脳の過剰な活動を抑えることで老化を遅らせることができる(米研究)

Image by 13-Smile/iStock
 人間の脳では、ニューロンからニューロンへと数兆もの電流や信号が常に行き交っている。

 ハーバード大学医科大学院ブラバトニック研究所が発表した驚くべき研究は、人の長寿の秘訣は、そうした神経活動にあることを示唆している。


 『Nature』(10月16日付)に掲載された研究によると、脳の過剰な活動は寿命の短さと関係しているとのこと。その反対に過剰な活動を抑えれば、老化を遅らせることができ、寿命が伸びるのだという。

 「脳は寿命と大いに関係があります」と研究著者のブルース・ヤンクナー氏は説明する。「寿命と脳機能はどちらも可塑性があり、変更することができます。」

【寿命と関連する脳の特定タンパク質】

 今回の研究では、60~100歳で亡くなったが、認知症はない高齢者数百人の健康な脳を検査した。

 ここから明らかになったのは、85~100歳の脳では、もっと若くして死んでしまった人の脳に比べて、神経の過活動に関連する遺伝子の発現が少なかったということだ。

 長生きした脳には、「REST」と呼ばれる強力なタンパク質が共通して見られた。
このタンパク質はストレスや認知症による老化から脳を守ると考えられているものだ。

 今回はRESTが、イオンチャネル、神経伝達物質受容体、シナプスの構造成分など、神経の興奮に関連する遺伝子を抑えることが判明した。

【脳の過剰な神経活動が低下すれば寿命がのびる】

 さらに動物モデルでは、RESTを阻害すると神経活動が増加し、早く死ぬことも確認された。逆に、RESTを促進してやれば、神経活動は低下し長生きする。

 RESTによって神経の興奮が抑えられると、インスリン/インスリン様成長因子(IGF)シグナル経路と呼ばれる一連の代謝のスイッチが入る。こうした連鎖的な代謝が細胞の成長を制御し、寿命を延ばしてくれるのだ。


 まるでRESTと代謝がタッグを組んで、若死を食い止めているかのようだ、とヤンクナー氏は話す。

[画像を見る]
Image by LightFieldStudios/iStock
【適切な脳の活動レベルは?】

 ではどこまで脳を利用すると過活動になるのか?その基準ははっきりしない。

 パズルを解いたり、新しいスポーツに挑戦したりすることから、強いストレスやトラウマに苦しむことまで、どのような活動がRESTを活発にし、反対に脳の過活動につながるのかよくわからないのだ。

 「何が込み入っているかって、言葉を学んだり、新しい楽器を演奏したり、今までやったことがないことを試すのは、学習能力や記憶力にはいいことだとされてきたことですよ」とヤンクカー氏はいう。

 脳を使うと新たに神経ネットワークが形成され、神経成長因子が活発になる。これはいいことだ、とヤンクカー氏はいう。


 こうした活動は、筋肉のけいれん、気分の変化、てんかん、アルツハイマー病、双極性障害といった形で現れる有害な脳活動とはおそらく同じではないだろう。

[画像を見る]
Image by Pete Linforth from Pixabay
【手軽なアンチエイジング法には注意】

 ただしまだ早とちりしないでほしい。ヤンクカー氏は注意をうながしている。きちんとした臨床実験を行わなければ、結論を出すことはできないし、それを応用する方法もわからない、と。

 老化防止(アンチエイジング)という分野では、しばしば科学的に立証されたことがないがしろにされることがある。

 「飽和脂肪酸や精製炭水化物が少ない地中海食、適度な有酸素運動、ストレス・不安・うつを管理し健康的な精神状態を維持する」これらには確かに、老化を抑える効果があるというしっかりした証拠がある。


 だが、手軽なアンチエイジング法を求める人たちは、それを忘れてセンセーショナルな方法に飛びついてしまいがちだ。

 今回の研究は断定的なものではない。体に備わっているシグナル経路の仕組みや、どのような活動が神経の興奮を増減させるのかというニッチな研究の出発点にすぎないのだ。現時点では、答えよりも疑問のほうが多い。

 もちろんヤンクカー氏は、RESTタンパク質や脳の過剰な興奮を抑える研究が、将来的に新しい治療やライフスタイルの改善につながればいいとは願っている。

 しかし、ただ飲むだけで老化が止まる魔法の「RESTサプリメント」なるものが開発されることはなさそうだ。
もしそのような商品を出す企業があれば注意したほうがいい、とヤンクカー氏からの警告だ。

References:Regulation of lifespan by neural excitation and REST / Increased Neuronal Activity Shortens Lifespan in Animal/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:脳の過剰な活動を抑えることで老化を遅らせることができる(米研究) http://karapaia.com/archives/52283693.html