
Photo by:University of Michigan
実験動物としてよく使われる「C. エレガンス(Caenorhabditis elegans)」という線虫には、目も耳もない。
だが彼らは、目がなくても光を感じることができる。
驚いたことに、その聴覚は、一部の脊椎動物よりも幅広い音域を聞き分けるという。
『Neuron』(21年9月22日付)に掲載された研究では、線虫のこの能力が、聴覚を支える遺伝的メカニズムを探る新しい生物学的ツールになると期待されている。
目がなくても見ることができる線虫 体長約 1mmほどの透明な体を持つ線虫、C. エレガンスは、多細胞生物として最初に全ゲノム配列が解読されており、実験に広く利用されている。
米ミシガン大学のShawn Xu博士は、15年以上にわたり線虫の感覚について研究してきた。C. エレガンスには目も耳もないため、これに備わった感覚は、「触覚」「嗅覚」「味覚」だけだと考えられてきた。
しかし、これまでの研究でXu博士は、C. エレガンスが光を感じるばかりか、体の姿勢まで認識できることを明らかにしてきた。
だが「聴覚」は、動物たちの間で一般的に見られるほかの感覚とは違い、脊椎動物と一部の節足動物にしか備わっていない。そのため、ほとんどの無脊椎動物は音が聞こえないとされてきた。
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耳がなくても音が聞こえていた ところが、今回の研究では、C. エレガンスが100ヘルツから5キロヘルツまでの音に反応することを明らかにしている。
この音域の音を鳴らすと、身をくねらせて音から遠ざかろうとするのだ。これは一部の脊椎動物の聴覚よりも広い音域で、しかもC. エレガンスが音の位置まで把握しているということでもある。
念のために言っておくと、それは「触覚」ではなく、「聴覚」だ。いくつかの実験によって、振動に反応しているわけではないことが確かめられているのだ。皮膚を通して全身で音を感知していた Xu博士によると、C. エレガンスは全身で音を感じ取っているのだという。脊椎動物の耳には「蝸牛」というカタツムリのような空洞がある。C. エレガンスの体は、全身が蝸牛のように機能するのだ。
蝸牛は液体で満たされている。鼓膜から蝸牛に届いた振動は、この液体をゆらし、最終的に「蝸牛神経」から「中枢神経」に伝えられる。
C. エレガンスもこれと同じだ。音によって皮膚が振動すると体液がゆれる。皮膚には「聴覚神経細胞」がつながっており、この振動をキャッチ。こうして音波が神経シグナルに変換され、音として感知される。
また聴覚神経細胞には2種類あり、それぞれ体の異なる場所にある。
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聴覚は収斂進化した? 脊椎動物と同じように音を聞くC. エレガンスだが、重要な違いがあるのだという。それは分子レベルでの違いだ。
このためXu博士は、聴覚は異なる動物で独自に、何度も進化してきたのではないかと考えている。
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ほかの動物も聞こえている可能性 今回の研究で、C. エレガンスのような線虫には、主要な感覚がすべて備わっていることが明らかになった。
このことはヒラムシ・ミミズ・軟体動物といった、線虫以外の耳のない生物たちにも音が聞こえている可能性を示唆している。
Xu博士によると、この発見は、聴覚や機械的感覚全般を研究する、まったく新しい分野を開くものだという。
博士は今後、こうした感覚を機能させている遺伝的・神経生物学的メカニズムを掘り下げる予定であるそうだ。
References:Earless Worms Can “Listen” – Sense Sound Waves Through Their Skin / written by hiroching / edited by parumo
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実験動物としてよく使われる「C. エレガンス(Caenorhabditis elegans)」という線虫には、目も耳もない。
だが彼らは、目がなくても光を感じることができる。
更に最新の研究では、耳がないのに音を聞けることも判明したそうだ。
驚いたことに、その聴覚は、一部の脊椎動物よりも幅広い音域を聞き分けるという。
『Neuron』(21年9月22日付)に掲載された研究では、線虫のこの能力が、聴覚を支える遺伝的メカニズムを探る新しい生物学的ツールになると期待されている。
目がなくても見ることができる線虫 体長約 1mmほどの透明な体を持つ線虫、C. エレガンスは、多細胞生物として最初に全ゲノム配列が解読されており、実験に広く利用されている。
米ミシガン大学のShawn Xu博士は、15年以上にわたり線虫の感覚について研究してきた。C. エレガンスには目も耳もないため、これに備わった感覚は、「触覚」「嗅覚」「味覚」だけだと考えられてきた。
しかし、これまでの研究でXu博士は、C. エレガンスが光を感じるばかりか、体の姿勢まで認識できることを明らかにしてきた。
だが「聴覚」は、動物たちの間で一般的に見られるほかの感覚とは違い、脊椎動物と一部の節足動物にしか備わっていない。そのため、ほとんどの無脊椎動物は音が聞こえないとされてきた。
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耳がなくても音が聞こえていた ところが、今回の研究では、C. エレガンスが100ヘルツから5キロヘルツまでの音に反応することを明らかにしている。
この音域の音を鳴らすと、身をくねらせて音から遠ざかろうとするのだ。これは一部の脊椎動物の聴覚よりも広い音域で、しかもC. エレガンスが音の位置まで把握しているということでもある。
念のために言っておくと、それは「触覚」ではなく、「聴覚」だ。いくつかの実験によって、振動に反応しているわけではないことが確かめられているのだ。皮膚を通して全身で音を感知していた Xu博士によると、C. エレガンスは全身で音を感じ取っているのだという。脊椎動物の耳には「蝸牛」というカタツムリのような空洞がある。C. エレガンスの体は、全身が蝸牛のように機能するのだ。
蝸牛は液体で満たされている。鼓膜から蝸牛に届いた振動は、この液体をゆらし、最終的に「蝸牛神経」から「中枢神経」に伝えられる。
C. エレガンスもこれと同じだ。音によって皮膚が振動すると体液がゆれる。皮膚には「聴覚神経細胞」がつながっており、この振動をキャッチ。こうして音波が神経シグナルに変換され、音として感知される。
また聴覚神経細胞には2種類あり、それぞれ体の異なる場所にある。
これを利用して、活性化した神経細胞の違いから、音の位置を特定する。
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聴覚は収斂進化した? 脊椎動物と同じように音を聞くC. エレガンスだが、重要な違いがあるのだという。それは分子レベルでの違いだ。
このためXu博士は、聴覚は異なる動物で独自に、何度も進化してきたのではないかと考えている。
脊椎動物と節足動物の聴覚が違うことはすでに知られていましたが、さらに違うタイプの聴覚が見つかりました。これは目とは対照的だ。視覚は、かなり早い段階で共通祖先が一度だけ進化させたものだと推測されている。
この事実は、聴覚が”収斂進化"(遠く離れた種が、それぞれ独自に同じような進化をすること)したことを示唆しています
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ほかの動物も聞こえている可能性 今回の研究で、C. エレガンスのような線虫には、主要な感覚がすべて備わっていることが明らかになった。
このことはヒラムシ・ミミズ・軟体動物といった、線虫以外の耳のない生物たちにも音が聞こえている可能性を示唆している。
Xu博士によると、この発見は、聴覚や機械的感覚全般を研究する、まったく新しい分野を開くものだという。
博士は今後、こうした感覚を機能させている遺伝的・神経生物学的メカニズムを掘り下げる予定であるそうだ。
References:Earless Worms Can “Listen” – Sense Sound Waves Through Their Skin / written by hiroching / edited by parumo
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