
野生動物を効果的に追い払うには、捕食上位者の力を借りるのがもっとも確実だ。とはいえ、空港に本物の天敵を放つわけにはいかない。
鳥やウサギなどの野生動物は、天敵であるコヨーテを本能的に恐れ、その姿を見るだけで近づかなくなる。
この習性を応用し、リアルな見た目と俊敏な動きを備えた「サイバーハンター」として開発されたのが、このコヨーテ型ロボットだ。
コヨーテロボットはすでに基本機能の開発を終え、現在は軍用空港での試験運用が始まっている。将来的にはAI(人工知能)による自律運転や動物識別機能の搭載も予定されているという。
空港にとって深刻な「野生動物」問題
アメリカの空港では、鳥類やウサギ、シカといった野生動物が大きな問題となっている。
特に鳥は、飛行機のエンジンに吸い込まれたり、風防に衝突するなど、機体に甚大な損傷を与える恐れがある。
鳥との衝突による被害を再現・検証するために、かつて米民間航空局では「チキンガン」と呼ばれる試験装置が使われていた。
これは冷凍処理された鶏を解答処理したものや模擬体を圧縮空気で発射し、航空機の風防やエンジンに衝突させて、実際の損傷を評価するためのものである。
さらに地上でも、野生動物が滑走路を横切ったり、配線をかじったり、巣を作ったり、排泄したりと、機材の故障や事故の原因となる。
これらを防ぐために、これまで空港では、ドローン、猛禽類、犬、照明装置、さらにはガス式キャノン砲など、さまざまな動物忌避技術が導入されてきた。
捕食上位者のコヨーテそっくりのロボットなら!
この問題に対し、アメリカ陸軍工兵研究開発センター(ERDC)は、野生生物学者であるスティーブン・ハモンド博士とジェイコブ・ヤング博士、そして米国農務省・国立野生動物研究センター(NWRC)と共同で、捕食上位者であるコヨーテの姿を模した「コヨーテロボット」の開発に着手した。
鳥やウサギなどの野生動物は、天敵であるコヨーテを本能的に避ける。だが空港に本物のコヨーテを放つことは現実的ではない。
そこで、その外見と動きを再現したロボットを導入することで、自然な恐怖反応を引き出し、滑走路周辺から動物を遠ざけることを目指しているのだ。
こうして誕生した「コヨーテ・ローバー(Coyote Rovers)」は、すでに開発を完了しており、軍用空港での実地試験が始まっている。
時速32kmで野生動物を追いかける
コヨーテロボットの初期プロトタイプには、ボストン・ダイナミクス社の4足歩行ロボット「スポット(Spot)」が使用された。
しかし動きが遅く、野生動物に対する威嚇効果が薄かったため、開発チームは新たなベース機体として「トラクサスX-Maxx(Traxxas X-Maxx)」という高性能ラジコンカーを採用した。最高時速は約32kmにも達する。
その上に、リアルなプラスチック製のコヨーテ模型を載せることで、ちょっとかわいい「サイバーハンター」が完成した。
製造コストは1体あたり約3,000ドル(約48万円)と、比較的手頃な価格である。
将来的にはAIによる自律運転や動物識別機能も
現在このロボットは、フロリダ州のペンサコーラ海軍航空基地(アクロバット飛行チーム「ブルーエンジェルス」の本拠地)や、テネシー州フォート・キャンベル、フロリダ州ホワイティング・フィールド海軍航空基地など、複数の軍用空港で実地テストが進められている。
現段階ではリモコン操作によって運用されているが、将来的には以下のような機能が追加される予定だ:
- 自動巡回ルート設定:設定された経路に従って滑走路を自律走行
- 自律充電機能:数日間連続して稼働可能な電力管理システム
- AIによる動物識別:対象の動物の種類を識別し、それぞれに応じた対処行動を選択
これにより、無人での長時間運用や、動物の種類に応じた威嚇が可能となり、空港の安全性が大幅に向上する見込みだ。
野生動物の行動本能をテクノロジーで活用するというこの取り組みは、空港以外の環境保護や農業分野にも応用できる可能性を秘めている。
References: Linkedin[https://www.linkedin.com/posts/armyerdc_military-militaryaircraft-aircraft-activity-7327301454241714176-GYkz/#] / Newatlas[https://newatlas.com/military/robot-coyotes-protect-airfields-adorable-cyber-ferocity/]
本記事は、海外で報じられた情報を基に、日本の読者に理解しやすい形で編集・解説しています。