺髪も宇宙へと旅立ったという。

 セレスティス社が提供する「宇宙葬」にはいくつかのコースがあり、料金はその内容や打ち上げ場所などによって変わってくる。

アース・ライズ
単に無重力状態を「体験」して地球へ戻って来るだけのコース
3,495ドル(約50万円)から

アース・オービット
地球を回る軌道に乗るコース。数か月~数年の間地球を回った後、大気圏に再突入して流れ星のように燃え尽きる
4,995ドル(約72万円)から

ルナ
月の周回軌道、あるいは月面へ打ち上げるコース。夜空の月を見上げる度に、故人に思いを馳せられる
周回軌道:12,995ドル(約187万円)から
月面着陸:49,995ドル(約720万円)から

ボイジャー
深宇宙へと打ち上げるコース。太陽系やその先の宇宙へと永遠に旅をする
12,995ドル(約187万円)から

 月面着陸は少しお高いけれど、遺灰を宇宙に送るだけなら、葬式代くらいで何とかなりそうな感じである。

 ちなみにもちろん、遺骨を丸ごと宇宙に送れるというわけではなく、お値段にもよるが1~7gの遺灰を小さな容器に入れてロケットに乗せることになるわけだ。

[画像を見る]

宇宙葬の課題

 実はセレスティス社が遺灰の入った積み荷を失ったのは、今回が2回目である。一度目は2023年に、ニューメキシコ州上空で爆発する事件があったという。

 NYXカプセルを開発したエクスプロレーション・カンパニーは、今回の事故を教訓としながらも、さらなる挑戦の歩を続けていくと明言している。

私たちは、これまでにないスピードとコストで限界に挑戦してきました。今回の「部分的な成功」は、私たちの野心とイノベーションに常につきまとうリスクの両方を物語っています。

今回達成された技術的マイルストーン、そして現在進行中の調査から得られる教訓をもとに、できるだけ早く再飛行の準備を進めていきます 

 宇宙葬に既に28年もの歴史があるのも驚きだが、埋葬方法の多様化が進む現代、こうしたビジネスはこれからどんどん広がっていくのかもしれない。

 だが今回の事故で、いくつかの課題も見えてきた。

 遺灰やDNAといった有機物を、月面や深宇宙へと送ることの是非、今回のように再突入に失敗して、遺族のもとへ返せなくなる可能性。

 更には軌道上でロケットやカプセルにトラブルが発生した場合、遺灰やDNAごとスペースデブリ(宇宙ゴミ)と化してしまうリスクや、宗教・倫理上の問題などだ。

 そして宇宙に送れる遺灰の量はほんの少しであることから、これを「宇宙葬」と呼んでいいものかといった議論もある。

[画像を見る]

それでも宇宙葬を望む人は多い

 だが「宇宙空間で永遠の眠りにつく」というシチュエーションには、抗いがたい魅力があるのも事実である。

 それが故人の希望だとしたら、叶えてあげたいと思う遺族も多いのではないだろうか。

 宇宙はロマンに満ちた場所であり、「いつか一度は行ってみたい」と夢見ている人も多いはず。だが今のところ、誰でも気軽に宇宙旅行を楽しめる時代はもう少し先になりそうだ。

 日本でも海への散骨や樹木葬などは少しずつ行われるようになってきているが、みんなは死後、宇宙に打ち上げてもらえるとしたら頼みたい?

追記:2025/07/05

 冒頭の記述に矛盾があったため、訂正して再送します。

References: Human remains lost after memorial spaceflight capsule crashes into the sea[https://www.space.com/space-exploration/private-spaceflight/human-remains-lost-after-memorial-spaceflight-capsule-crashes-into-the-sea]

本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。

編集部おすすめ