人間が死んだあと、脳内で活発に活動する「ゾンビ遺伝子」が発見される

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 死は絶対である。我々はいつの日か必ず死ぬことが生まれた時に定められている。
だが、生と死の境界は意外と曖昧なのかもしれない。

 医師によって死が診断されたそのときから、脳中で活動を開始し、細胞の成長を促進するゾンビのような遺伝子が存在するという。

 人は死ぬと、血液による酸素の循環がなくなり、体内の細胞は急速に活動を停止する。だが死亡後に活性化し脳細胞の成長を促進させるゾンビのような遺伝子が存在することは、2016年のマウスとゼブラフィッシュを使った実験で明らかになっていた。

 その時、ゾンビ遺伝子が人間の体内にも存在する可能性が示唆されていたのだが、今回の研究によりそれが明確になったようだ。

【死の直後、人間の脳に何かが起きている】

 米イリノイ大学の研究グループが調べていたのは、てんかんなどの神経症状のために外科手術で切除された脳細胞だ。


 この摘出された直後の”新鮮”な脳内で起きている遺伝子発現のパターンを分析してみたところ、意外なことが判明した。

 死後に採取された鮮度の落ちる脳組織と、トランスクリプトーム(特定の状況において、細胞に含まれるmRNAの総体)の数が一致しなかったのだ。それは死んでから数時間のうちに、脳内で何かが変化していることを示唆していた。

 研究グループは、それが何なのかを調べるために「死のシミュレーション」を行なってみた。摘出した脳を常温に置き、それから24時間ほど観察してみるのだ。

 8割の遺伝子については、その発現に大きな変化は見られなかった。


 そうしたものの中には、たとえば「ハウスキーピング遺伝子」がある。これは基本的な細胞機能を担っており、組織の品質を確かめる研究などでもよく使われるものだ。

 また思考や記憶といった脳活動に直接関係しているものも同様だ。これらは死後数時間で普通に劣化してしまった。死んでしまえば、認知活動が消えるのだから、至極当然のことだろう。

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【死後活性化したゾンビ遺伝子の存在が明らかに】

 問題だったのは、脳組織が摘出されてからかえって活性化した遺伝子があったことだ。
研究グループはそれを「ゾンビ遺伝子」と呼んでいる。

 ゾンビ遺伝子は死んでから活性化し、12時間後にそのピークを迎える。

 いずれも「グリア細胞」という炎症細胞と関係しており、成長して腕のような枝まで伸ばし始めたという。これらは通常、脳が損傷したり、脳卒中を起こしたりすると、急に活動し始める細胞だ。

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人間の脳の死後動き出すゾンビ遺伝子 credit:Dr. Jeffrey Loeb/UIC
【心臓が止まっても脳は止まらない】

 このことは大きな意味を持つ。なぜなら、認知症といった神経症状の研究は、死後数時間あるいは数日たった人間から摘出した脳組織を調べることで行われているからだ。


 「大抵の研究は、心臓が止まれば、脳もまた何もかもが止まると想定しています。ですが、そうではありません」と、研究著者のジェフリー・ローブ氏は述べている。

 今回の研究は、脳組織が死んだ後も大きく変化していることを示唆している。死者の脳は、生者の脳とはかなり違うものなのかもしれないのだ。

 それどころか、人は死後も自らの死を認識している可能性すらある。そんな不思議な死を体験してみたいと思ったら、瞑想してみるといいかもしれない。


 この研究は『Scientific Reports』(3月23日付)に掲載された。

References:sciencedaily / neurosciencenews/ written by hiroching / edited by parumo

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