
アメリカ、ニュージャージー州にある木に止まっていた休んでいたのはアメリカフクロウ。だがそれを良しとしない存在がいた。
鳥たちは、自分より何倍も大きなフクロウに対し、空中から急降下しながら、2羽で果敢に体当たりして頭を突いている。
いったい、小鳥たちはなぜこれほどまでにフクロウを攻撃しているのか? そしてなぜ、フクロウは反撃せず、耐え忍んでいたのか?
まずはその様子を見ていこう。
木で休んでいたフクロウに攻撃を仕掛ける野鳥
ニュージャージー州在住の写真家のエリック・ケイパーズが撮影した映像がSNSで話題となっている。
同州の森の中で木の枝に止まって休んでいたのはアメリカフクロウだ。
そんなフクロウの頭上に、突如として現れたのが2羽のブユムシクイ(Blue-gray gnatcatcher)のつがいである。
彼らは空中から急降下しながら、交互にフクロウの頭を突き、体当たりを繰り返していた。
まるで、小さな波が次々と押し寄せるように、休息中のフクロウに執拗な攻撃を浴びせ続けた。
フクロウはじっと耐え続けていたが、あまりの攻撃の激しさに思わず頭を一回転。それでも小鳥たちの攻撃がやむことはなかった。
最終的にフクロウは、やれやれと重い腰をあげ、どこかへ飛び立っていった。
縄張り意識が強いブユムシクイ
フクロウに執拗な攻撃を与えていたのはスズメ目、ブユムシクイ科のブユムシクイ(英名:Blue-gray Gnatcatcher/学名:Polioptila caerulea)だ。
北アメリカ全域に分布する全長10~13cmほどの小さな野鳥で、日本では見られないが、現地では一般的な種である。
オスは青みがかった灰色の背中と白い腹、目の上に白いアイラインのような模様があり、英名の「Blue-gray(ブルーグレイ)」に由来する。
一方、メスはややくすんだ灰色で、模様は控えめだが、行動やさえずりはオスとほぼ同じだ。
ちなみにブユムシクイは、「ブユ(ブヨ)」と呼ばれる小さな羽虫を捕食することからきている。英名の “gnat”(ナット)も、同様にそうした虫の総称を指す。なお、この単語はgを発音しないため、読みは「ナット」となる。
特に知られているのがその縄張り意識の強さで、繁殖期になると巣の周囲に近づいた動物を徹底的に威嚇・排除しようとする。
このように、小さな鳥が大型の動物に対して集団で声を上げたり体当たりをして追い払う行動は、「モビング(mobbing)」と呼ばれる本能的な防衛行動で、多くの鳥類で見られる。
今回のアメリカフクロウへの攻撃も、まさにこの防衛本能に基づいたものだろう。おそらくはフクロウがとまっていた木の近くに、ブユムシクイの巣があったと考えられる。
フクロウはなぜ反撃しなかったのか?
ブユムシクイからの執拗な攻撃に耐えていたのは、北アメリカ全域に分布するアメリカフクロウ(英名:Barred Owl/学名:Strix varia)だ。
中型の猛禽類で、体長は約50cm、翼を広げると1m以上にもなる。その大きな体と鋭い爪、くちばしを使って、ネズミやリス、小鳥、両生類、昆虫など、幅広い獲物を捕食できる能力を持っている。
となると、小鳥なんて簡単に捕食できそうなものだが、なぜそうしなかったのか?
実はアメリカフクロウは夜行性で、狩りをするのは基本的に夜間である。
昼間はエネルギーを節約するため、木陰に止まってほとんど動かずに過ごす傾向がある。つまりこの時、フクロウは“狩りモード”ではなかったのだ。
また、ブユムシクイのような小鳥が仕掛けるモビングに対しては、「反撃するよりも、ほっておいたほうが消耗しない」と本能的に判断することが多い。
実際、小鳥はすばしこく空中を舞い、狩りの成功率も低いため、エネルギーの無駄だと考えて回避を選ぶのだ。
今回のように、何度も頭を突かれていたにもかかわらず反撃せず、静かに飛び去っていったのは、野生の中で生き抜くための合理的な戦略だったのだろう。