子どもの頃に読んだ図鑑に描かれていた先史時代を生きた古代生物の姿にワクワクした経験がある人もいるだろう。だが、誰も見たことがないはずの大古の生き物の本当の姿を見極めるのは、専門家といえども至難の業だ。
研究者たちは、残された骨の一部や、風化した足跡などを頼るしか術がない。だがそれだけで、大昔に存在した生物の詳細をつかめるとは限らない。
研究者がたいそう骨の折れる地道な作業を続けて証拠固めをしても、勘違いすることはある。しかも、ちょっとやそっとの間違いではないことも多い。
有名な化石なのに、最初の判断が間違っていた例と、その間違いを修正することで得られた教訓をいくつかあげてみよう。
四本足のヘビ「テトラポドフィス・アンプレクトゥス」
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image credit:Ghedoghedo / Wikimedia Commons
2015年、古生物界を驚かせたのは、テトラポドフィス・アンプレクトゥスの化石だ。
ヘビのような体に、4本の小さな脚がついていて、ヘビとトカゲの間のミッシングリンクとして注目された。だが、疑問も残った。
2021年始め、べつの古生物学者のグループが、長い時間をかけてこの骨を再調査した結果、テトラポドフィスはヘビではなく、ドリコサウルスという絶滅した海洋性トカゲの仲間だったことがわかった。
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image credit:public domain/wikimedia
今後も、この化石については、さまざまな議論があると思われるが、いずれにしても、ここから学べることはある。
極めて保存状態がいいので、化石の記録がまばらにしかないドリコサウルスについて、新たな事実がわかる可能性があるのだ。
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image credit:Caron et al., Proc. Royal Soc. B , 2013
5億4100万年から4億8500万年前のカンブリア紀、地球に生息していた生き物は、今日私たちが目にするものとはまったく違う姿をしていた。
とくに海底には、それはそれは、奇妙な姿をした生き物がいた。現代の私たちがそんな生き物の存在を知っているのは、湖の堆積物が固まって頁岩となり、そこに刻み込まれた謎めいた大古の生物の痕跡を、古生物学者たちが解明しようと試みたおかげだ。
そんな奇妙な生物のひとつがハルキゲニアで、この世のものとは思えないような復元図から、この名がつけられた。
背中に少なくとも7本の硬そうなトゲがついていて、妙にひょろ長い脚が7対あり、片方の端には、大きな球状の頭のようなものがある。
だが、見つかっている多くの化石には頭がなかったため、研究者は首を傾げた。
化石を再調査したところ、おもしろいことがわかった。頭だと思っていた球状の部分は、実は尻で、堆積物の中で圧縮されて肛門から出てきた内臓だったのだ。
ハルキゲニアは、有爪動物や節足動物、クマムシの仲間である葉足動物に分類される。
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動物か、植物か、菌類なのか不明だったディッキンソニア
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オーストラリアで見つかったディッキンソニアの化石 / image credit:University of Oregon
1947年に初めて明らかになって以来、いったいどういう分類に入れればいいのか、議論が長く続いたディッキンソニア。
現在知られている生物が現われる前、カンブリア紀以前のエディアカラン紀の生き物だ。エディアカラン紀の生物は、ほとんどが軟体で、現在いる生物や、絶滅した生き物に似ているものはほとんどいないため、系統を明らかにするのは非常に難しい。
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image credit:Nobu Tamura / WIKI commons
ディッキンソニアは、楕円型で平べったく、中心部から放射状に溝がある。発見されたときは、クラゲの一種だと分類された。
蠕虫(蠕動運動で移動する虫)、ポリプ、キノコ、地衣類とさまざまな説があり、果ては動物でも、植物でも、菌類でもない未知の絶滅種だと言う専門家もいた。
数年前に行われた、この生物の成長プロセスの研究で、謎が解けた。ディッキンソニアは、もっとも単細な平板動物(プラカゾア)、あるいは海綿動物が少し進化した真正後生動物(ユメタゾア)の仲間で、動物であることが判明したのだ。イグアノドン、鼻か指か問題
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ベルギーのベルニサールで見つかったイグアノドンの化石のスケッチ / image credit:G. Lavette/Public Domain
イグアノドンは1825年、地質学者のギデオン・マンテルによって、初めて明らかにされた。
謎が解けるまで、50年以上かかった。1878年、ベルギーで完全な全身骨格標本が見つかり、この角のようなものは、この生物の前肢、つまり、霊長類でいうと親指にあたることがわかったのだ。
だが、15センチもの長さのこの硬い親指をなんのために使ったのかはわからない。仲間とのコミュニケーションのためか、捕食者に対する防衛のためか、食物と関連することなのか、不明だ。
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photo by iStock
この謎は永久に解明されることはないかもしれない。とはいえ、イグアノドンは、どんなに些細なことであっても、思い込みで決めつけて考えてはいけないことを教えてくれたのだ。議論の絶えない始祖鳥(アーケオプテリクス)
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image credit:Museum fur Naturkunde
始祖鳥は、1億5000万年前に生きていた最初の鳥類として古くからよく知られているが、世界中でわずか12ほどの化石しか発見されていない。
それ故にいまだにその正体について、さまざまな議論がある。鳥ではなく恐竜に分類すべきだという説もあり、個々の標本は精査の対象になっている。
2017年、研究者チームが最初は翼手竜だと考えられていた、ひとつの始祖鳥の標本を分析し直し、これは始祖鳥ではなく、まったく未知の恐竜、獣脚竜の一種だとした。今のところ、この説が有力のようだ。
2019年、羽一枚のべつの標本が再分析され、羽の曲率(ひずみ)から、未知の生き物の羽だと判断された。
だが、2020年、べつの古生物学者チームが、この曲率は誤りであることを発見した。いずれにしても、羽の曲率は、かなり変化する可能性があることがわかった。
さらに、この羽はほかの始祖鳥の標本があった場所から発見され、大きさも形もその始祖鳥のものと似ているという。
この問題に決着がつくかどうかはべつとして、これで始祖鳥論争が終わりになるわけではないことは確かだろう。
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生き物は、とても謎めいている。論争がどういう方向に展開しようと、私たちのこの世界について、なにか新しいことを知るすばらしいチャンスを与えてくれることだろう。
この惑星がその神秘的な深い懐に保存してくれている、あらゆる化石のかけらと同じように。
References:The Famous Fossils Scientists Got Incredibly Wrong / written by konohazuku / edited by parumo
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研究者たちは、残された骨の一部や、風化した足跡などを頼るしか術がない。だがそれだけで、大昔に存在した生物の詳細をつかめるとは限らない。
研究者がたいそう骨の折れる地道な作業を続けて証拠固めをしても、勘違いすることはある。しかも、ちょっとやそっとの間違いではないことも多い。
有名な化石なのに、最初の判断が間違っていた例と、その間違いを修正することで得られた教訓をいくつかあげてみよう。
四本足のヘビ「テトラポドフィス・アンプレクトゥス」
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image credit:Ghedoghedo / Wikimedia Commons
2015年、古生物界を驚かせたのは、テトラポドフィス・アンプレクトゥスの化石だ。
1億1000万年前のこの生物の骨の化石は、科学者にとって長いこと探し求めていたものだ。
ヘビのような体に、4本の小さな脚がついていて、ヘビとトカゲの間のミッシングリンクとして注目された。だが、疑問も残った。
2021年始め、べつの古生物学者のグループが、長い時間をかけてこの骨を再調査した結果、テトラポドフィスはヘビではなく、ドリコサウルスという絶滅した海洋性トカゲの仲間だったことがわかった。
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image credit:public domain/wikimedia
今後も、この化石については、さまざまな議論があると思われるが、いずれにしても、ここから学べることはある。
極めて保存状態がいいので、化石の記録がまばらにしかないドリコサウルスについて、新たな事実がわかる可能性があるのだ。
どちらが頭がわからなかったハルキゲニア
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image credit:Caron et al., Proc. Royal Soc. B , 2013
5億4100万年から4億8500万年前のカンブリア紀、地球に生息していた生き物は、今日私たちが目にするものとはまったく違う姿をしていた。
とくに海底には、それはそれは、奇妙な姿をした生き物がいた。現代の私たちがそんな生き物の存在を知っているのは、湖の堆積物が固まって頁岩となり、そこに刻み込まれた謎めいた大古の生物の痕跡を、古生物学者たちが解明しようと試みたおかげだ。
そんな奇妙な生物のひとつがハルキゲニアで、この世のものとは思えないような復元図から、この名がつけられた。
背中に少なくとも7本の硬そうなトゲがついていて、妙にひょろ長い脚が7対あり、片方の端には、大きな球状の頭のようなものがある。
だが、見つかっている多くの化石には頭がなかったため、研究者は首を傾げた。
なぜ、みんな頭部がないのか?
化石を再調査したところ、おもしろいことがわかった。頭だと思っていた球状の部分は、実は尻で、堆積物の中で圧縮されて肛門から出てきた内臓だったのだ。
ハルキゲニアは、有爪動物や節足動物、クマムシの仲間である葉足動物に分類される。
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動物か、植物か、菌類なのか不明だったディッキンソニア
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オーストラリアで見つかったディッキンソニアの化石 / image credit:University of Oregon
1947年に初めて明らかになって以来、いったいどういう分類に入れればいいのか、議論が長く続いたディッキンソニア。
現在知られている生物が現われる前、カンブリア紀以前のエディアカラン紀の生き物だ。エディアカラン紀の生物は、ほとんどが軟体で、現在いる生物や、絶滅した生き物に似ているものはほとんどいないため、系統を明らかにするのは非常に難しい。
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image credit:Nobu Tamura / WIKI commons
ディッキンソニアは、楕円型で平べったく、中心部から放射状に溝がある。発見されたときは、クラゲの一種だと分類された。
蠕虫(蠕動運動で移動する虫)、ポリプ、キノコ、地衣類とさまざまな説があり、果ては動物でも、植物でも、菌類でもない未知の絶滅種だと言う専門家もいた。
数年前に行われた、この生物の成長プロセスの研究で、謎が解けた。ディッキンソニアは、もっとも単細な平板動物(プラカゾア)、あるいは海綿動物が少し進化した真正後生動物(ユメタゾア)の仲間で、動物であることが判明したのだ。イグアノドン、鼻か指か問題
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ベルギーのベルニサールで見つかったイグアノドンの化石のスケッチ / image credit:G. Lavette/Public Domain
イグアノドンは1825年、地質学者のギデオン・マンテルによって、初めて明らかにされた。
鼻の上に角のようなものがあったため、彼は角だと判断した。サイの頭にも角があるため、無理もないかもしれない。
謎が解けるまで、50年以上かかった。1878年、ベルギーで完全な全身骨格標本が見つかり、この角のようなものは、この生物の前肢、つまり、霊長類でいうと親指にあたることがわかったのだ。
だが、15センチもの長さのこの硬い親指をなんのために使ったのかはわからない。仲間とのコミュニケーションのためか、捕食者に対する防衛のためか、食物と関連することなのか、不明だ。
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この謎は永久に解明されることはないかもしれない。とはいえ、イグアノドンは、どんなに些細なことであっても、思い込みで決めつけて考えてはいけないことを教えてくれたのだ。議論の絶えない始祖鳥(アーケオプテリクス)
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image credit:Museum fur Naturkunde
始祖鳥は、1億5000万年前に生きていた最初の鳥類として古くからよく知られているが、世界中でわずか12ほどの化石しか発見されていない。
それ故にいまだにその正体について、さまざまな議論がある。鳥ではなく恐竜に分類すべきだという説もあり、個々の標本は精査の対象になっている。
2017年、研究者チームが最初は翼手竜だと考えられていた、ひとつの始祖鳥の標本を分析し直し、これは始祖鳥ではなく、まったく未知の恐竜、獣脚竜の一種だとした。今のところ、この説が有力のようだ。
2019年、羽一枚のべつの標本が再分析され、羽の曲率(ひずみ)から、未知の生き物の羽だと判断された。
だが、2020年、べつの古生物学者チームが、この曲率は誤りであることを発見した。いずれにしても、羽の曲率は、かなり変化する可能性があることがわかった。
さらに、この羽はほかの始祖鳥の標本があった場所から発見され、大きさも形もその始祖鳥のものと似ているという。
この問題に決着がつくかどうかはべつとして、これで始祖鳥論争が終わりになるわけではないことは確かだろう。
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生き物は、とても謎めいている。論争がどういう方向に展開しようと、私たちのこの世界について、なにか新しいことを知るすばらしいチャンスを与えてくれることだろう。
この惑星がその神秘的な深い懐に保存してくれている、あらゆる化石のかけらと同じように。
References:The Famous Fossils Scientists Got Incredibly Wrong / written by konohazuku / edited by parumo
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』