現役の医師として働きながら50代で小説家デビューした異色の作家、南杏子さん。待望の新作『アルツ村』は、メディカル・サスペンスの手法で認知症の問題に鋭く斬り込む。
医師ならではの専門知識や自身の介護経験が物語に深いリアリティを与え、大いに注目を集めている。担当編集の森山悦子と、これまでの軌跡や作品への思いを語った。
◎趣味として始めた 小説教室をきっかけに
森山 南さんは、出版社に勤務された後、海外で暮らされて、帰国後は大学の医学部に編入されて、現在も医師として毎日診察をされています。作家としては、かなり異色の経歴ですよね。
南 イギリスに住んでいたとき、アロマセラピストの資格を取ったのですが、それから人体に関する興味がどんどん深まっていきまして。日本に帰国後、医学部で勉強しているときは、人生で一番楽しい時間でした。
森山 そこから、どういう経緯で小説を書くことになったんですか。
南 育児も一段落して、勤務も緊急呼び出しがない病院になって、生活がだいぶ落ち着いてきて、カルチャーセンターに行き始めたんです。陶芸やコーラス、武術など、いろいろ習いました。そのうちの一つが小説教室だったんです。
森山 それは、いつ頃のことですか。
南 2007年ですから、40代半ばですね。小説は読むのはものすごく好きだったのですが、まさか自分が書けるものだとは思っていませんでした。あくまで趣味で、最初は、ファンタジーや夢物語みたいなものを書いていました。ちょっとシュールなものとか、妄想全開なものばかり書いていたのですが、先生にはまったく評価されなくて。
でもあるとき、「もっとあなたにとって身近で切実なものを書きなさい」と言われたんです。それが自分にとって医療だったんですね。