池松壮亮主演、塚本晋也監督の時代劇『斬、』が訴えたかったもの! 日本の右傾化への無力感と警告が

池松壮亮主演、塚本晋也監督の時代劇『斬、』が訴えたかったもの! 日本の右傾化への無力感と警告が
反戦の思いが描かれる映画『斬、』(公式HPより)

 塚本晋也監督と池松壮亮が初めてタッグを組んだ映画『斬、』が先月24日より公開されている。

『斬、』は塚本晋也監督が初めて手がける時代劇作品として話題を集めているが、ありきたりな時代劇作品ではまったくない。一般的な侍が主人公の映画なのにも関わらず、作品の主題は「非暴力」。『野火』(2015年公開)をつくった塚本晋也監督らしい「反戦」への思いが描かれた映画なのである。

『斬、』の舞台は江戸時代末期。主人公の浪人・都築杢之進(池松壮亮)は、藩を離れて江戸近郊の農村で手伝いをしつつ、村の若者・市助(前田隆成)に木刀で剣の稽古をつけるなどして静かに暮らしていた。

 そんななか、開国に揺れる幕府のために有能な武士を探して旅していた澤村次郎左衛門(塚本晋也)は、たまたま稽古中の杢之進と出会い、その腕前に惚れ込む。そして、澤村は杢之進を自らの組に引き入れ、江戸に向かって出発することになる。

 しかし、杢之進らが村を発つ直前に問題が発生する。源田瀬左衛門(中村達也)が率いる無頼の浪人集団が村はずれに居座ったのだ。村人らは浮浪集団を気味悪がって退治するよう杢之進に依頼するが、源田たちから危害を加えられたわけではないため杢之進は話し合いで解決するべく動く。

 実際、源田たちは「悪い奴にしか悪さはしない」をモットーにしている集団で、村人たちに危害を加える気など微塵もなかった。源田たちは見た目が怖いだけで、一般庶民にとっては極悪人などではなかったのだ。

 杢之進は話し合いの結果を伝えるが、それでも村人たちは納得せず、引き続き退治してくれるよう依頼する。そして、市助と浮浪集団との間で起きたちょっとした衝突をきっかけに、澤村が源田以外の浪人集団を全員斬り殺す事件が起きてしまった。

 浪人集団が退治されたことに村人たちは喝采をあげるが、そこから悲劇が起こる。復讐に燃える源田が仲間を引き連れて村に戻り、村のなかの一家を惨殺してしまうのだ。

 杢之進は一家で唯一生き残ったゆう(蒼井優)から仇討ちを求められるが、それでも杢之進は躊躇する。仇討ちに成功したとしても、憎しみは連鎖し、また同じことが繰り返されるからだ。そして──。

 あらすじからもわかる通り、主人公を勇敢な戦士として描かず、時代劇のヒロイズムを否定している『斬、』は、王道の時代劇作品ではない。

 そして、その作品を通して伝えようとしている思いは、塚本晋也監督の前作『野火』と重なるものがある。

『野火』は大岡昇平による同名小説を映画化した作品。太平洋戦争末期のレイテ島を舞台に、飢えに苦しみ死んでいく日本兵たちの極限状態を描いたこの映画を通じて塚本晋也監督は、右傾化が進み、着実に「戦争ができる国」に戻ろうとしている日本の現状への警鐘を鳴らした。

 事実、「映画秘宝」(洋泉社)2019年1月号のインタビューで塚本晋也監督は「自分の映画で世の中を変えられるかも、なんて傲慢なことは思いませんが、少しは良いほうに持ち直すのではと思ったんです。でも、何も変わらないばかりか、おそれている方向へどんどん揺るぎなく向かっている。その諦観というか、自分の非力さを痛感して、絶望的な気分で作ったのが『斬、』なんです」と、2つの作品が地続きであることを明かしている。

●徹底した「非暴力」を貫くアンチヒーロー時代劇に込められた深い意味

『斬、』の時代設定が幕末であることにも意味がある。安倍政権のもとで右傾化を強め、どんどん「戦争ができる国」へ近づいていく現在の日本と、開国前夜の日本を、塚本晋也監督は重ね合わせているのだ。

「いまの日本の状況とよく似ていると思ったんです。江戸時代になって250年間も戦争がなかったところに、ペリーさんが黒船でやってきて国内がざわつき始めて、キナ臭く血なまぐさい世の中になっていく。そして明治になり、近代戦争の時代に突入していく。歴史的にはそのまま行けば世界大戦に繋がるわけですから、過去の時代を描くことで、この先に起こりうる未来を暗示するような映画にしようと思ったんです。警告……というと大げさですけどね」(前掲「映画秘宝」より)

 映画では、杢之進は澤村による強引な導きで源田らと対峙することになる。だが、その仇討ちの場面で杢之進はなにもできない。彼と淡い恋仲の関係にあると描かれるゆうが浪人集団に性的暴行されそうになっている状況でもなお……。

 一般的なストーリーテリングの定石では、その状況を克服することでドラマが生まれるわけだが、時代劇における花形シーンの仇討ちの場面ですら、『斬、』は徹底的にアンチヒロイズムを貫き通す。その背景にはもちろん、塚本晋也監督が映画を通して観客に伝えようとした「非暴力」の確固たる思いがある。「キネマ旬報」(キネマ旬報社)2018年12月上旬号のインタビューで塚本晋也監督はこのように語っている。

「たぶん都築杢之進は人を斬るのが上手い人で、死ぬのが恐い根性なしじゃなく、これから自分は何人殺すのかという恐怖。その難しい状況を克服するのがヒーローなんでしょうが、克服することが出来ないことを描かねば。今の時代への絶望が僕の中にあるから、克服する姿でお客さまに納得してもらいたくない」

 優れた時代劇は、過去に材を取ることで権力者に目をつけられないよう偽装しながら、「いま」を牛耳る権力者への批判を物語に入れ込むものだ。『斬、』は「痛快時代劇」ではないが、そういった意味では「反権力」に根差したもっとも時代劇らしい時代劇といえるのかもしれない。
(編集部)

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