ホッキョクグマ「武器で殴る」の技を知っていた。セイウチを氷の塊や岩で撲殺することが判明


 ホッキョクグマ(シロクマ)は、気候変動の影響で絶滅が危惧されているが、それでも彼らはたくましく生きている。

 肉食のシロクマは、北極圏に生きる動物たちを獲物にしているが、時に自分よりも大きいセイウチを狙うこともある。
巨大なキバに頑丈な頭蓋骨まで持つセイウチは、いかにホッキョクグマといえども容易に倒せる相手ではない。

 だが彼らは知能がとても高い。道具(武器)を使用していたのだ。セイウチを狙う時には、岩や氷の塊でセイウチの頭を叩き割ることがあるのだそうだ。 

イヌイットはホッキョクグマが武器を使うことを知っていた グリーンランドやカナダ北極圏東部で暮らすイヌイットたちは、200年以上も前からホッキョクグマが武器(道具)を使ってセイウチを殺すことがあると伝えてきた。

 だが科学者や冒険家たちは、ただの伝説の類だろうと無視してきた。


 そうした話は最近でもある。たとえば1990年代にはイヌイットの狩人が報告しているし、天王寺動物園で飼育されていたゴーゴというホッキョクグマ(現在はよこはま動物園で飼育)にいたっては、高いところにある肉を道具を使って手に入れる様子が実際に撮影されている。

 そこでホッキョクグマ研究の世界的な権威であるイアン・スターリング博士らは、ことの真偽を確かめてみることにした。

 「経験豊富なイヌイットの狩人がそう言うのなら、耳を傾ける価値があるし、正しい可能性が非常に高いというのが私の経験です」とスターリング博士は語る。

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【天王寺動物園】ゴーゴくん道具を使うよ!ホッキョクグマは武器を使ってセイウチを撲殺していた スターリング博士らは、イヌイットの狩人や冒険家・学者などが誰かから聞いたホッキョクグマの道具の利用に関する逸話を調査した。

 さらにイヌイットなどが証言する最近の目撃談や、ゴーゴやヒグマ(ホッキョクグマの一番近い親戚)などの行動記録なども集めた。


 『Arctic』(6月8日付)に掲載された報告によれば、野生のホッキョクグマがたまにではあるが、実際に岩や氷の塊を武器にして、セイウチをしとめていたことがあるという。

ホッキョクグマが獲物に氷を投げている動画(13:20あたり)

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Polar Bear Collar Cam B-Roll 2014, 2015, 2016道具を使いこなすのは高い知能の証 一般に、何らかの問題を解決するための道具の使用は、高い知能の証だとされている。たとえばチンパンジーは小動物を狩るために槍を使うことがあるし、イルカは隠れたエサを探すために海綿をくわえて砂を掃く。またゾウは電流フェンスに木や石を落として、壊してしまう。

 ホッキョクグマの知能をきちんと調べた研究はほとんどない。しかしスターリング博士によれば、その行動からは彼らが非常に高い知能を備えていることをうかがい知れるという。


 そもそもクマ科の動物は高い知能を持つことで知られている。大きな脳を持っており、洗練された狩猟スキルを身につけている。

 飼育されているアメリカグマの研究から、霊長類すらしのぐ認知機能を持つことが明らかになっているほどだ。

 またホッキョクグマのすぐそばで長年狩りを行ってきたイヌイットの狩人は、「一番賢いハンターは、大抵はメスのホッキョクグマ」と語っている。

 彼によると、ホッキョクグマは海で寝たふりをしてアザラシに近寄ったり、雪に隠れたアザラシの呼吸用の穴を嗅ぎ分けたりするのだという。

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気候変動により絶滅の危機に直面するホッキョクグマ 現在、北極圏と亜北極圏には2万6000頭のホッキョクグマが生息しているとされている。
その主な獲物は呼吸するために氷の穴から顔を覗かせたアザラシだ。

 しかし地球温暖化によって氷が解けてしまえば、ホッキョクグマが餌のアザラシを狩ることができなくなり、生き残るのが難しくなる。このままの状態では今世紀の終わりまでには野生のホッキョクグマはほぼ絶滅するだろうと予測されている

References:Polar bears sometimes bludgeon walruses to death with stones or ice | Science News / written by hiroching / edited by parumo

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