人間の顎に未知の筋肉の層があることを確認
 科学技術は絶えず進歩している。人体の構造などとっくに解明されていると思うかもしれないが、まだ未知のものが存在する。
昨年も偶然人間の喉の奥に「未知の臓器」が発見されたばかりだ。

 人間の顎にある「咬筋(こうきん)」という筋肉から、これまで見落とされていた新しい層が発見された。

 スイス、バーゼル大学の研究グループが特定したその筋肉は、人間にはあるが、我々と同じヒト科のチンパンジーにはない。このことからヒト独自のものである可能性もあるという。

 イェンス・クリストフ・トゥルプ教授は、「動物学者が脊椎動物の新種を発見したようなもの」と、声明の中でその驚きを口にする。

これまで見落とされていた顎の3つ目の筋肉の層 ちょっと自分の顎の付け根あたりを触って、噛む動作をしてみよう。ぐりぐりと動く筋肉を確認できるはずだ。これが「咬筋(こうきん)」だ。

 顎の筋肉では一番目立つもので、一般には「表層部」と「深層部」の2層構造であると説明されている。

 今回、トゥルプ教授らは、この咬筋のさらに奥深くに3つ目の層があることを発見。『Annals of Anatomy』(21年12月2日付)で発表した。

 下顎の「筋突起(きんとっき)」にくっついていることから、「咬筋筋突起部(Musculus masseter pars coronidea)」という名称が提案されている。


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新たに発見された筋肉層(赤で示された部位)。頬骨の後ろから下顎前筋突起にかけて伸びる。これまで、咬筋は表層部(S)と深層部(D)の2層構造であると説明されてきたが、じつは3層であることが明らかになった / image credit:Jens C. Turp, UZB
解剖学書の混乱に決着 じつはまだ知られていない層があるだろうことは、かねてから疑われてきた。実際、解剖学の教科書や研究論文の中には、咬筋が3層構造であると記述しているものもある。

 しかし、これについて記述内容は一貫しておらず、一般的には2層構造とされてきた。

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一般的には2層構造とされていた咬筋の「表層部」と「深層部」 / image credit:Anatomography / WIKI commons

 今回、献体から得られた顎の筋肉組織やホルマリン漬けのもの、さらには生きている人間のMRIデータなどから、咬筋の構造を徹底的に調査。

 その結果、やはり3層であることが確認され、これまでの混乱に決着がついた形だ。3番目の層の役割 3番目の層には、他の層とはまた違う役割がある。

 筋繊維(きんせんい)が走る向きから、下顎を安定させる機能があるだろうことがうかがえる。また咬筋の中では唯一、下顎を後ろ側(耳の方向)へ引っ張る筋肉でもあるという。

 人間以外の哺乳類もまた、咬筋は3層以上の構造をしている。だが、今回発見されたものが、これに相当するものであるかははっきりしない。


 人間にはある3番目の層だが、なぜだか我々と同じヒト科の霊長類であるチンパンジーには見当たらない。このことから人間独自のものである可能性も考えられるという。

 進化の過程でこの層を手に入れたのか?この点については、将来の研究テーマになるかもしれないとのことだ。

References:New muscle layer discovered on the jaw | University of Basel / written by hiroching / edited by parumo

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