催眠術って本当に効くの?催眠術に関する誤解と科学的事実
 体が板のように硬くなって身動きできなくしたり、動物になったと思い込ませてみたりと、テレビで見る催眠術といえば、ちょっと怪しげなパフォーマンスを思い浮かべるかもしれない。

 だが、これはかなり誤解されたイメージだという。


 確かに賛否両論はあるが、本物の催眠術は安っぽいマジックなどではなく、「催眠療法」として、人のストレスや不安を緩和することができる効果的な治療法であることが証明されている。

 ここでは、催眠術に関する疑問を科学的に解き明かしていこう。

催眠術に関する誤解:催眠中もずっと意識はある 代替医療として使用される「催眠療法」では、言葉による合図や反復といったさまざまなテクニックで、患者をリラックスさせつつ、集中した状態に導こうとする。

 たとえば、穏やかな口調で患者を落ち着かせ、安心や幸福を感じさせるイメージを思い浮かべさせたり、患者に目標を達成している様子をありありと連想させたりする。

 だが催眠によって患者がコントロールを失ったり、何も覚えていないというのは誤解だ。

 催眠セッションの最中、患者はずっと意識があるし、普通はその時のことをはっきり覚えている。

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古今東西、催眠術の歴史 催眠術に似たものなら、北米先住民の治療法からシベリアのシャーマニズムまで、世界中のさまざまな文化で古くから存在する。

 西洋では、18世紀後半から19世紀に催眠術を行ったドイツの医師フランツ・アントン・メスメルが有名で、その名は「メズマライズ(催眠術をかける)」という言葉の語源にもなっている。

 メスメルは「動物磁気説」の提唱者で、病気の原因は体内を流れる目に見えない流体の流れが滞ることであると考えた。

 この理論は似非科学的なものだったが、それでも19世紀には強い影響力を持つようになる。が、やがて詐欺の疑いをかけられ、動物磁気説は衰退していった。

 20世紀に入ると、欧米では人に「ニワトリのマネ」をさせたり、「板のように硬く」したり、「聖母マリアの出現を目撃」させたりと、あの手この手の催眠術パフォーマンスが流行した。


 さらに、ハンガリーにある田舎の城で若い女性がオカルティストの前で不審な死を遂げるなど、催眠術がらみの様々なスキャンダルも聞かれるようになった。

 こうして催眠術は評判を落とし、まともな医者たちは距離を置くようになる。だがここ数十年で催眠術は復活し、最近ではその有効性を裏付けるきちんとした学術的な研究まで増えている。

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不安を治療する、科学としての催眠術 パフォーマンス的な催眠術は置いておくことにして、治療とし使用される催眠療法は一定の効果を上げているようで、研究結果も報告されている。

 たとえば、20本の研究を対象とした2017年のメタ分析では、催眠術はがん患者の不安を有意に改善することを明らかにしている。

 2019年の別のメタ分析によれば、催眠術は患者の不安を平均79%低下させるという。

 2020年の研究では、重度の慢性閉塞性肺疾患の患者が抱える不安が、わずか「15分間の催眠術」でただちに緩和することを確認している。

 その治療効果は、認知行動療法暴露療法など、ほかのセラピーと組み合わせると最大限に発揮されるという。

 こうした効果は、催眠でリラックスして、気分が落ち着くことによるものと考えられている。

 2016年の研究では、催眠を施された57人の脳をスキャンし、感情の制御や自意識に関係する領域の活動が変化することを確認している。

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ただし誰にでも効果があるわけではない ただし催眠術は誰にでも効果があるわけではない。

 マッコーリー大学の認知科学者ヴィンス・ポリト博士の説明によれば、「人口の約15%は非常に催眠にかかりやすい」のだという。


 そうした人は、「誘導」(対象を固定し、心の目で想像させる)や、それに続く「提案」といった手法によく反応する。

 その一方で、ほとんど催眠にかからない抵抗力のある人も15%ほどいる。

 ハーバード大学医科部のアーヴィン・カーシュ氏によれば、そもそも催眠とは、かけられた人がそれを受け入れ、そう信じることで効果を発揮するのだという。

 マユツバものと思われがちな催眠術だが、使い方次第では確かに効果があるようだ。

 世界中の一流の心理学者らがこの神秘的な方法を通じて、不安だけでなく、痛み・過敏性腸症候群・PTSD・不眠症・依存症など、さまざまな症状を治療しようと試みているそうだ。

References:Does hypnosis really work for anxiety? Here's what the science says / written by hiroching / edited by / parumo

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