宇宙は人間の臓器を製造するのに最適な場所かもしれない(国際宇宙ステーション)

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 3Dプリンターは今や欠かせないものとなった。食品はもちろん住宅に衣服、マウスの卵巣までも印刷できてしまう。


 そして10年後、人間の臓器が宇宙でプリント製造される未来がやってくるかもしれない。

 人間の内臓を作るなら、重力で押し付けられる地上よりも微重力空間の方がずっと好ましいらしいことが判明したのだ。
【宇宙空間の方が3Dプリント臓器製造が適している理由】

 医療の分野で3Dプリンターが採用されるようになったのはごく最近のことだ。これまで、初歩的な血管・骨・各種生体組織といったものが、人間の細胞などで作られたバイオインクで印刷されてきた。

 またミニ肝臓や肺状の袋といった、シンプルな内臓も作られている。とはいえ、こうしたプリントモデルをきちんと直立した状態で維持するのは、今の段階ではまだまだ難しい。


 じつは最近、そうした内臓作りには地球はあまり理想的な環境でないことが分かってきた。

 地上では常に重力がくわわるので、成長中の繊細な内臓を押しつぶしてしまう。だからこそ、内臓の周囲に足場のようなものを作り、それを支えるのだが、それは血管を弱らせ、きちんとした成長や機能を阻害することがある。

 だが、低軌道の微小重力下ならば、軟組織はそれを支える足場などなくても、自然にきちんとした形状を維持することができる。

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Scharfsinn86/iStock
【世界初の宇宙専用3Dプリンター】

 そこで「テックショット(Techshot)社」と「エヌスクリプト(nScrypt)社」が共同で開発した世界初の内臓専用3Dプリンターが「3Dバイオファブリケーション・ファシリティ(BFF)」だ。

 2019年7月にスペースXのロケットで国際宇宙ステーション(ISS)へ向かって飛び立ったそれは、宇宙空間で人体組織を印刷するよう設計されており、バイオインクで髪の毛よりも薄い複数の層を作ることができる。
ちなみにお値段は770億円ほどだ。

 現在、BFFが取り組んでいるのは、厚みのある心臓組織を作り、それを地球に持ち帰るというプロジェクトだ。

 各層が厚みを増すほどに、それらが効果的に成長するかどうか不確かになってくる。いかにしてしっかり形を保ったまま地上に送り届けるのか、そこが研究者の腕の見せ所だ。

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NASA / Techshot
【パンケーキのように内臓を調理】

 テックショット社のリッチ・ボーリン氏によれば、BFFの内臓印刷はパンケーキの調理に似ているという。

 まず宇宙に滞在するスタッフは、地球から送られてきた細胞でバイオインクの”パンケーキ・ミックス”を作り、これを注射器のような器具に入れてBFFにセットする。


 さらにバイオリアクターが内蔵されたカセットもセットする。これは組織が健康に成長するために必要なシステムで、栄養補給や排泄のような機能を担う。

 ポンプ圧、内部温度、照明、印刷速度といったパラメーターを設定したら、いよいよバイオリアクターの中で印刷を開始。形状の複雑さに応じて、一瞬から数時間で印刷が完了する。

 仕上げに、「先端宇宙実験プロセッサー(ADSEP)」なるもので、印刷物を12~45日かけて”調理”する。これは、印刷された組織が地球への帰路に耐えられるよう硬化させるための処理だ。

 
 こうして完成した内臓が地球に送り返される。

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Techshot BFF b roll and sound bites

【内臓のバイオプリント競争】

 なお、人間の内臓を宇宙で作ろうと考えているのは、テックショット社だけではない。

 たとえばロシアのバイオテクノロジー研究所「3Dバイオプリンティング・ソリューションズ」が同じようなプロジェクトを進めている。

 だが、こちらはBFFのようにバイオインクで層を重ねる手法ではなく、磁気ナノ粒子を利用する。電磁石で磁場を作り出し、そこに組織を浮遊させながら狙った構造に形成するという、なんだかSF映画のような手法で、先月、ISSで第一号となる骨組織の作成に成功している。

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Видео эксперимента с нашим принтером ORGAN.AVT

【法規制・コスト・健康など、実用化へ向けた課題は山積み】

 だが宇宙で臓器を製造する為には数々の壁が立ちはだかる。
努力が実り、首尾よく宇宙の3Dプリンターできちんと機能する人間の内臓を作れるようになったとしても、それは地上に存在するいくつもの法規制に縛られることだろう。

 こうした法規制への対応はテックショット社にとっても初めての挑戦であり、たとえばアメリカで認可を得るには少なくとも10年はかかるだろうと同社は見積もっている。

 また法規制だけではなく、社会的な抵抗にも直面するかもしれない。

 コスト面での問題もある。最先端の科学技術には付き物であるが、3Dプリント内臓はそう気軽に手にできるものではないかもしれない。

 テックショット社によれば、生涯飲み続けねばならない免疫反応抑制剤や人によって複数回移植手術を受けるコストを考えれば、宇宙で印刷する内臓は、人間のドナーから摘出される内臓よりも安上がりであってもおかしくないという。


 しかし現時点で、BFFの印刷プロセスが実際にどのくらいの期間になるのかはっきり伝える資料がないために、本当のところは何とも言えない。

 さらに細胞を操作する過程で突然変異が引き起こされるリスクもある。そうなれば改変幹細胞が移植を受けた人の体内でガン化することもあり得る。

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designprojects/iStock
【ますます広がる宇宙空間を利用したビジネス】

 だが宇宙で臓器を作るというこのビジネスは期待されている。3月に行われる次回のテストが終われば、BFFは軟骨・骨・肝臓組織などの印刷を計画する他の企業や研究所に貸し出される予定だ。

 また実験プロセスをスピードアップするために、軌道上で細胞を作る細胞工場が建設されている。これが完成すれば、地球・宇宙間の細胞の受け渡しを減らすことができるだろう。

 ここ数年、ISSはいくつもの商業ベンチャーを受け入れてきた。そうしたベンチャーによる宇宙での実験は4、50年前に比べればきわめて多くなった。

 最近までは衛星通信と遠隔観測技術が実験の主なテーマだったが、このところは製薬に対する関心も高まっており、医療技術を改善する舞台として宇宙が注目を集めているそうだ。

References:Space might be the perfect place to grow human organs | Popular Science/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:宇宙は人間の臓器を製造するのに最適な場所かもしれない(国際宇宙ステーション) http://karapaia.com/archives/52287414.html