ブタの腎臓を人体に試験的に移植することに成功。異種間臓器移植実現に向けて一歩前進
 世界初となる異種間の臓器移植実験が行われた。遺伝子改変したブタの腎臓を試験的に脳死した人体に移植したところ、拒絶反応もなく、すぐに正しく機能することが確認されたそうだ。


 臓器移植を待つ人は多いが、ドナー不足が問題となっている今、この技術が確立されれば、多くの人の命が救われるかもしれない。

遺伝子を改変したブタの腎臓を人体に移植 ブタの臓器は人間のものと似ており、臓器移植不足問題を解決してくれる切り札となるかもしれないと期待されているが、異種間臓器移植は簡単なことではない。

 ブタの細胞に含まれている「糖」が異物とみなされ、拒絶反応が起きてしまうからだ。

 そこでニューヨーク大学をはじめとする研究グループは、免疫反応を引き起こす糖「α-gal」を作る遺伝子をブタから取り除き、その腎臓を人体に移植することにした。移植したブタの腎臓が正常に機能したことを確認 今回の試験に使用されたのは、2021年9月に脳死した54歳の女性の遺体だ。女性は生前臓器移植に同意していたものの、移植には向かないと判断され、患者の家族から同意を得て、人工呼吸器を外す前にブタの臓器を接続したという。


 遺体の体外でブタの腎臓と血管をつなぎ、2日観察したところ、本来の機能どおりに尿が作られ、拒絶反応も起きないことが確認された。

 執刀したロバート・モンゴメリー医師は、「機能は完全に正常で、懸念されていた拒絶反応もありませんでした」とコメントする。

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Surgeon transplants a pig's kidney into a brain-dead human in groundbreaking surgery | USA TODAY異種間臓器移植の歴史 動物の臓器を人間に移植する試みの歴史は意外と古く、17世紀にまでさかのぼる。1667年、フランスの医師が羊や牛の血液をヒトに輸血したのが最初だ(このときは3名に輸血され、死者を出している)。

 また20世紀に入ると、ヒヒの心臓移植が試みられ、余命いくばくもなかった新生児「ベイビー・フェイ」が21日間生き延びたという事例がある。

 しかしその後、異種間臓器移植はなかなか進展せず、批判の声が高まったこともあり、霊長類の実験からブタを使った実験に目が向けられるようになる。


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ブタ臓器のメリット ブタにはサルや類人猿にはないメリットがある。たとえば、もともと食用として飼育されているので倫理的な問題が比較的小さい。

 また妊娠期間が短く、一度に出産する子供の数が多いうえに、臓器が人間のものに似ているのも都合がいい。

 ブタの心臓弁の移植はかなり前に成功しているし、抗凝固薬の一種である「ヘパリン」はその腸で作られる。さらに火傷の治療にブタの皮膚が使われたり、ブタの角膜で視力を回復することにも成功している。

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そう遠くない未来、ブタの臓器を使った移植手術が実現する可能性 移植に使われたブタを飼育したユナイテッド・セラピューティクス社のマーティン・ロスブラットCEOは、声明の中で「そう遠くない将来、毎年数千もの命を救うことになる異種間臓器移植実現へ向けた重要な一歩」と述べている。


 専門家によれば、こうした成果によって、ブタから生きているヒトへの臓器移植実現への道が数年以内に開かれるだろうとのことだ。

References:A pig kidney has been transplanted into a human successfully for the first time : NPR / written by hiroching / edited by parumo

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