新型コロナウイルスの影響は経済面、そして精神面にも及んでいる。世界的にうつの症状を訴える人が急増しており、日本では2020年の自殺者数が11年ぶりに増加したそうだ。
なんとか自殺者を思いとどめることはできないだろうか?世界各国で様々な取り組みが行われているが、ある麻酔薬が自殺願望を抑える効果があるという研究結果がオーストラリアから報告された。
その麻酔薬とは「ケタミン」だ。これまでの研究でうつ病に効果があることは報告されていたが、今回の研究でうつ病患者の3分の2の自殺願望が抑えられたという。
【不思議な感覚を得る麻酔薬「ケタミン」】
ケタミンは1956年に発見された少し不思議な作用がある麻酔薬だ。
その初期の実験では、被験者から死んでしまったような感覚や、手足がなくなってしまったかのような感覚が報告されている。そのために解離性麻酔薬と呼ばれるようになった。
麻酔薬なのだが幻覚作用があり、若者たちによる乱用が問題になったこともある。
だがここ最近では、ケタミンに再評価の兆しが現れている。それというのも、重いうつ病など、心を病んでしまった人たちに改善効果があるらしいことが分かってきたからだ。
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【自殺願望を和らげる効果を確認】
また、いつまでも消えることのない死にたいという思い「希死念慮(きしねんりょ):具体的な理由はないが漠然と死を願う状態」をケタミンが和らげてくれることも明らかになっている。これは従来の抗うつ剤ではなかなか得られなかった効果だ。
希死念慮の緩和効果についての研究のほとんどは、静脈注射で投与した場合の効果を確かめたものだった。
だが静脈注射はコストがかかるし、体に針を刺さねばならない。また中には合併症を引き起こしやすい人もいる。
そこでオーストラリア、サンシャイン・コースト大学の研究グループは、もっと安価かつ手軽に薬を投与する方法として、経口でケタミンを投薬したときの治療効果を調べてみることにした。
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慢性的な希死念慮にとらわれた成人患者32名に参加してもらった実験では、オレンジジュースに混ぜられた麻酔効果が微弱にしか発揮されない程度のケタミンを、少しずつ量を増やしながら経口で6週間にわたり飲んでもらった。
参加者の自殺願望は、すぐに命を絶ってしまうほどひどいものではなかったが、かなり長い間続いており、ほとんどの人は回復するという希望など捨てていたという。また中には、気分障害、不安神経症、人格障害といった心の病気を併発している人もいた。
しかしケタミンは速やかに効果を発揮し、3分の2の患者は、死にたいという願望が薄れはじめ、症状が緩和されたとのことだ。
【ただし投薬は慎重に管理して行うべき】
だが、ケタミンの投与をやめ、実験が終了してから4週間後に再検査をしたところ、また死にたいという願望が沸き上がってくる患者もいたとのこと。
このことからケタミンの投薬を止めれば、いずれその効果が弱まるだろうと推測できるという。とは言っても、再検査の時点での自殺願望は、投薬前の半分のレベルだったそうなので、緩和効果はしばらく続くようだ。
また一時的な軽い副作用がでた患者もいたという。倦怠感やイライラ感、不安、めまいといったもので、投薬開始から早い段階で現れることが多かったそうだ。
すべての薬に言えることだが、その効果には個人差がある。また長期間の薬剤の投与が及ぼす影響も考慮しなければならない。
ケタミンが自殺行動に与える影響については更なる研究を進めていく必要があるが、人生に絶望し、精神的に追い詰められた人々を救うことができるなら、この研究もいつか役に立つだろう。
今本当に辛くて苦しんでいる人、まだ誰かと話せる余力があるのなら、各自治体が開設している「いのち支える相談窓口」に電話してみて欲しい。
この研究は『Translational Psychiatry』(2月4日付)に掲載された。
References:Study finds potential treatment to reduce chronic suicidality | University of the Sunshine Coast/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:死んでしまったような感覚を与える麻酔薬「ケタミン」に自殺願望を抑える効果を確認(オーストラリア研究) https://karapaia.com/archives/52299217.html
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