日本語ラップ曲というと、ZeebraやANARCHYのような骨太で硬派なサウンドを想像する人が多いだろう。確かに、日本語ラップ曲の大多数は重低音で煽るタイプが多かったのだが、いまなにかと注目されるZ世代のアーティストたちは、そのフォーマットにとどまらないアプローチをおこなっている。
今回紹介する5組は、共通点も相違点もあるが、2022年以降の音楽のひとつの方向性のヒントを感じることができる。雨の季節、気持ちがなかなか晴れない日も多いが、どのアーティストの曲もそんな気分を一掃してくれること間違いなしだ。

kZm(カズマ)

東京を代表するヒップホップ・クルーとなったYENTOWNに所属、ファッション・アイコンとしても注目を集めるラッパーkZm。2020年にリリースしたアルバム『DISTORTION』では、 RADWIMPS野田洋次郎との意表を突くコラボレーションや、ロンドンを拠点に活動するシンガー小袋成彬との共演を発表するなど、ゼロ年代以降のロックとヒップホップのさり気ない融合は、ある種のエポックメイキングな出来事だった。

そんなkZmが2021年4月にリリースしたのが、 ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「ラストシーン」を存分にサンプリングした 「Aquarius Heaven」。ECDがマーヴィン・ゲイをサンプリングをして注目されたように、これまでのヒップホップはクラシカルな曲を取り入れることがセンスの良さを求められていた気がする。


出典元:YouTube(kZm)

確かに〈通〉っぽいけれど、新しい曲をサンプリングすることに対して「超えてはいけない 息苦しさ」みたいな空気があったのも事実。そんな壁をkZmは容易く乗り越え、新たなヒップホップの魅力を提示してくれているのではないだろうか。

MonyHorse

出典元:YouTube(YENTOWN)

曲の真意は別として、コロナ禍で憂鬱な日常が続く中、鼓舞してくれた曲がMonyHorseの「Look Up」だった。

コンビニで買うアイスコーヒー

喉が渇く 夏の日

仲間の誰かにコーリン

楽しい 気づけばMorning

普通の日々の中にあった当たり前のようにあった時間。歌詞に書かれた光景は、聴く人それぞれの記憶に置き換わり、以前の日常がとても愛しいものに感じることができた。そして残響音を深く残したピアノから始まるトラックは、心の内側を静かに抉られるような感覚にさせられていく。
その一方で、この曲を通じて「顔をあげようよ」と、さりげなく聴く者に声をかけてくれる。

ちなみに MonyHorseもYENTOWNに所属、 PETZ、JNKMN と一緒に3MCからなるユニットMONYPETZJNKMNで活動しているので、こちらも要チェック。

Lil Soft Tennis

出典元:YouTube(HEAVEN)

関西では、RY0N4、清水エイスケ(Age Factory)、Lil Soft Tennisなど関西のアーティストを中心に結成され、楽曲のプロデュースからパーティーのオーガナイズ、グラフィックデザインなどを手掛けるアーティスト集団〈HEAVEN〉に注目。その中でもLil Soft Tennisの動きが面白い。Lil Soft Tennisを一言で表すとすれば「ジャンルレス」。ヒップホップ要素を持ちながら、インディーロックやパンク、エレクトロなど多彩な音像を残してくれる。


これまでにもミクスチャーロックという言葉は存在したけれど、「ジャンルレス」というと「(笑)。」みたいな空気があったのも事実。それがいまでは、アーティストもリスナーも「ジャンルレス」を受け入れ、ポジティブなものとして捉えるようになっている。むしろ「ジャンルレス」という言葉が死語にさえなり始めたいま、さらに加速的に新しい音楽のアプローチが生まれてくるのだろう。

「Tell Me」では、ギターのコード感やアルペジオ感がPixiesっぽいがオルタナ的な空気を感じさせてくれる。そして秀逸なのがこの言葉。

けど俺一軒家を建てたいし

運転しないけど 欲しいベンツ

満足しないで生きる

反省して次に活かす

この潔い自己表明。
「ミニマリズム」とか「モノを持たない生き方」が賞賛される風潮がある中、この物欲をストレートに言い切る感覚が気持ち良く思える。

non albini

non albiniは関西を拠点に活動するパンクバンド、R4のボーカリストであるHiroki Arimuraのソロ・プロジェクト。 non albiniもヒップホップ要素を持ちながら、パンクやインディー・ロック、エモなどのギター・サウンドが心地よい多彩な音楽のエッセンスを混ぜ合わせた音像を作り上げている。

これがパンクバンドのフロントマンが作り出す音楽!? と思えるほどノスタルジーを感じさせるメロディ、そして投げやりな歌声の絶妙さがクセになるのではないだろうか。そして同じマインドで交流のあるLil Soft Tennisがフィーチャリングで参加した「Kyoto」は、ギターポップとヒップホップが、本当に最高なバランスで調合された曲になっている。

出典元:YouTube(ett boi)

俺はコンクリートに咲いてるFlower

もがきながら 背を伸ばすバラ

いつかFamous Iceの山

また現在進行形の若者たちの内省から滲みでる言葉が特徴的で、母性本能をくすぐられる。
non albiniという名前がどのような経緯でつけられたかはわからないが、アメリカ中西部を拠点に、1980年代後期以降のオルタナティヴ・ロック/アンダーグラウンド・ロックシーンを代表する名エンジニアとして活躍したスティーヴン・フランク・アルビニに所以しているとしたら、そのセンスがエモーショナル過ぎるのだが。

Lilniina (リルニーナ)

出典元:YouTube(DA.YO.NE. movie)

最後に紹介するのは Lilniina。今回のコラムを書くにあたって初めて知った名古屋在住のトラックメーカー&ラッパーで、non albiniに通じる心地よい気怠い歌声を何度もリピートしてしまったのが「Im tryin : (」。既出のインタビュー記事を読むと、小学生の時にNirvanaでロックと出会いエレキギターを手にし、高校生までいろんなバンドで活動をしていたらしい。ヒップホップを始めたのは高校生の頃。若手ラッパーとして注目されているBainの影響で曲作りに参加、その後もSoundCloudで様々なアーティストやクリエイターと出会い、いまの音楽スタンスを強めていったそうだ。
まだまだ情報量も少ないのでキャリアや年齢も想像するしかないのだけれど、新しいアーティストに出会うということは余分な情報は必要がなくて「音」で共有・共鳴できればいいんじゃないか。そんな感覚を久しぶりに思い出したのがLilniinaだった。

しかし、そんな彼女のポテンシャルを感じる人も増えているのだろう、最新曲「Swipe 2 Connect」は、この春のマイナビティーンズ×Sclumによる 卒業・進級する女子中高生の為の #青春スワイプ キャンペーン のイメージソングに起用され、Lilniina自身もイメージモデルとして登場している。早く、ライブで彼女のパフォーマンスを見てみたい。

(KKBOXライター:山本雅美)