
オランダ・アムステルダムの運河は、美しい景観で知られる一方、高い護岸が続いており、誤って猫や小動物が落ちると自力で岸に上がれないという危険がある。
そうした中、この都市では猫を守るための新たな取り組みが始まろうとしている。
外で自由に暮らす猫が多いオランダでは、過去半年間に市内で19匹の猫が運河に落ちて命を落とした。市当局は「これ以上は見過ごせない」と判断し、アムステルダム市は運河沿いに小さな木製階段を設置する計画を決定したのだ。
猫を救うため、市の予算で木製階段の設置を開始
この計画は、動物の権利や福祉を政策の中心に掲げる「動物党(Party for the Animals/PvdD)」の市議、ユーディット・クロム氏によって提案された。
動物党はオランダの国政にも議席を持つ、世界的にも珍しい動物福祉専門政党で、環境保護や野生動物保護に積極的に取り組んでいる
動物保護団体「ディーレンアンビュランス・アムステルダム」によると、過去6か月間で19匹の猫が運河で命を落とし、そのうち6匹は市中心部で発生、「特に危険なエリア」がいくつか特定されたという。
こうした状況を受けて、アムステルダム市議会は7月10日、クロム氏の提案を正式に採択。今後、市は同団体と協力しながら、事故が多発している運河沿いの地点を優先して、猫用の木製非常階段の設置を進めていく予定である。
この階段は、猫が水から這い上がれるよう設計された小型の木製構造物で、「キャットトラップ(Cat Trap)」という愛称で呼ばれている。
水面から護岸の上まで緩やかな傾斜でつながれており、猫だけでなく他の小動物の脱出路としても期待されている。
資金は、市の生物多様性に関する未使用予算から10万ユーロ(約1,570万円)が充てられる。
外を歩く猫が多いオランダの文化的背景
オランダでは、猫を外に出して飼うスタイルが日本よりも広く受け入れられている。多くの家庭では「キャットドア(猫専用の出入り口)」を備え、猫が屋外と室内を自由に行き来できるようにしている。
また、建物の外壁に猫用の階段やステップを取り付ける光景も一般的で、これはスイスなど他のヨーロッパ諸国でも見られる文化的習慣である。
こうした飼い方には、オランダが動物福祉に熱心な国であるという背景がある。
「猫は本来、自由に歩き回る生き物であり、その自然な行動を尊重すべきだ」という考え方が根強く、屋外で過ごす時間も猫の健康や精神状態にとって重要だとされている。
対照的に、日本では都市化や交通量の多さ、住宅密集地でのトラブル、感染症への懸念などを背景に、完全室内飼いが推奨される傾向が強い。
猫を外に出さないという飼い方が標準とされる国と比べると、オランダのように都市部でも外飼い文化が根付いている国では、こうした事故防止の対策が現実的な課題となる。
他都市でも進む「猫対策」
猫の運河転落に対する対応は、アムステルダムだけではない。近隣のアメルスフォールト市では、すでに2024年から動物福祉環境プログラムの一環として、年間約300基の猫階段を市内の水辺に設置している。
地元の動物救急団体や住民、調査機関が連携し、危険地点をマッピングしたうえで、設置場所を決定しているという。
アムステルダムのユーディット・クロム氏は、この計画について「単純な対策であっても、動物の大きな苦しみを防ぐことができる。今回の採択は、私たちの街が動物の命を守る責任を果たすことを示すものだ」と語っている。
人と猫とが共存する都市において、どのように命を守っていくか。アムステルダムの小さな非常階段は、動物と人間が都市で共に暮らすための現実的な工夫として、今後オランダの地域にも広がっていく可能性がある。
References: Destadamersfoort[https://www.destadamersfoort.nl/lokaal/dieren/1174529/kattentrappen-geplaatst-om-verdrinkingsdood-katten-en-andere-]
本記事は、海外の情報を基に、日本の読者向けにわかりやすく編集しています。