
完全なダイアウルフの復活とはいかないまでも、古代のDNAを使い、タイリクオオカミの遺伝子を改変させて誕生した、3頭の「ダイアウルフ」風オオカミの現在の状況が届いた。
約1万年前に絶滅したダイアウルフを生み出した、米バイオテクノロジー企業「コロッサル・バイオサイエンシス社」からの最新の報告によると、生後6ヶ月となったロムルスとレムス、妹のカリーシと共にすくすくと成長しているそうだ。
体に宿したダイアウルフの遺伝子のおかげで、通常のタイリクオオカミより2割程度、体が大きく、そこに古代のオオカミの姿を見ることができるという。
ダイアウルフ風オオカミはすくすく成長中
コロッサル社は、1万年前に絶滅したとされる「ダイアウルフ」を復活させたと発表した。
2024年12月に、オスのロムルスとレムスが誕生し、2025年初頭に妹のカリーシが誕生。現在は3頭ともコロッサル社の極秘保護区で暮らしている。
今回、同社が公開した最新の動画では、動物部門責任者マット・ジェームズ氏が生まれた3頭の近況を報告した。
3頭とも元気にすくすくと成長していると伝えている。
この動画を撮影した時期は、ロムルスとレムスが生後6か月を少し過ぎたところで、体重は41kgだったという。
これは、通常のタイリクオオカミ(ハイイロオオカミ)より20%ほど大きい。
ジェームズ氏によると、ダイアウルフの遺伝子が確実に作用していて、古代の個体に近い大型のオオカミが育ってきているという。
一方で妹のカリーシは少し小柄で、体重は16kg。やはり通常のハイイロオオカミのメスより10~15%ほど大きいという。
将来的にはこの子も兄たちと一緒に育てる予定であるとのことだ。
本当にダイアウルフが復活したのか?
コロッサル社は、古代DNAから特徴的な遺伝子配列を特定し、それを現存するタイリクオオカミのDNAに組み込むという合成生物学の手法を用いて、ダイアウルフを誕生させた。
コロッサル社はこれを”復活”と主張しているが、これが本当に絶滅したダイアウルフそのものであるかについては議論のあるところだ。
3頭のオオカミたちは、14の遺伝子に20か所の改変を加えられたいわば”遺伝子編集タイリクオオカミ”であり、見た目や体格が古代の祖先に近いというだけにすぎない。
ニュージーランドのオタゴ大学で古代DNAを研究するニック・ローレンス准教授[https://www.sciencemediacentre.co.nz/2025/04/08/company-claims-to-have-de-extincted-the-dire-wolf-expert-reaction/]は、「本当に絶滅種を復活させるにはクローン技術が必要ですが、絶滅動物のDNAは保存状態が悪すぎて、現時点でそれはできません」と語っている。
なぜダイアウルフ風オオカミを作るのか ― 絶滅種復活の意義
タイムマシンでもない限り、本当の絶滅種を復活させることはできない。だが、コロッサル社の遺伝子工学は、絶滅危惧種保全の新たな道を切り開きつつある。
1つ考えられるのは、この”脱絶滅”技術をほかの絶滅危惧種を守るために応用できる可能性があることだ。
たとえば、絶滅が危惧される「アメリカアカオオカミ」は、野生の個体が20頭未満しか残っていない[https://www.fws.gov/project/red-wolf-recovery-program]が、コロッサル社のクローン技術によって新たに4頭の子オオカミが誕生している。
ホープ、ブレイズ、シンダー、アッシュと名付けられた子供たちのDNAは、100%アメリカアカオオカミのもので、これによって既存の個体群の遺伝的多様性が25%向上した。
またアフリカに生息する「キタシロサイ」もまた近絶滅種に分類されるが、コロッサル社が保存された精子と卵子を用いて胚を作るという取り組みを進めている。
将来的には近縁種のミナミシロサイの代理母を用いて繁殖を目指すという。
復活技術への期待と懸念
このような野心的な計画は常に批判にさらされる。
それは今はまず、守らなければならない絶滅に瀕した動物がたくさんいるという現実や、現在の生態系に存在しない生き物を復活させることの是非を考えれば無理からぬことだ。
しかもコロッサル社が生み出した「ダイアウルフ」は厳密には本物ではなく、ダイアウルフ風オオカミだ。
それでも、その技術がほかの絶滅危惧種の命を救う鍵となる可能性はある。
だからこそ、私たちはその技術がもたらす結果に対し、懐疑と期待の両方を持って向き合う必要があるのかもしれない。
いずれにせよ誕生したダイアウルフ風オオカミには何の罪もない。この世に生を受け、存在した以上、その命を全うして欲しい。
彼らが仲良くじゃれあったり、おもちゃで遊んでいる姿はとてもかわいらしいし、尊い命だ。
以下の動画はメスのカリーシの成長記録である。
ダイアウルフとは?
ダイアウルフ(Dire Wolf)は、約30万年前から1万年前まで北米を中心に生息していたイヌ科の絶滅種である。
体長はおよそ125cm、体高は約80cmで、現代のタイリクオオカミよりも骨格ががっしりとしており、非常に強力なあごを持っていた。
大型の草食動物を群れで狩る捕食者だったと考えられている。ロサンゼルスのラ・ブレア・タールピット(天然アスファルトの罠)で多くの化石が発見され、研究が進められてきた。
ダイアウルフが絶滅した理由は、主に約1万年前に起きた気候変動とそれに伴う生態系の変化によるものと考えられている。
氷河期の終わりに多くの大型草食動物が絶滅し、主な獲物を失ったダイアウルフは食料不足に陥った。
さらに、同じ時代に生息していたオオカミなど他の捕食者との競争も激化し、こうした複合的な要因が重なり、最終的に絶滅に至ったと考えられている。
References: Colossal[https://colossal.com/direwolf/]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者がより理解しやすいように情報を整理し、再構成しています。