憎悪の言葉に溢れるSNSの書き込み。母国語に翻訳して本人に直接伝えることはできるのか?(社会実験)
image credit: youtube

 時に言葉は鋭い刃物よりも人の心を傷つける。ネット上では匿名で、顔の見えない他人に対しての誹謗中傷や差別用語が飛び交っているが、本人を目の前にして同じことが言えるのだろうか?

 あるいはあなたが第三者で、本人が分からない言語で書かれた憎悪溢れる書き込みを、翻訳して伝えてほしいと頼まれたら、その内容を伝えることはできるのだろうか?

 こんな社会実験がリトアニアで行われた。
英語しかわからないという仕掛け人の男性が、リトアニア語で書かれたSNSの書き込みを翻訳して欲しいと依頼する。

 翻訳を頼まれたリトアニア語がわかる第三者はどのような対応を示し、男性にその内容をどう伝えたのだろう?

[動画を見る]

Eksperimentas VERTIMAS / Experiment TRANSLATION悪意あるSNSの書き込みを翻訳し本人に伝えることができるのか? リトアニアで新たに、インターネットのハンドブックを作成するウェブサイト『Svetimageda.lt』が立ちあげられ、こんな社会実験が行われた。

 広告のキャスティングに参加してもらうという触れ込みで一般人を募集。被験者に選ばれた人たちは、その内容について知らされておらず、待合室で待つようにスタッフから指示される。

 しかし、この待合室が社会実験のスタジオとなる。

 彼らはソファに座って指示を待つ。
待合室には隠しカメラが設置されており、ソファにはあらかじめ1人の黒人男性が座っている。

 この男性とのやり取りを撮影するという仕組みだ。

[画像を見る]

image credit: youtube

 男性は、社会実験を仕掛ける側だ。彼は、やってきた人1人1人に対して、タブレットを見せ、このように尋ねる。
ここに書いてあるメッセージを、英語に訳してもらえますか?
 英語しか理解できない設定の男性は、SNSの書き込みがリトアニア語であることから、待合室にいた被験者に英語での翻訳をお願いする。

 訳して伝えることを頼まれた人たちは、まずその書き込みを読む。
すると、彼らの表情が次第に変わっていく。

[画像を見る]

image credit: youtube

 何人かは、黒人男性に「これを書いた人を知ってるの?」と訪ねるが、黒人男性は「いえ、知らない人です」と答える。

 そこにあるのは悪意に満ちた書き込みだ。驚いた人々の中には、顔を歪めてショックを露わにする者や首を横に振って「信じられない」というような仕草をする者もいた。伝えられないと断る人がほとんど 黒人男性は、「自分はリトアニアに来たばかりで、何も知らない。この国のことをもっと知りたいので、メッセージに何が書かれてあるのか教えてほしい」と目の前の人に頼む。


 しかし、ほとんどの人が躊躇しながら、黒人男性に「何が書いてあるのかを伝えることはできない」と依頼を断った。
ごめんなさい。訳せないわ。あなたを傷つけたくない。
こんなこと、あなたは知らない方がいいよ。あなたにとって全くいい情報ではないからね。
訳してあなたに伝えたいとは思わない。


[画像を見る]

image credit: youtube

ここに書いてあることは、侮辱でしかない。だから訳さないわ。
あなたの目をみながら、ここに書かれてあることを訳すことはとても難しい。私にはできない。


[画像を見る]

image credit: youtube

 それでも、「本当に知りたいのですか?」と念を押されて躊躇しながら伝えた人もいた。
あなたがこのメッセージを個人的に受け取るのかどうかわからないけど、とても悪いことが書かれてあるの。差別的なこと。不本意だけど、訳すわ…。
 女性数名と子供は、言葉に詰まりながらも書かれてある内容を男性に伝えた。

 その内容は、明らかに黒人に対する差別表現で、言葉を読み上げる女性たちは、伝え終えた後「So Sorry」と男性に対して謝罪の言葉を口にした。

[画像を見る]

image credit: youtube

ひどい書き込みに衝撃を受ける人々 彼らは、リトアニアに住んでいる見知らぬ誰かの悪意に満ちた言葉に、同じリトアニア人として、また同じ人間として、黒人男性に対して言葉では言い表せないほどの衝撃を感じたようだ。


 この動画でわかることは、ネット上では嫌悪や悪意をむき出しにして攻撃する誰かがいる一方で、面と向かうと、その人の心を傷つけまいと守ろうとするやさしい人が存在するということだ。

 相手に向けられる言葉がどのように伝わるか、動画では1つ1つの言葉の重みが如実に表れている。

 この動画を見たユーザーらからは、「辛いメッセージで男性を傷つけないようにしようとする人たちの思いやりが美しい」「黒人男性と、彼に対してやさしさを見せた人たち両方をハグしたい」「相手に共感することの大切さを再認識できた」「メッセージは心が壊れるものだけど、人の美しい心に感動した」「世の中まだ捨てたもんじゃないね」といった声が寄せられている。

 ネット上ではひどい書き込みばかりが目につくが、実際にはひどい人ばかりじゃない。そういった書き込みに心を痛めている人も多くいると言えそうだ。

written by Scarlet / edited by parumo

画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。