
地中海が原産で、日本には大正時代に渡来している多年草「テッポウウリ」は、まるで機関銃をぶっ放すかのように、実が破裂し種子を噴射するユニークな植物だ。
その爆発的な発射は、あまりにも高速で、もはや人間の目では捉えきれないほど。
だが現代にはハイスピードカメラやCTなど、さまざまな科学技術がある。
それによって解明された「圧力と反動」を利用したメカニズムは、植物界では唯一無二のものであることがわかった。
機関銃のように種を発射するテッポウウリ
「テッポウウリ(Ecballium elaterium)」は、地中海が原産のウリ科エクバリウム属の多年草だ。
テッポウの名は伊達ではない。産毛が生えた卵形の実が熟すと、銃の激鉄を思わせる動きで茎が外れて、中に詰まった種子(タネ)と果汁を爆発的に噴射する。
その速度は秒速20mに達し、種子は最大で実の250倍の距離、およそ10mほどもぶち撒けられる。
学名もこのユニークな特徴に因んだもので、ギリシャ語で「投げ出す」を意味する“ekballein”からきている。
そんなド派手な種子の散布プロセスなのだから、当然ながら植物学者たちは以前からテッポウウリの仕組みに魅了されてきた。
なのに、どうやってこの爆発的な現象を引き起こしているのかは、長年の謎だった。
ハイスピードカメラで高速射出機構を激写
だが昨年、英国オックスフォード大学とマンチェスター大学の研究チームが、植物園で栽培した実物を利用して実験を行い、ついにその詳細な発射メカニズムを解明することに成功したのだ。
この研究では、最大毎秒8600フレームのハイスピードカメラのほか、CTスキャン・実と茎の体積測定・圧痕試験(押して、へこみ具合から硬さを確かめる試験)・定点観察などの手法を組みわせて、テッポウウリが種子を吹き飛ばす詳細な数理モデルを構築している。
果実と茎がつくる“理想の発射装置”
この分析の結果、明らかになったのが次のような発射メカニズムだ。
この爆発的な現象のエネルギーの源となるのは圧力である。
種子発射数週間前になると、実の内側に粘液がたまり圧力が蓄積される。
これにより茎が太く硬くなり、実は発射にちょうどいい45度の角度に傾いて、準備が完了する。
いよいよ発射の瞬間、最初の数百マイクロ秒で茎の先端がすっぽ抜けるように実から切り離され、実はその反動で逆方向に回転しながら種子を噴出する。
こうした発射メカニズムであるゆえに、最初の種子は高圧かつ適度な角度で射出され、遠くまで飛ぶ。
だが、だんだんと圧力が低下し、実も回転によって上を向くために、後の種子ほど近くに落ちる。この結果として、種子はテッポウウリから2~10mの範囲に均等にばら撒かれることになる。
粘液でくっつきやすく、発芽しやすい工夫も
爆発で飛び出した種子には、粘り気のある粘液がまとわりついている。この粘液は水に濡れるとゲル状になり、乾燥すると接着性を持つ。
このしくみは、種子が地面にうまくくっつき、発芽に適した位置に定着しやすくするための工夫と考えられている。
粘液を実から茎へと再移動させるこのシステムは、植物界でも類を見ないきわめてユニークなものであるという。
数学モデルを用いたシミュレーションでは、一見荒々しいこのプロセスが、繁殖率を高められるよう、きわめて精妙なバランスの上に成り立っていることが確認されている。
たとえば、テッポウウリの茎に粘液が多く入り、硬くなり過ぎれば、種子はほぼ水平に射出され、実もあまり回転しなくなる。
一方、茎への粘液の移動が減ると、今度は実の圧力が高すぎて、種子はほぼ垂直に射出される。その結果、種子は遠くまで届かず、やはり生存率が低下する。
「この植物がなぜ、そしてどうやって種子をこれほど激しく発射するのか? 長年人々が抱いてきた疑問にようやく答えることができました」(オックスフォード大学植物園 クリス・ソログッド博士)
この驚くべき天然の射出メカニズムをヒントに、将来的には「ナノ粒子を狙った方向に高速で放出するカプセル」のような薬剤送達技術など、バイオ工学や材料科学への応用が期待されている。
この研究は、『PNAS[https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2410420121]』(2024年11月25日付)に掲載された。
References: New study reveals the explosive secret of the squirting cucumber[https://www.ox.ac.uk/news/2024-11-26-new-study-reveals-explosive-secret-squirting-cucumber]
本記事は、海外の情報を基に、日本の読者向けにわかりやすく編集しています。