2021年の音楽シーンは“日本のポップスミュージックの金字塔”と呼べるアーティストやクリエイターのメモリアルな出来事が目白押しです。故・筒美京平の傘寿(80歳)を記念したトリビュートアルバムやトリビュートコンサートは大盛況でしたし、大滝詠一の『A LONG VACATION』のリリース40周年を記念して、本人名義でリリースされた全作品177曲が遂にストリーミング配信スタート。
また作詞活動50周年を迎える松本隆のトリビュートアルバム『風街に連れてって!』が7月14日にリリースされることも決定しています。SNS発信のヒット曲が生まれる中で、70年代や80年代のポップスが改めて注目されています。

出典元:YouTube(UNIVERSAL MUSIC JAPAN)

そんな中、女優としてシンガーとして大活躍する上白石萌音が、70年代楽曲のカバー『あの歌-1-』と、80-90年代楽曲のカバー『あの歌-2-』を2枚同時リリース。両親の影響で昭和の名曲たちにも多く触れて育ち、昭和・平成ポップスが大好きという上白石萌音が、「カバーアルバムをリリースしたい」と強く希望して実現した企画です。そして、彼女自身の音楽活動の中でもルーツとなったアーティスト達に関して触れ「おこがましいのですが、自分を介して新しい曲やアーティストを聴くきっかけになってもらえたら嬉しい」とも語っています。上の言葉はとても大事なことを示唆してくれます。
いま第一線で活躍するアーティストたちが、過去の名曲を発掘し、現在の若いリスナーたちに歌い継ぐことはとても重要なアクションではないでしょうか。誰かが歌い繋ぐことによって、時を経て歌は輝きを増し、そして新しい歌として蘇るのです。今回届けられた21曲は、上白石萌音が悩みに悩んで選曲したのだそうです。そんな厳選された珠玉の名曲たちと出会う旅を、上白石萌音と一緒に聴いていきましょう。

上白石萌音と楽しむ70年代の「あの歌」

上白石萌音と一緒に聴く〈70's-90's名曲ポップス〉の画像はこちら >>


平山みき弘田三枝子を彷彿とさせる1970年代風ファッションを着こなす上白石萌音をフィチャーしたジャケットが新鮮な『あの歌-1-』には、1970年代を代表するキャンディーズの「年下の男の子」や、ゴダイゴの「ガンダーラ」などのエバーグリーンな11曲が選曲されています。『あの歌-2-』は斉藤由貴や南野陽子などに代表される80年代清楚系アイドルの雰囲気をまとった姿に注目。
選曲はアイドル曲だけではなく、フィッシュマンズの「いかれたBABY」やザ・ブルーハーツの「青空」など、この時代を代表するバンドの名曲もカバーしています。何度も繰り返し聴きたくなる「あの歌」ですが、今回のコラムでは上白石萌音が歌う「男うた」「女うた」という視点で収録曲の一部を紹介していきます。

君は薔薇より美しい/布施明(1979年)

布施明の代表ヒット曲の一つでもある「君は薔薇より美しい」は、久しぶりに会った女性が美しく変わった様子を〈薔薇〉に例えるというドラマチックな内容で、布施明の圧倒的な歌唱力とダイナミックに歌い上げるサビが印象的な楽曲です。こんな気障なセリフを口にできる男性に憧れるわけですが、日常生活の中ではなかなか使う機会はありません。そんな曲を上白石萌音は、肩から力を抜いた歌声でナチュラルに歌い上げています。シティポップ調のアレンジで聴き心地が良く、新しい魅力を放つ「君は薔薇より美しい」になっています。


さらば恋人/堺正章(1971年)

作曲を担当した筒美京平が「また逢う日まで」「木綿のハンカチーフ」とともに、自身が選ぶ筒美作品ベスト3にも上げている楽曲です。これまでにも桑田佳祐山崎まさよし前田亘輝などたくさんの著名アーティストに歌い継がれてきました。恋人との別れの時の心象風景をモチーフにして、歌詞の終わりは必ず〈悪いのは僕のほうさ 君じゃない〉という言葉で締めくくられ、その優しさが胸に響く曲です。上白石萌音の歌は同じ歌詞を歌いながらも、〈悪いのはあなただけじゃない 私もごめんなさい〉と寄り添ってくれているように聴こえてきます。50年という時を超えて繋がった二人の気持ち。そんな不思議な感覚で聴き取れるのではないでしょうか。


ブラックペッパーのたっぷりきいた私の作ったオニオンスライス/スターダスト☆レビュー(1982年)

1981年にメジャーデビュー、今年40周年を迎えるスターダスト☆レビューが1982年に発表した3枚目のシングル。今回リリースされた「あの歌」の収録曲の中で、実は初めて知った曲でした。とても新鮮に聴くことができました。大好きな人にいろんな気持ちを込めて作ったオニオンスライス。でもそのオニオンスライスはブラックペッパーがたっぷり入ってるという、ちょっぴり複雑な女の子の心境を表した楽曲ですが、上白石萌音の新曲といっても違和感のない内容です。アレンジを担当した大橋トリオとのコーラスワークの美しさと、ジャズエッセンスのアレンジも素敵な1曲と言えます。


AXIA ~かなしいことり~/斉藤由貴(1985年)

当時18歳だった斉藤由貴の透明感ある歌声に魅せられる「AXIA ~かなしいことり~」。80年代後半に若い世代から圧倒的な人気だった詩人であり、作詞家の銀色夏生が作曲も手がけた楽曲です。 この曲を現代のアーティストがカバーするとしたら、上白石萌音以上のアーティストはいないと思えるほどマッチしています。アレンジはピアニストの清塚信也。ピアノだけの演奏による「AXIA ~かなしいことり~」は、オリジナルが持つ甘酸っぱさや儚い空気感を踏襲しつつ、また違った世界観で生まれ変わらせています。ところでこの楽曲の主人公の女の子、よくよく聴いてみると手強そうな感じです。


世界中の誰よりきっと/中山美穂&WANDS(1993年)

1992年10月に中山美穂&WANDS名義でリリースした「世界中の誰よりきっと」は180万枚を超える大ヒットを記録、デュエット曲の定番として多くの人に愛された曲です。中山美穂はデビュー当時から歌手活動と女優活動を並行し、数々のヒット曲や人気ドラマに出演しています。その点で上白石萌音と重なる部分が多いのではないでしょうか。そんなことも意識して聴き比べると面白いかもしれません。アレンジは盟友といっても良いほど親交の深いandropの内澤崇仁が担当。オリジナルの持つポジティブなメロディに、現代風のキラキラする疾走感を爽やかに歌い上げています。

みずいろの雨/八神純子(1979年)

シティポップ再評価の文脈でも欠かすことのできない八神純子の1979年に発表された楽曲が「みずいろの雨」。女性の情念をオシャレに表現しているこの楽曲、かなり大人な女性の歌だと思っていましたが、当時の八神純子は二十歳だったということです。そしてこのアレンジ、痺れます。ジャジーでメランコリックなギターの音色から始まり、徐々に高揚感が高まっていく音の重なり。上白石萌音が「あの歌」でカバーする女性アーティスト楽曲の中でも、一番大人チックな世界を表現したものになっているのではないでしょうか。

『あの歌』を繰り返し聴いていたら、無性に上白石萌音の生の歌声を聴きたくなりました。そんな人には朗報。2021年7月にはホームタウンの鹿児島を含む 『上白石萌音『yattokosa』Tour 2021』全国ツアーが開催されます。これまでにリリースしたオリジナル曲や「あの歌」のカバー曲も加え、前回のツアーから約4年間の集大成が披露されるとのことなので楽しみです。

〈インフォメーション〉

『上白石萌音『yattokosa』Tour 2021』全国ツアー

7.1 THU 大阪・フェスティバルホール

7.3 SAT 福岡・サンパレス

7.4 SUN 鹿児島・宝山ホール(鹿児島県文化センター)

7.16 FRI 名古屋・日本特殊陶業市民会館フォレストホール

7.21 WED 東京・ガーデンシアター

(KKBOXライター:山本雅美)