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報酬を得て、見ず知らずの他人を冷酷に淡々と殺していく「殺し屋(ヒットマン)」という稼業はフィクションの中だけに存在するわけではない。殺し屋は実在するのだ。
中には、自ら止むに止まれぬ事情で殺し屋となった者もいる。犯罪に染まった彼らの人生の不幸な副産物がたまたま請負殺人だったという者もいる。報酬がすべてという者もいれば、趣味と実益を兼ねているといった物騒な者もいる。
彼らが殺し屋稼業に手を染めるようになった理由はなんであれ、仕事をこなしていくうちに、良心は麻痺しまってしまうのだろう。そして結局、彼ら自身の多くもまた、最後には別の殺し屋の手にかかり倒れることになる。因果応報ということなのだろうか。
それでは実在した殺し屋たちに関する事実を前編、後編にわけて見ていこう。今回は前編であり5人のヒットマンが登場する。
【10. チェスター・ウィーラー・キャンベル(アメリカ)】
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Mobb Ties ep.62 Chester Wheeler Campbell
チェスター・ウィーラー・キャンベルは、お金で殺しを請け負い、50人以上を殺したと言われている。
珍しく一匹狼の殺し屋で、マフィアや金を払ってくれる相手なら誰の仕事でも請け負った。依頼主は、麻薬がらみのギャングが大半で、それだけの金を払う余裕がある者たちだった。1968年には、現在の金額にして11万ドル(およそ1100万円)もの報酬で殺しを引き受けた。
キャンベルは天才レベルのIQをもち、自由な時間には美術館や図書館を巡り歩き、外国語を勉強したりしていたという。だから、ほかの職業に就けなかったわけではないようにも思える。
当面、キャンベルはマーダー・ロウ・ギャングの殺し屋とその麻薬取引時の用心棒になった。1975年、些細な交通違反で停車を求められたとき、スピードをあげて逃げ出した。ついに捕まったとき、ピストル2挺、ライフル1挺、銃身を短く切った散弾銃、そしてヘロインが車から見つかった。
さらに、300人以上の警官と官僚の名前や住所が書かれたたくさんのノートも発見された。そのうちの何人かは最近の殺人事件の犠牲者たちで、ノートには、ターゲットの日常の習慣など事細かに観察したメモや、おびただしい数の機密警察文書が含まれていた。
キャンベルが請け負った殺しのターゲットリストには300人の名前があげられていて、一部は遂行済みだったという。1984年に釈放された後、すぐにキャンベルは生活のために殺し屋の仕事に戻り、再びカーチェイスのあげく逮捕された。1987年、キャンベルは終身刑を宣告された。
【9. バグジー・シーゲル(アメリカ)】
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Mobster "Bugsy" Siegel - A brutal killer & a smart businessman
ベンジャミン・"バグジー"・シーゲルは、禁酒法時代のもっとも悪名高き殺し屋。ラスベガスの象徴フラミンゴ・カジノを作った。
彼は、密輸やギャンブルだけではなく、請負殺人によっても財産を築いた。
ラッキー・ルチアーノのようなマフィアのボスの下で働きながら、多くのマフィアを殺してきた。その中には、1931年にはシシリアマフィアのジョー・"ザ・ボス"・マセリアのライバル殺しもあった。
シーゲルは、仲間の殺し屋のマイヤー・ランスキーと組んで、新しいタイプの犯罪組織を率いた。殺し屋の仮面を不動のものにして、マーダー・インク(殺人株式会社)として知られるようになるビジネスを確立したのだ。
この組織の目的は、有償で指定されたターゲットを脅迫し、傷つけ、殺すことで、全国のどんなマフィアでも利用することができた。商売はうまくいっていたが、それも警察の密告者によって明るみに出るまでのことだった。彼らは明らかに70件の殺人に関わっていたが、実際はこれより遥かに多いと言われている。
シーゲル自身も、例にもれず銃弾を浴びて死んだ。パートナーの命で殺されたのは明らかだった。シーゲルがビバリーヒルズで死んだのとほぼ同時に、マイヤー・ランスキーら3人がフラミンゴ・ホテルに入り、乗っ取りを宣言した。
【8. チャールズ・ハレルソン(アメリカ)】
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Hitman Charles Harrelson on the assassination of JFK
チャールズ・ハレルソンは、ふたつのことで有名だ。
オスカーに3度もノミネートされた今も活躍中の俳優、ウディ・ハレルソンの実の父親だということと、そして本人自身がプロの殺し屋だったことだ。
ハレルソンは、テキサスの麻薬組織のボス、ジミー・チャグラに雇われたマフィアお抱えの殺し屋であり、初めての殺しのターゲットは、アメリカの現職の連邦判事だった。
チャグラは麻薬密輸の罪で、麻薬ディーラーにはとりわけ厳しいことで知られる判事のジョン・H・ウッド・ジュニアに裁かれることになっていたが、タイミングのいいことに、判事は脊髄に一発の銃弾を受けて死んだ。ハレルソンが、強力なライフルと照準器を使って、家の外から判事を狙ったのだ。
ハレルソンは、1981年に判事殺害の罪で有罪になり、チャグラ共々終身刑を言い渡された。しかし、チャグラは、判事殺人を共謀した罪は免れ、ほかの麻薬絡みの事件についてFBIと司法取引して、証人保護プログラムに入った。
ハレルソンは、ほかにも多くの殺人を請け負ったことが知られている。アラン・ベルグの殺人は免れたが、1968年のサム・デゲリア・ジュニアの殺人では有罪になった。
ハレルソンは、ジョン・F・ケネディ暗殺の直後、写真に撮られた謎の3人の浮浪者のひとりだったのではないかと言われている。彼自身がかつて、自分はケネディの暗殺実行犯だと言っていたというが、そのような主張をしても、なにかメリットがあるとは思えない。
1995年に刑務所から脱獄しようとして失敗した後、ハレルソンはコロラド州の大規模刑務所に移送され、そこで2007年に心臓発作で死んだ。
【7. クリストファー・デール・フラナリー(オーストラリア)】
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Underbelly - All of Chris Flannery Kills
オーストラリアでもっとも多くを殺した殺し屋と言われている。
フラナリーは、ヴィクトリアで生まれ育ち、十代の頃、押し込み強盗、車泥棒、警官襲撃、銃器携帯、性的暴行で、初めて有罪判決を受けた。
7年服役した後、フラナリーはナイトクラブの用心棒の仕事に就くが、つまらなくなって、すぐに殺し屋へと移行した。1981年、フラナリーは弁護士殺害の罪で起訴されたが、その弁護士の遺体は見つからず、放免された。
2年前の暗宿のオーナー殺しの容疑者として、またしても逮捕されたが、最初の陪審員は彼を有罪にすることはできず、再審が要求された。
フラナリーは特定の裁判官に裁かれるのを避けるために、病気だという診断書を書くよう医師を"説得"し、裁判を延期させて、別の裁判官が担当になるよう謀った。その医師は正義の道から外れたかどで逮捕されたが、フラナリーは再審を免れた。
1984年まで、フラナリーはシドニーギャングの抗争に関わった。警察は、抗争の終結について交渉しようとしたとされているが、フラナリーはそれを拒み、「あんたたちは、あのかわいいコアラみたいに守られている存在じゃないんだぜ」と言って、逆に警察を脅したという。結局、抗争は長引き、さらに多くの血が流れた。
フラナリーは、少なくとも12件の請負殺人に関わっているという。彼は1985年5月にタクシーに乗り込んだのを目撃されたのを最後に姿を消した。殺されたと言われているが、下手人は定かではない。
警察がその死に絡んでいるという噂もあるが、遺体は見つかっていない。1997年、検死官がフラナリーは法的に死亡したと宣言し、1985年5月にタクシーに乗り込んだ後すぐに殺されたのだろうと判断された。
【6. アレクサンダー・ソロニック(ロシア)】
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Kurganskaja OPG Alexander Solonik 1
アレクサンダー・ソロニックは、ロシアギャングの殺し屋。かつてのロシア特殊部隊の一員で、冷戦時代、NATOを揺さぶろうとしていたロシア政府のために、NATOの高官を暗殺したと言われている。
警察にいたこともあるが、囚人への残虐行為で解雇された。その後すぐ、ソロニックはレイプの罪で逮捕されたが、裁判中に法廷の二階の窓から飛び降りて逃走し、シベリアへ向かった。再び逮捕されたが、また逃走した。
シベリアの犯罪組織のボスのために、敵対するボスを殺し、初めて殺し屋家業に手を染めた。その脱獄の腕前や両手に銃を持って撃つスタイルから、"アレクサンダー大王"という異名をもつ。
半年の間に、ソロニックは護衛や武装車両で守られていたふたりの高位のボスを殺した。ところが、雇い主のひとりが報酬の100万ドルを払うのを拒んだため、当人と部下は死体で見つかることになった。
1994年、警察はソロニックと仲間の逮捕に動き、ついに手錠をかけたが、ソロニックらは4人の警官を殺して、手錠をしたまま逃走した。
ソロニックは腎臓を撃たれたが、それでもふたりのガードマンを撃ってまんまと逃げおおせた。
仲間はうまいこと逃げられたが、手負いのソロニックはその後捕まり、警備が厳重な刑務所に送られた。しかし、刑務所の屋根によじ登って、待っていた車に乗り込み、またしても逃走した。
やがて、ソロニックは、ロシアマフィアのために43人を殺めて、引退を決意し、1997年にギリシャに隠遁した。
しかし、別の雇われ殺し屋の魔の手が伸び、ソロニックはギリシャの住まいのプールのそばで絞殺された。遺体は、2ヶ月の間、発見されなかったという。
後編はこちらから↓
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written by konohazuku / edited by parumo
記事全文はこちら:冷酷に淡々と任務をこなす。実在した世界に名だたる殺し屋たちに関する事実(前編) http://karapaia.com/archives/52277104.html
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