INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉
著名クリエイターを化学反応させるプロデューサーの裏技!?
――まずはこの豪華クリエイター陣のコラボによる企画がどのようにスタートしたのかをお聞かせください。
瀬下寛之 2018年9月に独立してCGスタジオを設立した際に『カミエラビ』でプロデューサーを務めるスロウカーブの尾畑(聡明)さんから「ヨコオタロウさんと一緒にアニメを作りませんか?」とお話をいただきまして。独特な世界観を創出するクリエイターとして着目していましたから、「ぜひやりたい」と。ただ、ヨコオさんもお忙しい方なので、企画会議は難しいということで、月1回の飲み会を開く形にして、そこで「もし良いアイデアが出たら、それを貯めてアニメにしようか」くらいのノリでスタートしました。
――堅苦しい会議ではなく、そういったリラックスした環境だからこそ出てくるアイデアがありそうですね。
瀬下 それを1年ほど続けた結果、アイデアが生まれすぎて氾濫しまして(笑)。1つ1つは面白いんですけど、一貫したストーリーとしてまとめるには相当大変な、膨大なアイデアの塊、混沌の泉みたいなものになったんです。尾畑さんは「これ、もうアニメにできますよ!」と言ってくれるのですが、僕もヨコオさんも「そうかぁ……?」と思ってました(笑)。そうこうしていたら、尾畑さんが「脚本家さんが見つかりました!」と、絶妙なタイミングで合流してくれたのが、じんさんでした。
じん 僕が加わったのは2020年で、その段階で尾畑さんのやりたいことは決まっているような感覚は見て取れました。ただ、新参としての僕の役目として、まずはその膨大なアイディアを見渡して、色々と意見を伝えるところから入っていきました。
瀬下 じんさんが「お二人とも、これを一体どうしたいんですか?」と質問をされるのですが、飲み会なので僕もヨコオさんも気持ちよく酔っ払っていて、楽しげに「アニメにしたいですっ!」って答えると、じんさんが「……」でしたね(笑)。
じん キャラクターが死ぬシーンや凄惨なシーン、悩みや葛藤も多いので、最初は「殺し合いなんてやめて、もっと女子高生がゆる~くキャンプするような話にしません?」と言ったりして(笑)。って話しても誰も聞いてくれない(笑)。尾畑さんは尾畑さんで、「何かこう、ドカーンとか、あるんだよね」と言うので、内心「うわぁ……、フワフワしてる!」と(笑)。その頃は、アイデアも結構沼化していたので、それを固めていく作業から始めました。最初は建て付けの部分が多かったのですが、ヒアリングをしていくと、テーマ性も明確になっていきました。僕が受け取ったこの企画の本質的な部分は「無情な世界におけるヒーロー譚」。それを渇望しているというか、完成させたいのだろうなという印象でした。ただ、このヒーロー譚は、単なる勧善懲悪的なものではなく、ある種、大人になって頭が良くなってしまったうえでも納得できるヒーロー像の提示だったのかなと解釈をしましたね。
瀬下 僕もヨコオさんも、「僕らのようないい年齢のおじさんでも、これほど不条理を感じるんだから、若者はもう本当に大変だろうね、この現実世界って……」といった感覚が少なからずありまして。
「カゲプロ」から10年間以上、磨き続けてきた「誰も言わない言葉」の紡ぎ方
――じんさんに伺います。この作品の主人公であるゴローや周りのキャラクターの会話がとてもリアルで、セリフには生々しさを覚えました。「カゲロウプロジェクト」をじんさんが発表されてから10年以上経って、なお今でも現代の若者にフィットするビビッドな感覚の言葉を生み出せるのはなぜでしょうか?
じん 「言葉」という部分を拾っていただいて、大変ありがたいです。それは脚本のみならず、歌詞にも通ずる部分かなと思います。僕が「カゲロウプロジェクト」を始めたのは19歳だったのですが、その頃は商業的な作品づくりの場において箸にも棒にもかからなくて、ある意味で見切りをつけるところから始まっていたんです。だから前提として、「自分の好きにやろう。たとえ誰に認められなくてもいい」と思っていて。別の言い方をすると、褒められたい・認められたいという感覚がないから、保身もしない。
――今回の『カミエラビ』でも、そのような背景からセリフを紡いでいるんですね。
じん はい。『カミエラビ』においては、僕はすでに行き先が決まっている船のクルーだったので瀬下監督、ヨコオさん、尾畑さんのやりたいことが重要であると考えました。それを実現するなかで、作家として自分を表せるのはどこかと考えたら、やっぱり「セリフ」だったんです。今作ではすごく想いを込めて台詞を書いています。時に赤裸々であったり、今まで言われなかった言い方を、いかにセリフとして作ることができるか。
――そういった言葉を探そうとするときは、ご自身の中に入っていくのか、様々な観察から見つけるのか、どちらかといえばどの傾向にありますか?
じん 僕は昔から周りをすごく見てしまう性格で。その結果、世の中に違和感を覚えて動けなくなったり、学校に行けなくなってしまったこともありました。今でも、例えばネットでニュースを見たときに、他人との意見の違いに敏感なんです。そこが自分の創作における、ある種のメソッドに非常に関わりの深い観点なのかなと思います。今回の『カミエラビ』においても、加害者・被害者という観点があったときに「これはどちらの側が被害者なんだ?」と考えることってあると思うんですよ。そこにおける他人と自分の考え方の違いやジレンマを全力で描いています。ですので、僕に共感してくれたり、僕のような考え方を一部持っていらっしゃる方は、そこに気づいてくれるのかなと思います。
ただのデスゲームを超えたグラフィカルな「デスポップ」
――登場人物のキャラクターはどのように固められましたか?
瀬下 ヨコオさんやじんさんとのストーリー開発の段階で、キャラの個性についてのベースを固めて、最終的には僕の方で輪郭を定着させました。主人公のゴローは“他者を超越する存在”なので、やはり他とは一線を画した“願い”にし、「神様になったら何を選ぶ?」というテーマを、難しい言葉やシリアスすぎるムードを避けて、能天気で鮮やかな絵柄で表現しました。言葉遊びのようですが、本作は”明るいダークファンタジー”であり、デスゲームではなく”デスポップ”と呼んでいます。
――「ポップ」とはどのように捉えたらいいですか?
瀬下 アイロニーですかね。この作品の絵柄は決してポピュラーではありませんし(笑)。むしろ何もかも「非現実的」だと思っていただければ。本作ではあえてCGの持つ違和感を特徴にしています。アニメというよりグラフィカルな人形劇です。その違和感に名前をつけるとしたら「デスポップ」。そして物語そのものの“狂気”と、この絵柄が持っている違和感は連動しています。ノースリーブの制服や髪の裏のカラー、スマホケースのイラストや個々の能力が発動する際のグラフィカルな曼荼羅など、全てこのデスポップのムードで世界観を構築しています。
誰かと分かち合いたい孤独感が生んだ創作力と、別のクリエイターに成り代われる解釈力
――先ほど、膨大なアイディアからじんさんが構築していくお話がありましたが、瀬下監督はどのように受け取めましたか?
瀬下 驚愕です。じんさんほどの個性があって優秀な方が、ご自身の作家性というよりも、「じんさんが考えるヨコオさん」らしく仕上げてくるんです。これにはヨコオさんも唸っていました。あるときなどは、ヨコオさんが「これでOKです」と言ったものを、次のバージョンですべてぶっ壊してきたり(笑)。
――じんさんには瀬下監督もおっしゃっているようなご自身の個性がありつつ、どうやってほかのクリエイターの思考をなぞるような創作を行なっているのでしょう?
じん うーん……。
瀬下 監督としての客観的視点で説明させてもらうと、じんさんの個性もちゃんと入ってるんです。それは共同執筆している小説版『GAMERA -Rebirth-』でもそうです。僕がこだわる点、怪獣同志の戦闘シーンなどのツボを完璧に押さえることで、あたかも瀬下が書きそうな表現をしつつも、僕では思いもつかない言葉の装飾が山盛りになっているんです。つまりじんさんの個性がきちんと入っているんです。ゾッとするほどスゴい理解力と解釈力なんですよ。
――じんさんは「カゲプロ」のときは創作し、ファンから解釈される側の人だったわけなのに、ここでは解釈する側になっているのが面白いですね。それは両立され得るものなのでしょうか?
じん なるほど、確かにそうかもしれませんね。やっぱり普段は、ある種自分の願いのためにものを作ることが当然となっているのですが、瀬下監督やヨコオさんのように考えることができたのは何でだろうと、今聞かれて改めて考えました。それでいうと、1人で作るものとチームで作るものの違いなのかなと思います。僕の普段の創作って、すごく孤独な作業で、それを誰かと分かち合いたくて、「誰かいないか。俺の言ってることに共感できる人は?」という観点で作っているんです。それが、こうして呼んでいただいてチームで作ることになると、その孤独感が解消されて、幸せなんですよね。その意味においては、僕が創作する根源的な理由がなくなってしまっている。だから僕の普段のニラニラしているものが鳴りを潜めるんだと思います。
――このチームで作っている状況が、じんさんを解釈する方に向かわせたというわけですね。となると、また個人の作家作業に戻ると、沸々と孤独感が湧いてくる?
じん そう。怒りみたいなものが溜まっていくんです(笑)。だから、本当に上手いこと座組がかみ合ったのかなという気はします。「GAMERA -Rebirth-」の小説でもそう。「監督と一緒に『ガメラ』のお仕事をするんだ」、「僕は幸せ者なんだ」みたいな感じで毒が抜けちゃうんだと思う(笑)。
瀬下 じんさんが最初に冗談めいてお話されていた「殺し合いなんてやめてましょうよ」という感覚が、完成した本編のそこかしこに潜んでますよ(笑)。実際、めちゃくちゃ熾烈な殺し合いなのに、登場人物の会話のやり取りが、ものすごく楽しい。シリアスでシビアな状態と、妙に明るいムードが絶妙に混ざっていて、これはじんさんだからこその面白さなんですね。あと、僕はとにかく飽きないように、体感時間ができるだけ短くなるようにカッティングを構成するのですが、じんさんの脚本だとそのリズムが作りやすく、演出しやすい。会話の緩急や感情の動きに全然飽きないリズムがある。これはじんさんが脚本家だけじゃなくて、音楽活動で素晴らしい実績をお持ちだからなのでは?と思うのですが。
じん 確かにセリフの中でのリズムや聞き心地の良さみたいなもので惹きつけていくことはあると思います。音楽でいうと、速いパッセージ(フレーズ)の中で書かれる歌詞の展開だったり、ラップとかもそうかもしれないですね。両方を書いていて、何となく意識することもあります。近い時期に書いた歌詞の一節がセリフにピッタリだなと思ったら、セリフに盛り込むこともたまにあります。
――ゴローとアキツの会話のやり取りのバイブス感がすごくリアルなのは、そうした音楽的な部分にも通ずるのかなと、お話を聞きながら思い返しました。
じん ありがとうございます。特に日常シーンのセリフ感は僕自身も書いていて一番楽しかったところなので、ご覧になる方にも注目していただけると嬉しいですね。
――最後に今後の見どころについて、教えていただければと思います
瀬下 ただのデスゲームではない、予測不可能な「デスポップ」です!(笑)
じん めちゃくちゃ強調しますね(笑)。
瀬下 ちょっと流行らせたいのかな(笑)ともかく皆さん!ヨコオさん・じんさん・大久保さんというクリエイターがいらっしゃるのに、まさか普通のデスゲームなどとお思いでしょうか!?監督の僕が一番楽しませてもらっているのだから、そんなことありません。絶対予測不可能なデスポップを楽しんでください!
じん 僕としての見どころは、やっぱり子供たちの強烈なジレンマを作品に落とし込んでいったので、登場する人物たちがなぜ葛藤しているのかという姿を見てほしいですね。登場キャラクターたちはジレンマをしっかり叫んでいると思うので、やはり「セリフ」に耳を傾けていただければと思います。
●作品情報
TVアニメ『カミエラビ』
<イントロダクション>
原案:ヨコオタロウ×脚本:じん×キャラクターデザイン:大久保篤×監督:瀬下寛之
稀代のクリエイター達による完全オリジナルTVアニメが登場!
大ヒットゲーム「NieR:Automata」のディレクターとして世界に絶望と感動を与え続けるヨコオタロウ。そのヨコオの驚くべき発想の数々に呼応したクリエイターが結集。これまで多くの少年少女たちを虜にしてきたじん(「カゲロウプロジェクト」)が脚本を手掛け、魂を。ヒット作を連発する漫画家大久保篤(「炎炎ノ消防隊」「ソウルイーター」)がキャラクターデザイナーとして肉体を。そして、ビジュアル表現の最先端を切り拓いてきた瀬下寛之(「シドニアの騎士」や「BLAME!」)がその生まれたてのカタマリに、圧倒的な生命力を与える。
2023年の終わりに「カミエラビ」が始動する。
<ストーリー>
「神様、世界は今日も健やかに狂っています。」
都内私立高校に通う高校一年生のゴローには、「望み」や「夢」もなければ「野望」もない。
世界は彼にとって「無関心」なものであり、同じ学校の同級生であるホノカに淡い憧れを抱きながら、親友のアキツと変わり映えのしない退屈な日常を過ごしていた。
そんなある日、ゴローのスマートフォンに奇妙な通知が届く。
「あなたは選ばれました。願いを吹き込んでください」
悪質なスパムだと思ったゴローは「憧れのホノカとエッチなことがしたい」とつぶやく。すると翌日ホノカに誘われ、人気のないゲーセンでズボンを降ろされて…。
「大願成就、おめでとうございや~す!」
そこに突如現れた不思議な少女ラル。一連の出来事に混乱するゴローに、残酷な運命を告げる。
ゴローは「大いなる意志」に選ばれ、願いを叶えるため「神様」の座をかけて、他のカミサマ候補たちと最後の一人になるまで殺しあうのだと。
与えられた能力は「愚者の聖典」。自分自身に降りかかる「不幸」を代償に、世界の因果を捻じ曲げ、この世の理を自在に操る力。
真っ先にゴローを殺そうと現れた最初のカミサマ候補は、あろうことか憧れのホノカだった。
容赦なく襲い掛かってくるホノカに対して、ゴローがとった選択とは―?
かくして、秘密を抱えたカミサマ候補達によるフェティッシュ・バトルロワイヤルが開幕する――!
【スタッフ】
原案:ヨコオタロウ
監督:瀬下寛之
副監督:井手恵介/石間祐一/りょーちも
シリーズ構成・脚本:じん
キャラクターデザイン:大久保篤
アニメーションキャラクターデザイン:山中純子/もりやまゆうき
プロダクションデザイン:田中直哉/フェルディナンド・パトゥリ
造形監督/光画監督:片塰満則
モーショングラフィックデザイン:佐藤晋哉
神器デザイン:帆足タケヒコ
アニメーションディレクター:得丸尚人
CGスーパーバイザー:鮎川浩和/菅井 進/前田 哲生/永源一樹
美術監督:芳野満雄/松本吉勝/宍戸太一
音響監督:山口貴之
音楽:MONACA
オープニングテーマ:ELAIZA「スクラップ&ビルド」
エンディングテーマ:Alisa「Bleed My Heart」
アニメーション制作:UNEND
企画・プロデュース:スロウカーブ
【キャスト】
ゴロー:浦 和希
ホノカ:松本沙羅
アキツ:内田修一
チカ:阿部菜摘子
コウキ:梶原岳人
イヨ:楠木ともり
ミツコ:ファイルーズあい
タツヤ:新 祐樹
ラル:佐倉綾音
©カミエラビ製作委員会
関連リンク
TVアニメ『カミエラビ』公式サイト
https://kamierabi.com/
じん オフィシャルサイト
https://jin-jin-suruyo.com/