台風21号、北海道地震と深刻な大災害が相次いで直撃したというのに、みせかけだけの「やってるパフォーマンス」ばかりで、実際は総裁選のことしか頭にないのが丸わかりの安倍首相。しかし、この災害軽視の冷淡体質は安倍首相だけではなかったらしい。

台風21号の直撃を受けた大阪府の松井一郎府知事が、とんでもない“災害対策放り出し”をしていたことがわかったのだ。

 発端は7日午後、同日告示された自民党総裁選について、松井知事がこんなコメントをしたことだった。

「もう消化試合の状況になっている」
「台風や地震が発生しているときだから、結果が見えているなら前倒ししてでも早く決めて選挙は終わらせたほうがいい」

 台風や地震で総裁選どころじゃないというのはわかるが、なんで総裁選延期でなく前倒しなのか。安倍首相をサポートする目的のコメントというのが丸わかりだが、しかし問題はコメントの内容ではなく、このコメントを口にした場所だった。

 これ、松井知事が沖縄県那覇市で記者団に語ったものだったのだ。7日、松井知事は沖縄県知事選の自公候補・佐喜真淳を応援するために沖縄入りしていたのである。

 言っておくが、大阪府では台風による家屋倒壊や冠水、停電や倒木被害などを受け、多くの府民はいまも不自由な生活環境に置かれている。関西空港も国内便が再開されたと言っても、ごく一部だけ。JRなどを含めて完全復旧にはほどとおい状態だ。にもかかわらず、松井知事は政局優先で大阪から離れて沖縄にいたのである。

 自分は被災地である地元を放り出し、職場放棄して、なんの関係もない沖縄県知事選に駆けつけながら、「台風や地震が発生している時だから総裁選なんて前倒しで終わらせたほうがいい」と平気でコメントするとは、いったい、この男、どういう神経をしているのか。

しかも、松井の職場放棄はこれで終わったわけではなかった。
なんと9日からは、11月に行われる万博開催地投票対策と称して、イタリア、デンマーク、ハンガリーの3カ国を回り、ほぼ1週間、大阪を離れるのだという。地元でこんな被害が起きているのだから、中止するのが普通だが、松井知事は強行。関空が使えないからと、愛知の中部国際空港セントレアから出発するらしい。

 どこまで、台風被害に関心がないのかと愕然とするが、実は、松井知事のこの姿勢は最初からだった。「非常に強い勢いで四国・近畿を直撃」「第二室戸台風の再来か」と警告されていた台風襲来前から、実際に大阪府全域、特に南部で大きな被害が出た4日まで、松井は目立った情報発信をほとんど何もしていない。自ら陣頭指揮を取るべき災害対策本部も設置しなかった。台風一過の5日にあった定例会見で、関空について「わざと孤立させた。あの状態で動けば人命を危機にさらす。言い訳になるが、想定外のタンカー衝突があった」と、自ら言い訳と認める発言をしたぐらいだった。

そして、同日夜、久々にツイッターを更新したと思ったら、その内容は被災の状況を伝えるものでも、注意喚起でもなかった。元大阪市長の平松邦夫氏が、南港ベイエリアの人工島に建つ大阪府咲洲庁舎(旧・大阪ワールドトレードセンタービル、通称:WTCビル)の被害を伝える記事を自らのコメントとともにリツイートしたのに対し、「嬉しそうに言うな!」と、逆ギレしたのである。関空の冠水を受け、共産党関係者が、やはりベイエリアの人工島・夢洲で計画されている万博・カジノに疑問を呈したツイートには「共産党は風評被害をご希望なんでしょうかね?」と攻撃的に反論した。


 松井知事の防災意識の低さ、府民の生活よりも政局や自分のメンツを優先する体質は知っていたが、ここまで露骨だと呆れるほかない。

●台風被害、耐震性欠如の旧WTCビルを大阪府庁にしようとした橋下徹

 しかも、これは松井知事だけでなく、前任者の橋下徹・前大阪市長にもいえることだ。今回の台風21号でかつて自分が首長を務めた大阪に被害が広がると、橋下は被災した府民・市民の生活そっちのけで、防災軽視で無為無策だった自分たちへの批判封じや責任逃れ、さらには、過去の失策をまるで「英断だった」と言いつくろうような自己正当化ばかりおこなったのだ。

 まず、大阪全域で台風が猛威を振るっていた4日、配信したメルマガで、橋下が延々語っていたのは、前述した大阪府咲洲庁舎(旧WTCビル)のことだった。大阪南港ベイエリアの人工島・咲洲に建つ256メートルの超高層ビル・旧WTCビルは府知事時代に強引に購入し、大阪府の第二庁舎としたものだが、今回の台風で長時間の揺れに見舞われ、31台のエレベーターのうち21台が自動停止。すぐ隣の駐車場では、20台以上の車が強風に吹き飛ばされたり、巻き上げられたりして横転・大破し、ビルの足元に残骸が積み上がった。

 このことを意識したのだろう、橋下は先回りして批判を封じ込めるように、ビル購入の経緯を自画自賛交じりに語りはじめた。

 いわく、自分が2008年に府知事に就任する前から老朽化した府庁舎の建て替えが大きな問題になっていた。だが、府の財政逼迫や、当時府議だった松井一郎らが巨額の新規庁舎建設に反対していたのもあり、膠着状態に陥っていた。そこで思いついたのが、大阪市がバブル期に建設したものの、破綻したWTCビルを格安で買い取り、府庁を移転するアイデア。実現すれば、やはり負の遺産となっていた大阪ベイエリアの活性化にもつながる。役人や府議会には考えつかない「前代未聞、驚天動地のアイデア」だった──。


 これが橋下の説明するストーリーだが、事はそう単純ではない。当時の事情を知る大阪財界の関係者は、こう語る。

「大阪市には当時、港湾局が推し進めたWTC、経済戦略局が担当だったATC(アジア太平洋トレードセンター)など、『5K』と呼ばれる大型不良資産があったんです。あんな使い道のない、アクセスも悪いビルを買い取ってくれるとは、市や金融機関からすればラッキーなんですが、一方で『橋下はアホか』とも言われてました。当時から防災上の欠陥も指摘されていましたからね」

 橋下は府知事就任半年後の2008年8月、WTCビルの展望台に上り、「ここが関西に光を見せる拠点になる」「大阪再生の光が見えた。(府庁移転は)もう決まりです」と、上機嫌で語った。抵抗する府議会を押し切り、09年10月に購入を決定。この過程で橋下に同調し、移転に賛成した松井ら府議会自民党の一部グループが、後に大阪維新の会を結成することになる。

 だが、橋下の府庁移転計画は、11年3月の東日本大震災でボロが出る。WTCビルは震源から約600キロメートルも離れているにもかかわらず、長周期振動で10分間にわたって最大2.7メートルも揺れ、約360カ所が破損。耐震性の欠陥に加え、津波や高潮、液状化、孤島化の恐れが防災の専門家から次々と指摘され、「災害時の拠点としてはまったく使えない」と断言されたのである。そこへ加えて今回、台風にも弱いことが露呈。
結局、橋下は何の使い道もないビルを思いつきで強引に買い、将来にわたって維持・改修費を抱え込むという、典型的な「安物買いの銭失い」を主導したことが明らかになったわけだ。

 ところが橋下は頑としてこれを失策と認めず、自己正当化にいそしんでいる。先のメルマガでは、WTCビル購入が「今の大阪政治の根っこの根っこ」だったと言い、「あのときにWTCビルの購入をしていなければ、大阪維新の会も、日本維新の会も誕生せず、そして統合型リゾートや大阪万博の話も何もなかっただろう」と言い張った。

さらに、7日に連投したツイッターでは、WTC問題に加え、関空問題で批判されはじめたことを意識してか、「物事に100%の完璧はない。今回の台風被害は甘受すべき範囲内」「一つの事象だけに騒ぎ立てるバカな有権者に付き合うのはもう懲り懲りだよ」と有権者をバカ呼ばわりする逆ギレぶりを見せつけた。

●松井一郎、橋下徹…維新の頭のなかにあるのは、カジノと万博誘致だけ

 橋下前市長といい,松井知事といい、この人たちは、どんな失敗や愚策をしても、逆ギレしてどなれば封じ込めるとでも思っているらしい。

 しかし、彼らが旧WTCビルについて、逆ギレしているのは、個人のメンツだけにとどまらない部分もある。旧WTCビルの問題が露わになれば、万博・カジノに批判が高まる可能性があるからだ。

「橋下氏も書いていますが、WTCビルと府庁移転問題は維新誕生のきっかけになった、いわば原点ですからね。それ以上に、すぐ隣の人工島・夢洲ではIR(カジノ)、その起爆剤としての万博という維新がこだわってきた“成長戦略”が描かれている。まったく先の見えない大阪都構想もそうですが、撤退すれば、自分たちの存在意義が根底から瓦解してしまうので、いくら災害があっても取り下げられないんでしょう」(在阪の全国紙・政治部記者)

 実は、旧WTCビルは府庁移転計画が消え、とりあえず「大阪府咲洲庁舎」と称する第二庁舎となったあとも、「無駄・不便・遠い」と職員には不評で、完全撤退論がくすぶり続けている。それでも松井知事は撤退する気などさらさらない。
それどころか、2015年の府知事選時には、「ベイエリア活性化の司令塔にするべき」と主張し、ツイッターにこんなことを書き込んでいた。

「もし南海トラフの津波でベイエリアが甚大な被害となった場合に、地域の住民皆さんの命と財産を守り復旧復興の司令塔となるのが咲き洲庁舎だと僕は考えています(※原文ママ)」

 あれほど防災上の欠陥が指摘され、今回も機能不全の危険性が露わになった旧WTCビルを「住民皆さんの命と財産を守り復旧復興の司令塔」とは、もはや正気とは思えない。

 ようするに、松井知事にしても、橋下前市長にしても、頭のなかにあるのは、カジノと万博誘致と自分たちの権力維持だけ。大阪府民の生命や安全など、どうでもいいということなのだろう。実際、その姿勢は、今回の松井知事の現場放り出しの沖縄行きと、万博のためのヨーロッパ行脚に端的に表れている。

 比較的自然災害が少ないため、これまで目立たなかったが、大阪府民はとんでもない連中に自分たちの生命を預けていることをもう少し自覚したほうがいいのではないか。
(杉田涼一)

編集部おすすめ