
天高くそびえ立つヒマラヤ山脈の足ものとでは、地殻であるインドプレートとユーラシアプレートが雄大な力比べをしている。最新の研究によると、インドプレートが「剥離」して、上下に裂けている可能性が明らかになったそうだ。
この新しい仮説は、地下から湧き出るヘリウム同位体の手がかりや、地震波の分析から導き出されたものだ。
地殻プレートが裂ける可能性はこれまでも指摘されてきたが、それを裏付ける痕跡が発見されたのは初めてのことだ。
地下で起きている壮大な地殻の押しくら饅頭は、現代の地形が作り上げられたプロセスを理解するヒントになるとともに、チベットで起きる地震を知るうえでも大切な手がかりであるそうだ。
地殻構造のインドプレートとは? 地球の表面は「プレート」という厚さ100kmほどの岩盤でおおわれている。
陸地の下にあるものを「大陸プレート」、海底の下にあるものを「海洋プレート」というが、大陸プレートは海洋プレートほど密度が高くない。
そのため大陸プレートには浮力が働き、なかなかマントルへと沈んでいかない。
ゴンドワナ大陸から分裂してできた「インドプレート」もその1つだ。
[画像を見る]
photo by iStockインドプレートが分裂している可能性 インドプレートはユーラシアプレートと衝突しているが、一説によると、それでもマントルに沈み込まず、チベットの下を水平に滑り続けているという。
また別の説によれば、インドプレートの一番浮力が強い部分が、衝突のラインに沿ってまるで絨毯のように波打ち、プレートの下半分だけが沈み込みやすくなっているという。
そして今回、チベットの泉で集められた手がかりや地震波の分析から、また別の可能性が浮上してきた。
それによると、インドプレートは、ユーラシアプレートの下に滑り込みつつ、「剥離」して、上下2つに裂けている可能性があるという。
プレートが上下に剥がれる可能性は、以前から指摘されてきたことだ。
プレートは、浮力のある地殻と、もっと密度の高い上部マントル岩石による層でできている。だから、ぎゅっと押しつぶされると、層があわさる弱いところから裂けてしまうと考えられるのだ。
だが、実際にそれが起きていることを示す痕跡が発見されたのは初めてのことだ。
[画像を見る]
image credit:agu.confex裂け目の証拠はチベットにある そのような裂け目を探す研究者は、ヒマラヤ山脈に衝突しているインドプレートに注目してきた。
アリゾナ大学の地質学者ピーター・デセレス氏(今回の研究には参加していない)は、このプレートを海の「マンタ」にたとえている。厚みのある大陸プレートとそれを挟むような左右の海洋プレートが、世界最大のエイの姿に似ているからだ。
インドプレートはヒマラヤ山脈に衝突しているが、この時、薄い海洋プレートはユーラシアプレートの下に簡単に沈み込んでいく。
ところが、大陸プレートはひたすらにユーラシアプレートに突進しようとする。それによる沈み込み速度の差が、インドプレートを引き裂くと考えられるのだ。
スタンフォード大学の地球物理学者サイモン・クレンペラー氏は、その証拠を探すためにチベットに通い、数年がかりで約1000kmにわたって点在する200もの湧水からサンプルを採取した。
そこにはヘリウムの同位体「ヘリウム3」が含まれている。これは地球が誕生したときに閉じ込められた軽い同位体で、これが豊富ならば足元にマントル岩石があるだろうことがうかがえる。
こうした泉のサンプルから、ヘリウム3の分布を描いた地図を作ってみたところ、ある場所で興味深いラインが浮かび上がった。
そのラインは南北を隔てたもので、南側の泉は地殻の存在を示す一方、北側の泉はマントルの存在を示していた。
クレンペラー氏らによれば、このラインこそが、インドプレートが無傷のままチベットの下に滑り込んでいるギリギリの境界を示すものだという。
だが、このラインの南側、ブータンの東部国境付近のある地域では、3つの泉にマントルの痕跡があり、裂けたプレートの隙間に高温のマントル岩石が流れ込んでいることがうかがえた。
[画像を見る]
photo by iStock地震波による裏付け この仮説は、地殻とマントルの境界を横切る地震波からも裏付けられている。何百もの地震観測点で記録された地震波のデータは、地下にある2つの塊を描き出していた。
それもまたインドプレートの下の部分が、上から剥がれていることを示すものだ。
もっと最近の地震波の分析では、その裂け目の始まりが西端にあるだろうことがわかっている。その裂け目の西側では、インドプレートの底は深さ200キロのところにあり、まだ無傷であることがうかがえる。一方、その東側では、深さ100km付近にある裂け目にマントル岩石が流れ込んでいるのだ。
こうしたことは現時点では仮説であり、まだはっきりしない点もある。
だが地球上地球上のほとんどすべての大陸が、ヒマラヤ山脈で見られるようなプレートの衝突によって作られただろうことを考えれば、今回の発見は現代の地形を理解するヒントになる。
またクレンペラー氏によれば、新たに発見された裂け目は、現在のチベットの地震に影響している可能性もあるという。
その裂け目の上には、「コナ・サングリ断層(Cona-Sangri rift)」がある。裂け目と地震との関係はまだはっきりしないが、プレートが裂けたり剥がれたりすることで、断層にたまるストレスに影響していると考えられるからだ。
現代の地形には、大昔に起きた衝突によって、いくえにも重なり合った傷跡が残されている。それがその理解を難しいものにしている。だが、クレンペラー氏によれば、それこそが研究の醍醐味であるという。そこでは「10億年の歴史を垣間見ることができる」と彼は語る。
この研究は、2023年12月に「アメリカ地球物理学連合の学会」で発表された。また現在『ESS Open Archive』でプレプリント版を閲覧できる。
References:Indian Tectonic Plate Is Splitting in Two Beneath Tibet, Latest Analysis Finds / Tectonic plate under Tibet may be splitting in two | Science | AAAS / written by hiroching / edited by / parumo
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』
この新しい仮説は、地下から湧き出るヘリウム同位体の手がかりや、地震波の分析から導き出されたものだ。
地殻プレートが裂ける可能性はこれまでも指摘されてきたが、それを裏付ける痕跡が発見されたのは初めてのことだ。
地下で起きている壮大な地殻の押しくら饅頭は、現代の地形が作り上げられたプロセスを理解するヒントになるとともに、チベットで起きる地震を知るうえでも大切な手がかりであるそうだ。
地殻構造のインドプレートとは? 地球の表面は「プレート」という厚さ100kmほどの岩盤でおおわれている。
陸地の下にあるものを「大陸プレート」、海底の下にあるものを「海洋プレート」というが、大陸プレートは海洋プレートほど密度が高くない。
そのため大陸プレートには浮力が働き、なかなかマントルへと沈んでいかない。
ゴンドワナ大陸から分裂してできた「インドプレート」もその1つだ。
[画像を見る]
photo by iStockインドプレートが分裂している可能性 インドプレートはユーラシアプレートと衝突しているが、一説によると、それでもマントルに沈み込まず、チベットの下を水平に滑り続けているという。
また別の説によれば、インドプレートの一番浮力が強い部分が、衝突のラインに沿ってまるで絨毯のように波打ち、プレートの下半分だけが沈み込みやすくなっているという。
そして今回、チベットの泉で集められた手がかりや地震波の分析から、また別の可能性が浮上してきた。
それによると、インドプレートは、ユーラシアプレートの下に滑り込みつつ、「剥離」して、上下2つに裂けている可能性があるという。
プレートが上下に剥がれる可能性は、以前から指摘されてきたことだ。
プレートは、浮力のある地殻と、もっと密度の高い上部マントル岩石による層でできている。だから、ぎゅっと押しつぶされると、層があわさる弱いところから裂けてしまうと考えられるのだ。
だが、実際にそれが起きていることを示す痕跡が発見されたのは初めてのことだ。
[画像を見る]
image credit:agu.confex裂け目の証拠はチベットにある そのような裂け目を探す研究者は、ヒマラヤ山脈に衝突しているインドプレートに注目してきた。
アリゾナ大学の地質学者ピーター・デセレス氏(今回の研究には参加していない)は、このプレートを海の「マンタ」にたとえている。厚みのある大陸プレートとそれを挟むような左右の海洋プレートが、世界最大のエイの姿に似ているからだ。
インドプレートはヒマラヤ山脈に衝突しているが、この時、薄い海洋プレートはユーラシアプレートの下に簡単に沈み込んでいく。
ところが、大陸プレートはひたすらにユーラシアプレートに突進しようとする。それによる沈み込み速度の差が、インドプレートを引き裂くと考えられるのだ。
スタンフォード大学の地球物理学者サイモン・クレンペラー氏は、その証拠を探すためにチベットに通い、数年がかりで約1000kmにわたって点在する200もの湧水からサンプルを採取した。
そこにはヘリウムの同位体「ヘリウム3」が含まれている。これは地球が誕生したときに閉じ込められた軽い同位体で、これが豊富ならば足元にマントル岩石があるだろうことがうかがえる。
一方、ヘリウム3が乏しいサンプルは、地殻から湧き出している可能性が高い。
こうした泉のサンプルから、ヘリウム3の分布を描いた地図を作ってみたところ、ある場所で興味深いラインが浮かび上がった。
そのラインは南北を隔てたもので、南側の泉は地殻の存在を示す一方、北側の泉はマントルの存在を示していた。
クレンペラー氏らによれば、このラインこそが、インドプレートが無傷のままチベットの下に滑り込んでいるギリギリの境界を示すものだという。
だが、このラインの南側、ブータンの東部国境付近のある地域では、3つの泉にマントルの痕跡があり、裂けたプレートの隙間に高温のマントル岩石が流れ込んでいることがうかがえた。
[画像を見る]
photo by iStock地震波による裏付け この仮説は、地殻とマントルの境界を横切る地震波からも裏付けられている。何百もの地震観測点で記録された地震波のデータは、地下にある2つの塊を描き出していた。
それもまたインドプレートの下の部分が、上から剥がれていることを示すものだ。
もっと最近の地震波の分析では、その裂け目の始まりが西端にあるだろうことがわかっている。その裂け目の西側では、インドプレートの底は深さ200キロのところにあり、まだ無傷であることがうかがえる。一方、その東側では、深さ100km付近にある裂け目にマントル岩石が流れ込んでいるのだ。
こうしたことは現時点では仮説であり、まだはっきりしない点もある。
だが地球上地球上のほとんどすべての大陸が、ヒマラヤ山脈で見られるようなプレートの衝突によって作られただろうことを考えれば、今回の発見は現代の地形を理解するヒントになる。
またクレンペラー氏によれば、新たに発見された裂け目は、現在のチベットの地震に影響している可能性もあるという。
その裂け目の上には、「コナ・サングリ断層(Cona-Sangri rift)」がある。裂け目と地震との関係はまだはっきりしないが、プレートが裂けたり剥がれたりすることで、断層にたまるストレスに影響していると考えられるからだ。
現代の地形には、大昔に起きた衝突によって、いくえにも重なり合った傷跡が残されている。それがその理解を難しいものにしている。だが、クレンペラー氏によれば、それこそが研究の醍醐味であるという。そこでは「10億年の歴史を垣間見ることができる」と彼は語る。
この研究は、2023年12月に「アメリカ地球物理学連合の学会」で発表された。また現在『ESS Open Archive』でプレプリント版を閲覧できる。
References:Indian Tectonic Plate Is Splitting in Two Beneath Tibet, Latest Analysis Finds / Tectonic plate under Tibet may be splitting in two | Science | AAAS / written by hiroching / edited by / parumo
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』
編集部おすすめ