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自分の脳について一般的な人はどれくらい理解しているだろうか?脳は神経の司令センターだ。体からの信号を受け取り、筋肉へと情報を伝えることぐらいはわかるだろう。
人間の脳はほかの哺乳類のそれと基本的には同じ構造をしているが、体の大きさとの比率で言うとほとんどの哺乳類よりも大きい。
ここでは、人間の脳に関する事実を様々な観点から見ていくことにしよう。まだまだ解明されていないことも多いが情報はどんどんアップデートされている。脳を制するにはまず脳を理解しよう。
【人間の脳の大きさはどれくらい?】
人間の脳はおよそ1.4キロで体重の2%を占める。男性の脳の大きさは平均で1274㎤、女性は1131㎤となっており、イリノイ州のノースウェスタン メディシンによると、男性は女性よりも平均で10%ほど大きい。もちろん個人差があるので一概には言えない。また主要な部分である「大脳」は重量の85%を占める。
人間の脳は、生後1年で3倍の大きさになり、25歳頃に完全に成熟すると言われている。Northwestern Medicineによると、脳は60%が脂肪だそうだ。
また、人間の脳は 23ワットの電力を発生させることができ、それは小さな電球に燃料を供給するのに十分な量だという。
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【人間の神経細胞は何個?】
米国科学アカデミー紀要に掲載された2012年の研究によると、人間の脳は860億個もの「神経細胞(ニューロン)」で構成されており、これを「灰白質」という。
軸索(じんさく)を髄鞘で絶縁する「乏突起膠細胞(オリゴデンドロサイト)」など、神経細胞ではない細胞も同じ数だけあり、白っぽく見えることからこちらは「白質」という。
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髄鞘をもつ神経細胞の構造図 credit:Quasar Jarosz / WIKI commons【脳の基本構造】
脳の大部分を占める大脳は「右脳」と「左脳」にわけられ、それぞれは「前頭葉」「頭頂葉」「側頭葉」「後頭葉」の4つの脳葉で構成される。またシワだらけの表面を「皮質」という。大脳の下には「脳幹」があり、その後ろに「小脳」がある。
前頭葉は、思考・計画といった認知機能や随意運動の制御に重要な役割を果たしている。側頭葉は記憶と感情を司る。頭頂葉はさまざまな感覚器官からもたらされる情報を統合しており、空間の把握や移動にも大切な部分だ。後頭葉は視覚的な処理を行う。
脳と脊髄をつなぐのが「脳幹」だ。「延髄」「橋」「中脳」で構成されており、主な機能は脳と体の間で情報を受け渡しすることだ。また顔や頭に脳神経を提供し、さらには心臓・呼吸・意識レベル(睡眠もその1つ)を調整するというきわめて重要な機能も担っている。
大脳と脳幹の間には「視床」と「視床下部」がある。
視床は感覚と運動に関する信号を皮質に送っており、臭い以外のあらゆる感覚情報は視床を経由して皮質に伝えられている。視床下部は「下垂体」を介して、ホルモンがつくられる「内分泌系」につながっている。
小脳は運動機能のコントロールを担う。筋肉を連携させ、バランスを保つという役割があるが、認知機能とも関係している。
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【夜、脳は掃除されている】
脳にはつながり合った4つの空洞があり、これを「脳室」という。ここでつくられる「脳脊髄液」は、脳や脊髄をめぐりつつ衝撃から守るクッションとして機能しながら、最後は血液に吸収される。
脳脊髄液のもう1つ重要な機能は、脳に蓄積されるゴミを洗浄することだ。これを「グリンパ系(glymphatic system)」といい、主に眠っている間に機能することが示唆されている。
マウスの実験では、睡眠中に間質腔が60%広がることや、睡眠中のグリンパ系が覚醒時よりも速やかにβアミロイド(アルツハイマー病になると蓄積するタンパク質)を除去してくれることが観察されている。これは睡眠が重要である理由の1つであると考えられている。
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【脳の大きさと知能の関係】
脳の全体的な大きさと知能はあまり関係がない。たとえばマッコウクジラの脳は人間よりも大きいが、知能が高いのは人間だ。
知能に関係しているのはむしろ、体に占める脳の大きさの割合だ。ただしこれも完全な指標ではなく、人間よりも脳の比率が大きな動物はいる。
また人間同士でも、脳の大きさから知能の優劣をうかがい知ることはできない。天才と呼ばれる人でも平均より小さな脳を持つ人たちがいるし、その逆もある。
ロシアの文豪イワン・ツルゲーネフの脳は2021グラムと大きかったが、ノーベル文学賞作家アナトール・フランスは1017グラムしかなかった。
人間の知能の秘密の1つは、神経細胞とシワにある。体積あたりに含まれる神経細胞の数が、ほかの哺乳類よりも多いのだ。
そしてそれを可能にしているのが皮質のシワだ。脳が高度になればなるほど、よりたくさんのシワ(大脳溝と大脳回)ができる。これはほかの動物でも同じで、高い知能で知られるイルカやサルの脳はシワだらけだが、マウスはツルツルだ。
もう1つ、神経細胞の結合も知能には重要だ。天才の中の天才、アルベルト・アインシュタインの脳は平均的な大きさでしかなかった。
だがおそらくは脳が高度に結合しており、遠く離れた領域もつながっていた可能性が高い。
ちなみに人間の前頭葉は、動物の中で最大だ。前頭葉は、自己制御・計画・論理的思考・抽象的思考といった高度な機能と関係している。人を人たらしめている部分がここだ。
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【右脳系・左脳系はあるか?】
人間の脳は「右脳」と「左脳」にわかれており、それらは「脳梁(のうりょう)」という神経繊維の束でつながっている。完全ではないにしてもほぼ対称で、左脳は右半身、右脳は左半身の筋肉を制御している。利き腕があるのは、どちらかがわずかに優位であるからなのかもしれない。
俗に言う左脳系や右脳系といったものに科学的な裏付けはない。ただし、それぞれの半球に重要な違いはある。左脳には言語や計算などと関連する領域があり、右脳には視覚・聴覚に関する情報処理・空間技能・芸術的な才能と関係する領域がある。
だが、これらは完全に片方で処理されているわけではなく、両脳が関与しているという点も重要だ。
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脳梁 credit:Images are generated by Life Science Databases / WIKI commons
【死んだ後も、脳は生き続けられる?】
2019年、イェール大学の研究グループは、死後4時間が経過したブタの脳の循環や一部の細胞機能を回復させることに成功した。
これまで脳細胞は心停止後まもなく回復不能な損傷を負うと考えられてきたが、そうした常識をくつがえす成果である。
決して意識が回復したという意味ではないし、それが試みられたわけでもない。それどころか、研究グループは脳の循環を血液を模した化学物質で代用し、神経細胞の発火を防止すらしていた。ブタが生き返ったわけではなく、ただ細胞活動の一部が戻ったというだけの話だ。
References:Human Brain: Facts, Functions & Anatomy | Live Science/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:どこまで知ってる?人間の脳の構造、機能を学ぼう! https://karapaia.com/archives/52302668.html
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