■石田拓実
1993年、「ぶ~けデラックス」秋号掲載「姉妹の法則」でデビュー。
■東村アキコ
1999年、「ぶ~けデラックス」NEW YEAR号増刊にて『フルーツこうもり』でデビュー。『海月姫』(講談社)で第34回講談社漫画賞少女部門など、数々のマンガ賞を受賞。現在は「Kiss」で『海月姫』、『東京タラレバ娘』を連載中。
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□ ──石田さんは、東村さんの作品のどういうところが魅力だと思われていますか?
石田: あなたの魅力ってどこに絞ればいいの?
東村: “石田拓実しかわからない魅力”みたいなエピソードがほしいね!
石田: うーんじゃあ、最初はぶっちゃけ、『きせかえユカちゃん』でギャグ作品を描いたとき、「え、なんで?」っと思った。
東村: そうそう。私がほんとはシリアスの漫画の人だったっていうのをわかってる数少ない戦友なので。
石田: 『海が見える街』とか、すっごく良かったと思うし。
東村: 私ね、ああいうのを本当は描きたくて漫画家になったんだけど、とりあえず需要に応えてギャグになった部分はある。ギャグは、やってて楽しいからいいんだけど、本当はシリアスなのを描きたいっていうのはずっと思っていて。40超えたらやろうかなって思っていますけど。
石田: でもそれでも、需要をきちんとこなしちゃうのが、すごいよなーって思う。
東村: でも、“アキコはんにはいつかシリアスを描いて欲しい”のでしょ、あなたは。
石田: うん、『ドライアイス』(集英社)が載った時、「きたー!!」って思ったもん。
東村: 『ドライアイス』でシリアスな感じの描いたとき、一条ゆかり先生に「なに暗い漫画描いてんの?」って飲み会で怒られるっていう大事件が発生したんだよ……。「YOUNG YOU」のパーティーで凄く怒られて「暗いのはダメよー」とか言われて、そうだなって思って、また封印するっていう。
石田: 「YOUNG YOU」(集英社)に描いたシリーズは全部好きだった。短編も。
東村: 『ドライアイス』、『ゑびす銀座天国』(集英社)の主人公は石田さんが見た目はモデルなんですよ、完全に。天パの、髪もしゃもしゃみたいな。
石田: 私よりかわいいけどな。あとは、ネームが早い、この人は。
東村: 息抜きだから、ネームは。下絵のときは、まあちょいしんどいなって思うけど、やっぱ集中しなきゃって思う。ネームは編み物やってるようなもんって言いますかね。ちょっと、マフラーでも編もうかな、今日10段くらい編もうかなみたいな感じの。
石田: なんかの原稿手伝っているときに、「はあ、ちょっと休憩するわ」て言ってネームをやるっていう。しかも仕上げるっていう。すごすぎるんですよ、もう。
□ ──『東京タラレバ娘』の3巻にも登場している石田さんですが、この作品に関してはどう思われましたか?
石田: 『東京タラレバ娘』ねえ~。あれは本当にすげえな。みんなうっすら思っていたけど言えなかったことを、ぱーん!! って。
東村: 「あえてやってくぜ!」というポジションの人が今、いそうでいないんだよね。だから、みんな「言った!」って思ってくれているのかなと。
石田: 野球のベンチの話とか、これすっげーわかる、これ何万人が「わかる!」って思ったことだろう。ほら、コンパとかはりきって行くと収穫ゼロなのに、その日いきなり頭合わせで呼ばれて、メイク直しもせず、きったないTシャツで行ったらなぜか収穫があったみたいなことがあると思うんですよ。その気負いが取れてからコロッとうまくいく話。『東京タラレバ娘』を読んだ女子がみんなそうなるといいな。
石田先生が挙げたシーンはこちら。全国のアラサー女子が悲鳴を挙げたシーン。
東村: 確かに、確かに。
石田: 気負いなく、「私はこのまま生きてく!」と腹をくくった途端にいろんなことが始まるんですよね。
□ ──東村さんは石田さんが「Kiss」ではじめられた連載『カカフカカ』はどう思われましたか?
東村: まあ石田先生は時代がそろそろ追いついてくると思ってますよ。早すぎたね、ちょっと。だいぶ早かった。ま、ぼちぼち追いついてくるでしょう、時代も。
石田: 早すぎたか。だいぶ描いているけど。
東村: とにかく、私は石田さんの描くヘンテコな少女漫画が好きで、もっといろんな人に読んで欲しかったの。だから、私の結婚式で石田さんのことを好きな「Kiss」の編集さんと同じ部屋にした。そうしたら「Kiss」に誘われて、たぶん描くなって思って勝手に部屋割りで石田拓実をプロデュースしたっていう。
石田: で、その流れに乗りました。 東村: てか、デビューした出版社から外に出たの初めてでしょ。どう?
石田: クソ緊張した。そして、今もしてる。
東村: でもはまってよかったよね。
石田: はまってますか!?
東村: はまってるよ、はまってる。あなたの生臭いところ、いい感じに出てるよ『カカフカカ』。
石田: 「Kiss」はあまり生臭い作品がないから、生臭いのいいかなって思って……。でも、そう言ってもらえてよかった。ほんとによく続けてこられたなあと自分で思います。
東村: あと、皆さんに知って欲しいことは、石田さんが世界でいちばん漫画に詳しいということ。誰よりも、読んでます。
石田: 最近広がりすぎて追いかけられないんだよ。10年前までは、だいたいの漫画雑誌のことはわかる気がしますって言えたけど、いま言えない!
東村: ティーンズラブ界の最近の人ってすごくない? すごくうまい子いるよね。
石田: TLは10年前から思ってた。宝の山です!
東村: びっくりするほどうまい。これが雑誌のってたらアンケート1位でしょって人がごろごろいるじゃん。
石田: エロというエンタメを引き受ける力っていうか、むしろ、ケツまくって読者を楽しませている作家のポテンシャルがすごいもん。自己満足漫画じゃない。
東村: しかも短く刻んで、課金してかなきゃいけないから、20ページに1回がっつり見せ場を、しかも精神的な流れも入れて作るという、ド級のプロだもんなあ、ほんとに。見習わないと。おそろしい時代になったなあ。
□ ──石田さんが考える漫画の世界の行く末とはなんですか?
東村: 石田さんはいつも言ってるよね、何十年か経つと漫画は、能とか浄瑠璃とかと一緒で、一部の人が嗜む娯楽になるのではって。
石田: 金払う人が払うっていう。ただインターネットが出てきてちょっと変わってきたよな、それも。本の漫画はそうなるかもしれんけど、逆にネットの漫画はもっと軽くて読みやすい。画面の密度も薄くして。
東村: そうだね、結局ウェブになってきたらさあ、トーン文化がどうなるのって話になってくるじゃん。トーンいらないじゃん、薄墨でいいじゃん。オールオフセットなわけだからさあ。そうなったときに、少女漫画トーン文化が……石田先生! 私たちラストトーン世代になっちゃうよ……。
石田: じゃあラストトーン職人として……、1ページにセリフ1文とトーンっていう漫画を貫いてみせる!
東村: 私は、ここから5年は絶対、映画とかドラマになるな、っていうのをやるっていうのを心に留めてる。
石田: おおおおー!
東村: 多くの人にウケるって意味では、メディアミックスをあからさまに狙ったやつをやるっていう思想も、いまは大切な気がしてる。あとは、漫画家というものは物語のもとを作る人になる喜びを感じる職業でありたい、という風にも思っている。まぁ、とりあえず、45歳までは、今のペースでがんばりましょうか。お互いね。私は石田さんが売れたら京都で芸者遊びをいっしょにする、おごってもらうという約束をしてて……。
石田: それ売れた人がおごる約束やったような。もう、あなた売れているでしょうが。おごりなさいな。
東村: やってもいいんですけどー。まあ、世間が石田拓実を求めるだろうっていう、のだけは断言させてもらいたいな。なので、まだ、おごらない。
石田: どっちの層が求めてくれてるんやろうか。
東村: 変態の層。だから、電子の時代がきて、より売れると思いますよ。この人の変な少女漫画は。少女漫画っていうのはそもそも精神論なんだけど、石田さんはそこより先になんか肉体的なものがある。ひっくりかえっちゃってるわけ。まさに『カカフカカ』も先にエロがあるよね。
石田: 精神論と肉体論は別々に論じることはできませんぞ。
東村: 石田さんの名言として、「人間はただの1本の管だ」っていうのがあって、そんな少女漫画家がいますか? 1本の管同士の生物が、どう愛し合うかを描く稀有な作家・石田拓実。唯一無二ですよ。
石田: じゃあ、思い切って、自分では自信ないですけど……。えー、わたくし、まだできあがってません! 伸びしろはあります!!
東村: そうだ! 石田拓実には伸びしろがある! 20年やってるけど、映画『タイタニック』でいうとまだディカプリオがトランプやってるシーンだから。石田さんには誰も描いたことのないこと、みんなが考えてなかったことを、「そこか!」みたいに漫画で描ける人。何年も後輩の私がいうのもなんですけど(笑)。伸びしろあるうえに、やっと時代が追いついてきてる。やっと時代が、石田さんの天パの後ろ髪にかすってきてる。だから、頑張って描いてください、これからもいっぱい。締切やばいときは手伝いに行きますんで、先生。私は締切、きっちり早めに終わるんで(笑)。
石田: 私はいっくらでも、東村アキコにあやかるんだ。
東村: モブ全部いれますんで!
石田: あっ、そうだ、最後にお願い。あの、Twitterで見つけたら私の宣伝ツイート、リツイートしといて。アキコはん、フォロワー多いから助かるんやわ!
東村: こんだけ、色々話して最後の一言、それかい!(笑)
石田: あやかるから(笑)。
この記事は2015.07.13Kiss公式サイトにて掲載されたものです。
■本の紹介
□カカフカカ(3)
シェアハウスで再会した元カレに「ヘンなことなし」で、アソコ(男子のデリケート部分)の元気復活に添い寝で協力中の亜希。次第に、身体だけでなく、心の距離も近づいてしまい…感情混乱のまま2人の関係に変化の時きたる!? 心も身体も反応するドキソワラブストーリー!
- 著者名:石田拓実
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