数々のアニメ作品の劇伴を手がける音楽家・高橋 諒によるアーティストプロジェクト、Void_Chords。そのニューシングル「Beyond Selves」は、謎多き女性シンガー・Lをフィーチャリングシンガーに迎え、プログレもミニマルミュージックも呑み込んだハイブリッドなジャズロックで新たな地平を切り拓く、Void_Chords流のオリジナルなアニメソングだ。
話題のTVアニメ『RWBY 氷雪帝国』のOPテーマとして、どのようなアプローチで制作が進められたのか。高橋に話を聞いた。

『RWBY』と日本のアニメ、洋楽とアニソン、極と極が交わる先
――今回の新曲「Beyond Selves」はTVアニメ『RWBY 氷雪帝国』のOPテーマになりますが、高橋さんはそもそも、本作の原型となるアメリカのルースター・ティース・プロダクション制作のWEBアニメ『RWBY』のことをご存じでしたか?

高橋 諒 詳しくは知らなくて、WEBで無料公開されていたものをチラッと観たことがあった程度でした。なので今回のお話をいただいたときに、改めて海外でとても人気のあるシリーズということを知ったんですけど、それまでは日本のアニメだと勘違いしていたくらい、ジャパニメーションへのリスペクトが感じられる作品ですよね。演出や色彩感も含めて、日本人が観ても全然違和感なく楽しむことができて。

――全編3DCGですが、キャラクターデザインや造形にも日本のアニメーションからの影響が感じられます。


高橋 2000年代以降の日本のアニメの流れに沿っている感じがしますよね。2010年代は90年代の作品に影響を受けた人たちが表に出てきた感じがして、僕は特に音楽でそれを感じるんですけど、そういった2000年代以降のカルチャーの文脈がしっかり受け継がれている作品だなと思いました。

――ルースター・ティース版の『RWBY』は、ジェフ・ウィリアムズさんによる音楽も人気ですが、そちらの印象はいかがですか?個人的にはオルタナティブなミクスチャー感覚やプログレッシブメタルの要素など、高橋さんの音楽性とも近しい部分があるように思うのですが。

高橋 たしかに音楽は自分に近いものを感じましたし、そういったジャンル感だけでなく、作品全体に漂っている空気感にも親和性があるなと思いました。だからこそ、今回の主題歌を作るにあたって、自分のコアな部分を存分に出しても作品にシンクロするという感覚はありましたね。



――『RWBY』のどんなところが、ご自身の音楽にハマると感じたのか、もう少し具体的にお話いただけますか?

高橋 自分は音楽を作る際に、その作品全体の色彩感や色味、絵の温度感から受ける印象を大事にしているのですが、『RWBY』はそれが極彩色っぽくて色の対比が鮮明な印象が強かったんです。
劇伴の場合は、ドラマのテンポ感や描かれている内容に対応することが重要ですが、主題歌や挿入歌は、その作品や場面の一番エモーショナルなポイントにヒットしているかどうかが大切だと思っていて。その意味では『RWBY』の色彩感と自分の作る楽曲が合うことは、本能的に感じたところではありました。

――「Beyond Selves」の制作に着手するにあたり、『RWBY 氷雪帝国』のどんな部分にフォーカスを当てようと考えましたか?

高橋 今回はバトルもの作品の矜持みたいなものをしっかりと表現したかったので、まず第一にかっこいい楽曲、そのなかでも自分の過去作でいうと「The Other Side of the Wall」のように、プリミティブな衝動を前面に押し出したロックナンバーにしようと思いました。なおかつジャパニメーションへのリスペクトがある『RWBY』の日本スタッフによるリメイク作品ということで、日本勢からのアンサーとして、ワールドワイドな音像や無国籍感も大切にしつつ、いつもよりも日本的な構成を意識しました。英詞で歌っていてアグレッシブなサウンドなんだけど、どう聴いても洋楽ではない。日本人にしか作れないアニソンみたいなものを感じてもらえる曲にしようと。


――Void_Chordsの音楽には洋楽的なエッセンスが詰まっていますけど、今回はあえてその逆を突いたわけですね。

高橋 そうですね。Void_Chordsはアニソンというフォーマットがベースにあるプロジェクトなので、これまでの楽曲も根底は日本的なものと繋がっているのですが、今回はより意識的に取り組んだ曲になります。アニソンの89秒にすべてを詰め込むエクストリームな展開は日本的だけど、サウンドはワールドワイドという折衷が今回のコンセプトでした。『RWBY』の色彩感や極から極へ振れるような展開をフラッシュでバシバシッと見せるような構成といいますか。

――ルースター・ティース版『RWBY』のジェフ・ウィリアムズの楽曲は「日本のアニメ音楽をリスペクトした洋楽」というイメージがありますけど、今回の高橋さんはそれと対照的なスタイルになっているのが面白いですね。


高橋 ジェフさんが作る音楽からは日本の音楽に対するリスペクトをすごく感じたので、であれば自分も逆サイドからの橋渡しというか、音楽として違う方向を向くのではなく、ちゃんと向き合って何かを返せるものにしたかったんです。太平洋を挟んで音楽で対面するっていう(笑)。

――それはこの楽曲のテーマの1つである「極と極が交わる」にも繋がる話ですよね。

高橋 具体的な物語内部への言及というよりも、そういうちょっとメタな視点で(ルースター・ティース版『RWBY』に対する)リスペクトを入れたかったんですよね、アティチュードとして。主題歌の役割には色々ありますけど、僕は作品や主人公のことを主観的に深掘りするのではなく、もう少し俯瞰的な視点、メタな階層を包括する主題歌を作りたいという想いが個人的にありまして。今回の楽曲もそういう部分に絞って制作しました。


プログレ魂が炸裂!ハイブリッドなOPテーマ「Beyond Selves」
――「Beyond Selves」はバンドのエネルギッシュな生演奏と緻密なアレンジが合わさった、Void_Chordsらしいハイブリッドな楽曲に仕上がっていますが、サウンド面で特に意識したことはありますか?

高橋 先ほどもお話ししたようにアグレッシブにしたかったので、ロックをベースに特徴的な管楽器を入れてジャズロック的な目線を入れつつ、ジェフさんが作られる音楽の方向性もちょっと感じられるように、プログレッシブな要素もミックスしました。あとは『RWBY』の鮮明な色彩感を感じていただけるように、ビビッドにフラッシュするような印象を音としても大事にしましたね。

――2番以降のアレンジに顕著ですが、ポリリズムもこの曲の肝になっているように感じました。特に間奏の展開はもはや異次元的といいますか……(笑)。

高橋 今回はプログレ魂が出ました(笑)。ミクソリディアのソロのあとの展開は、いわゆるメトリックモジュレーションという技法を使って、ドラム、ギター、ベース、マリンバ、その他の楽器も含めて全員が別々の拍子の括りでループパルスを演奏しているんですけど、128拍で全員が合うようにできています。
僕が多大な影響を受けた(スティーヴ・)ライヒ的な発想ですね。ただ、それだけだとVoid_Chordsとしては物足りないかなと思って、結局サックスソロも加えました(笑)。

――それがVoid_Chordsらしさにも繋がっているわけですね。あと、先ほど異次元的と形容させていただきましたが、この間奏で楽曲の景色がガラッと変わる印象があって。それはもしかしたらこの楽曲のタイトルでもある「Beyond Selves(=自分を超える)」を表現しているのかなと思ったのですが。

高橋 そうなんですよ。「Beyond Selves」したあとの感覚といいますか、自分がすごく研ぎ澄まされている状態、意識が拡散していくんだけど一点に向かって進んでいくような、自分を超える瞬間が垣間見えるような景色というのを表現したくて。それが伝わって良かったです。



――歌詞はVoid_Chords楽曲ではお馴染みのKonnie Aokiさんが書かれていますが、「自分」という境界を超えることや、先ほど話題にあがった「極と極の交わり」といったテーマからは、ある種の普遍性が感じられます。

高橋 『RWBY』の世界の説明でもあるし、僕らが現実で囚われているビジョンからの離脱みたいなものも表現されていて。これはVoid_Chordsのテーマとも繋がってくるのですが、強い光と強い闇みたいに両極端なものを、どちらが良い・悪いではなく、その両方を内包したり知ることで見えてくるものがあるはずで。歌詞に「影に導かれる光」と「光に導かれる影」というフレーズがあるのですが、それはまさにこの作品(『RWBY』)そのものだし、僕らの人生そのものでもある。非常に多層的な歌詞になっていますね。

――今回のフィーチャリングシンガー、Lさんとは初のコラボレーションになりますが、この楽曲の重厚さにも負けないパワフルかつ存在感のある歌声が印象的でした。

高橋 Lさんは女性シンガーなんですけど、キーはほぼ男性キーと言っていいくらい低い声が得意な方なので、楽曲を作る際はその歌声が上手く響くようにバランスを考えて最適化するのに結構試行錯誤しました。逆にカップリング曲の「Relight Emotions」を歌ってくださったnanahaさんはレンジが広くて、お二人が対照的なシンガーなので、シングルとしても良い対比が生まれたかなと思います。

フィジカルに作用する、Void_Chords流のダンスミュージック!
――では流れで「Relight Emotions」についても。こちらは80sブギー風というかソウル/ファンク路線の楽曲で、思わず踊りたくなってしまいます(笑)。

高橋 こういうストレートなビートの曲は久々に作りました(笑)。やっぱり気持ち良いですよね。今回は表題曲でアニソン的な構造の曲をやったので、カップリングは完全にいわゆる洋楽的にしようと思って。アニソンのフォーマットで曲を作る場合は89秒という時間の流れが大事になりますけど、この曲はそのアンチとして、リフメロ一発で聴かせてすぐに覚えられるもの、自分の作品には珍しくコード進行も最初から最後まで一緒という(笑)。そういうループやグルーヴの気持ち良さを音楽として大事にしたい、というのがテーマです。

――歌詞でも、肉体性やリアルな感覚への回帰といったことが歌われていて。

高橋 今は何でも表層的に説明してしまえる時代という部分がありますけど、だからこそ自分の体験として知ること、肉体として実感することがすごく大事だと思うんです。フィジカルな部分にちゃんと足を置くといいますか。そういった自らの体験に重きを置かないと、言葉や表現がどんどん上滑りしていくし、一時的な消費で終わっていくものになるんじゃないかとすごく感じていて。もちろん今のこの環境がネイティブな人たちは、そこから上手く自分の血肉となるスキルを得るのかもしれないですけど、自分はフィジカルな体験を大事にしていきたい。そういうテーマを直接的に捉えた曲ですね。

――だからこそサウンドも肉感的なファンク、ビートで感じる楽曲になっているわけですね。

高橋 肉体性への回帰というテーマはダンスミュージックとの親和性が高いですし、「Beyond Selves」みたいなテーマや言葉の乗せ方だとダンスを阻害してしまうところがあると思いますけど、「Relight Emotions」は構造も単純なので、ダンスしてバカになっていても言葉が直接ハートに入ってくるというか(笑)。僕もDJでハウスを回してて感じるのは、やっぱり踊っているときに入ってくるのは単純な言葉だったりするんですよね。なので表題曲とちょうど良いバランスの曲になりました。

――シングルの話から少し逸れるのですが、『RWBY 氷雪帝国』の第1話で、Void_Chords feat.L名義の楽曲「Capabilities Unseen」が挿入歌として使用されましたよね。

高橋 OPテーマの制作後に、挿入歌にも使っていただけるということで依頼をいただきまして。「Capabilities Unseen」は第1話の一番印象的なバトルで使われるということで、監督や制作陣の方からも、バトルシーンを象徴するような曲にしてほしいというお話だったので、「Beyond Selves」の雰囲気は纏いつつも、もっと直線的でシンプルにかっこいいものを目指して作りました。ほかにも何曲か挿入歌を作ったので、楽しみにしていただければと思います。



――『RWBY』といえば挿入歌の扱いも毎回評判なので、楽しみにしております!では最後に、今回のシングルの手応えについて、お聞かせいただけますでしょうか。

高橋 自分の作りたいもの、自分のスタイルが、今回のシングルで1つ結実した感覚があって。ジャズロックという比較的少ないスタイルを深堀りさせていただけて、それを喜んでいただけたのはすごく嬉しいですね。そういう意味では記念碑的な作品にはなったかなと思います。ただ、Void_Chordsは今後もスタイルを限定せずに活動していきたいプロジェクトなので、またガラッと変えて新しいことをやりたい思いもありますね。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)

●リリース情報
Void_Chords
「Beyond Selves」
TVアニメ『RWBY 氷雪帝国』オープニング主題歌
発売中

配信リンクはこちら

価格:¥1,430(税込)
品番:LACM-24293

<収録曲>
1.Beyond Selves / Void_Chords feat. L
2.Relight Emotions / Void_Chords feat. nanaha
3.Beyond Selves(Instrumental)
4.Relight Emotions(Instrumental)

Void_Chords
「Revealed Dimensions」
TVアニメ『RWBY 氷雪帝国』挿入歌ミニアルバム
9月21日発売

商品予約リンクはこちら

価格:¥2,750(税込)
品番:LACA-25016

<収録曲>
全5曲収録予定

関連リンク
公式サイト
https://lantis.jp/void_chords/

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