
ドイツとベルギー複雑な国境 image by:gunnsteinlye / Flickr
ドイツとベルギーの国境付近には奇妙が国境線がある。ドイツ領とベルギー領が入り組んでいるのだ。
かつてここを、現在は廃線になっている鉄道線路が走っていた。このフェン鉄道は、ドイツのアーヘンをスタートして、ベルギー国内を通り、ルクセンブルグ北部のトロワヴィエルジュまで続く、3国を貫く鉄道線路だった。
途中、線路はベルギーとドイツを出たり入ったりして進み、非常に複雑で奇妙な国境線を作り出していったのだ。
【第一次世界大戦によりドイツ領土喪失】
このエリアはもともと、1871年にドイツ帝国の一部となったプロイセン王国の領地だった。1882年に鉄道の建設が始まり、新たに統一されたドイツの州にこの地域も統合されるきっかけとなった。
アーヘンの炭坑で産出した石炭を、ルクセンブルグやロレーヌ地方にある製鉄所へ運び、鉄鋼業を拡大する目的で作られた。
第一次大戦で敗戦国となったドイツは、戦争で疲弊した周辺諸国に大規模な土地を割譲することになった。
そのため、国境線は東へと移り、元ドイツの領土だった土地がベルギー領となった。その中に、フェン鉄道の通る土地も含まれていた。
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Vennbahn: The World's Weirdest Border?
【ベルサイユ条約で鉄道の敷地はベルギーのものに】
ドイツは、フェン鉄道はドイツ人が建設したのでドイツのものだと主張したが、ベルギー側は、引き渡された土地の上にあるすべてのインフラの主権はベルギーにあると申し立てた。
さらに、鉄道の一部がドイツ領内を通っているとしても、フェン鉄道が敷かれているすべての敷地の主権はベルギーのものだと主張。
ベルギー人にとってフェン鉄道は、「ベルサイユ条約」で与えられた東部の領土との交流に不可欠なルートだったため、あくまでもベルギーのものであるべきだと押し切った。
はっきりした国境の修正を見直すため、べルサイユ条約によって任命された国際委員会は、ベルギーの言い分を認めて、鉄道の敷地はベルギーのものだと決定した。フェン鉄道はドイツ領内を走っているベルギーの鉄道ということになった。
このため、ベルギーを出た鉄道がドイツに入る場所はどこも分断されて、飛び地がいくつも生まれる結果になったのだ。
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奇妙な国境線がはっきりわかるドイツとベルギーが接する地域。黄色のエリアはドイツ、白いエリアはベルギーの領土。フェン鉄道は両国を出たり入ったりしながら進む。
【フェン鉄道の跡地にできた飛び地】
フェン鉄道のおかげでこのときできた飛び地は、ドイツが7つ、ベルギーがひとつ。そののち、ドイツの飛び地のひとつは完全にベルギーに割譲されてなくなり、ふたつは統合されてひとつになったため、現在はドイツの飛び地は5つ。
北から南へ順番に、ミュンスタービルトチェン、ロートゲナーヴァルト、ルクシュラーク、ミュツェニッヒ、ルーツホフだ。
これらの土地は、幅が20メートルもない狭く細長いフェン鉄道の敷地で、ドイツ本土から切り離されている。もっとも狭いルクシュラークの飛び地には、広さ1万6000平方メートルの土地に庭のある家が一軒建つだけだ。
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フェン鉄道北部のドイツ側の5つの飛び地
【飛び地ゆえの異例な法的措置】
ドイツ側の飛び地にある5つの駅は、ベルギーが運営している。
つまり、外国の市民にサービスを提供していることになるが、円滑な鉄道の運行のために、いくつか異例な法的措置がとられている。
例えば、運賃の支払いはドイツとベルギー両国の通貨が使用できる。ドイツ市民が鉄道に乗る目的でベルギー領の鉄道敷地に入る場合は、税関を免除される。
同様に、ベルギー鉄道の土地に住んでいて、鉄道のために働いているベルギー人は、ドイツ警察や税関の審査を受けない、といったことだ。
フェン鉄道の利用量は、1930年代に減少し始めたが、1940年にアドルフ・ヒトラーがこの一帯を再び併合すると、全線ドイツの鉄道として復活した。
この鉄道は、2000年代まで運行していたが、それ以降は放棄された。いくつかの区間は閉鎖され、大部分の線路が取り除かれた。
その後、線路があった場所は舗装されて、125キロのサイクリングロードになった。このロードは、緩やかに上り坂になる美しい景色を眺めながら、細い峡谷や美しい町を堪能することができる場所になっている。
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Germany Has The Worlds Weirdest Borders
Googlemapでみるフェン鉄道跡地
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References:Vennbahn / Amusing Planet/ written by konohazuku / edited by parumo
記事全文はこちら:ドイツの中にベルギーが?複雑な国境問題を引き起こしたフェン鉄道 http://karapaia.com/archives/52291021.html
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