史上初の直木賞&本屋大賞のW受賞を果たした恩田陸・原作の「蜜蜂と遠雷」。“映像化不可能”と言われた作品がいよいよ2019年10月4日から公開されます。
それぞれ異なる才能を持った若き4人のピアニストたち(松岡茉優/松坂桃李/森崎ウィン/鈴鹿央士)が、国際ピアノコンクールを舞台に生命と魂を賭けた演奏シーンは、息つく間もないほどの描写になっています。

出典元:YouTube(東宝MOVIEチャンネル)

物語のキーとなるコンクール課題曲「春と修羅」は、日本を代表する作曲家の藤倉大が書き下ろした新作で、その楽曲を実際に奏でるピアニストは河村尚子、福間洸太朗、金子三勇士、藤田真央という日本最高峰のピアニストたち。同じ作品でありながら、違う演奏手法で表情の異なる「春と修羅」を堪能できます。クラシックピアノが詳しくない人でも、映画を観ているだけで難しい作品というのが伝わってくる「春と修羅」。今回はこの4人のピアニストたちに、それぞれが演じた登場人物たちが弾く「春と修羅」についての聴きどころや、苦労した点についてお話をお聞きします。映画を観る前はもちろん、観たあとでも「蜜蜂と遠雷」を10倍楽しめます!

河村尚子が語る〈栄伝亜夜〉

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Q1: 亜夜の演奏する「春と修羅」をどのように表現されたのでしょうか?

まずは旋律をシンプルですが美しく歌うよう心がけました。
そして微妙に変化するハーモニーをよく感じながら、それに伴い音色を変えていきました。カデンツァではジャズの和声がふんだんに使用されていることもあって、クラシックより少しアグレッシブなタッチでやや乱暴的に弾いたり、リズムやアクセントを機敏に演奏しました。

Q2:「春と修羅」の演奏で苦労した点、聴きどころを教えてください。

「春と修羅」はテクニック的に難易度の高い作品ですが、書かれている音を目で読み、指で弾き、耳で聴き、身体に慣れるまでかなりの時間がかかりました。

冒頭のシンプルな旋律が終わった後、異なった音形をそれぞれ左手(4つの音符)と右手(5つの音符)で弾きますが、その音形が微妙に少しずつ変化していく、三声それぞれが独立した存在を持っていながらも、他声と調和されなければならないという大変繊細な部分に苦労しました。

Q3:河村さんにとって、栄伝亜夜はどのようなピアニストだと感じましたか。


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©2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

ピアノを子供の頃から自然体で弾いてきた人。音楽が好きで、母親とピアノを弾くのが好きで…。どっしりと心地の良い安堵感を持ちつつ、ジャジーなリズム感を利用してピアノ音楽で「遊ぶ」余裕を持つピアニスト。大きなトラウマがあることから迷いの心があるままコンクールに挑む。しかし、根本的な「音楽をする喜び」でより一層強くなり、自分自身の目的を見つける女性です。

福間洸太朗が語る〈高島明石〉

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Q1: 明石の演奏する「春と修羅」をどのように表現されたのでしょうか?

原作を読んで、明石は真面目で楽譜にある作曲家の指示をリスペクトしつつ、ハートのある演奏をするタイプかなと思ったので、それを意識して弾きました。
実際のコンクールではご法度ですが、作曲家の藤倉さんにも質問をして、彼の意図を実現しようと努めました。華やかさを求めず、どこまでも詩的な世界を生み出したいと思いました。

Q2:「春と修羅」の演奏で苦労した点、聴きどころを教えてください。

譜読みをしてみると結構難しくて短期間で仕上げるのが大変でした。特にカデンツァ後の跳躍、指にはまり難い音型の両手で16分音符を弾くところや、トリルの畳みかけなど、ピアニスト泣かせな場面もあります(笑)。

技巧的な部分でも藤倉さん独特の色、神秘的な空気感があるので、それに浸って欲しいですね。
「あめゆじゅとてちてけんじゃ」の歌が天から降り注ぐような箇所があるカデンツァでは、無条件の愛、懐かしさ、癒し、などを感じていただければ嬉しいです。

Q3:高島明石は働きながらコンクールを目指しています。彼のようなスタンスを福間さんはどう感じましたか。

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©2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

私は、他に職業を持ちながら素晴らしい演奏をする方を何人も知っています。中にはコンクールの入賞をきっかけに、プロとして活動している方もいます。どんな経験も音楽表現の肥やしになり得ると思うので、自分の中から湧き出すピアノ愛さえあれば、「生活者の音楽」も人の心を動かす力があるでしょうし、多くの人の共感を得られる音楽になりえると思います。
ただ、自分は要領よく複数のことに手を付けられないので、私にはきっと無理ですね(笑)。

金子三勇士が語る〈マサル・カルロス・レヴィ・アナトール〉

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Q1: マサルの演奏する「春と修羅」をどのように表現されたのでしょうか?

藤倉大さんによるマサルバージョンのカデンツァは原作で描かれている通り、超絶技巧的な難曲であり、一言で言うとハイリスク=ハイリターン!練習の段階からスリル満点でした。しかし物語上、この難曲を披露したマサルは審査員からあまり評価される事がなく、彼はここでちょっとした挫折を味わう事に。その辺りの気持ちの変化も演奏で意識してみました。

Q2:「春と修羅」の演奏で苦労した点、聴きどころを教えてください。

先程「超絶技巧」というキーワード触れましたが、とくにオクターブが多く、リストの超絶技巧大練習曲に取り掛るレベルの覚悟が必要でした。


収録前に藤倉さんから何度も応援メッセージをいただきましたが、作曲家、ピアニストそれぞれの出来る限りの力を出し切って原作のイメージを表現できたと思います。

Q3:金子さんにとって、マサルはどのようなピアニストに感じましたか。

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©2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

原作を読んでいた時から、自分と共通する部分を感じました。複数の国や文化の中で育ち、世界共通言語である音楽を通してマサルはアイデンティティを探し求めているのではないかと。一方で舞台の上であっても自分を冷静にコントロールし、客観視する力を持っていると思います。

マサルにとってこのコンクールは目標に向かって挑戦をするだけではなく、プロの世界の厳しさを知る事で音楽家としても、人間としても大きく成長する場になったはずです。

藤田真央が語る〈風間 塵〉

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Q1: 塵の演奏する「春と修羅」をどのように表現されたのでしょうか?

石川監督が私の演奏スタイルやふるまいが風間塵と近いものがあるので、演奏に関しては「そのままの真央くんの演奏で」とおっしゃってくださいました。ですから、私は自分らしく気負わず、感じるままに「春と修羅」を演奏させていただきました。ただカデンツァに関しては、小説から感じとられる塵のキャラクターを大切に、天才肌の塵だったらきっとどんな風に弾くだろうかと考え、より自由な発想と即興性を持って、野生的な演奏をするよう心がけました。

Q2:「春と修羅」の演奏で苦労した点、聴きどころを教えてください。

コンクールの課題曲で、そのコンクールのために作曲された新しい作品を演奏するという経験が実際にあります。コンクール用ですからテクニック的に難しい上に、お手本となる音源もないので、楽譜に書かれている音符と演奏記号を頼りに自分の解釈で演奏するしかありません。

2017年のクララ・ハスキル国際コンクールでの新曲の課題演奏に対して、「現代曲賞」を頂いた経験は私にとって少なからず自信につながっています。「春と修羅」もとても難しい曲で技術的にも苦労しましたが、コンクール会場の雰囲気やホールの響き、コンクールに挑む想い、緊張感、いろんなことを想像して演奏いたしました。他の3人とは異なる“風間塵のカデンツァ”をどうぞお楽しみください!

Q3:風間塵は異色のピアニストですが、彼の魅力はなんだと感じましたか。

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©2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

風間塵は天性の音楽的才能と演奏技術を持ちあわせていて、私にとっても憧れの存在です。彼を取り巻く環境、実生活、キャラクターなど、すべてが音楽を自然に捉え、向き合っているところが特に魅力的です。風間塵を演じた鈴鹿央士くんと何度かご一緒させていただく機会があったのですが、央士くんもとても自然体な方なので、小説上の風間塵と重なって見えてしまいます。素敵な方でした。

『蜜蜂と遠雷』10月4日(金)全国公開

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松岡茉優 松坂桃李 森崎ウィン
鈴鹿央士(新人) 臼田あさ美 ブルゾンちえみ 福島リラ 眞島秀和 片桐はいり 光石 研
平田 満 アンジェイ・ヒラ 斉藤由貴 鹿賀丈史

原作:恩田陸「蜜蜂と遠雷」(幻冬舎文庫)  
監督・脚本・編集:石川慶
春と修羅/作曲:藤倉大 
ピアノ演奏:河村尚子 福間洸太朗 金子三勇士 藤田真央 
オーケストラ演奏:東京フィルハーモニー交響楽団(指揮:円光寺雅彦)
配給:東宝
©2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

(KKBOXライター:KKBOX編集室)