左・菅首相(首相官邸HP)/右・河野ワクチン相(自民党HP)


 この連中はまた、その場しのぎのゴマカシで失態を隠すつもりなのか。

 菅義偉首相が訪米中に米ファイザー社のアルバート・ブーラCEOとの電話会談でワクチンの追加供給の要請をおこなったが、この交渉を受けて河野太郎ワクチン相が「9月末までに接種対象者のワクチン接種を完了できる実質的な合意がなされた」と明言。

今朝、ぶら下がり取材に応じた菅首相も、国内の全対象分のワクチンについて「9月までに供給されるめどが立った」と宣言した。

 しかし、これ、とてもじゃないが額面どおりに受け取れるような話ではない。まず大前提として、ファイザーのブーラCEOが菅首相に語ったのは、「ワクチンの追加供給に向けた協議を迅速に進める」というもの。「協議を進める」としか言っていないのに、どうしてこれで「9月末までにワクチン接種を完了できる」「9月までに供給されるめどが立った」と言い切れるのか。

 だいたい、約480万人とされている医療従事者向けの接種にしても、当初は「5月前半には2回分の配送完了」としていたが、4月15日時点で2回の接種が終わった医療従事者はたったの14%(約68万人)。1回目の接種もできていない人は76%(約363万人)にものぼっている。

高齢者向けも「6月中に全量供給」(河野ワクチン相)と言うが、その雲行きはかなり怪しく、本日、自民党の下村博文政調会長も「来年春くらいまでかかるのではないか」と口にしたほど。

 しかも、問題は、河野外相が口にした「実質的な合意」という言葉だ。本日放送の『ひるおび!』(TBS)では、田崎史郎氏が必死に菅首相と河野ワクチン相の手柄であるかのように喧伝したが、その一方で北村義浩・日本医科大学特任教授は「具体的なことがないので本当に(ワクチンが)来るのか心配」「いろんなことが後ろにずれてきた、あるいは蔑ろにされてきた経験からすると、素直に喜びえない」とコメント。政治アナリストの伊藤惇夫氏も「正式合意なら『合意した』と言えばいいのに何で『実質的に』と付いたのかなと素朴な疑問がある」と述べた。

 すると、田崎氏は「疑りはじめたらキリがないですよ」「『合意した』って言ってんだから、それが来るのを待てばいい」と言い放ち、さらには「正式契約を交わしていないから」「正式契約の前だから『実質合意』という言葉を使っている」と強弁したのだ。

 まったくよく言うよ、と言うしかない。

そもそもワクチン交渉において「正式契約」でない「合意」に何の意味もないことは、昨年の「合意」の結果をみればあきらかではないか。

 周知のように、日本政府は昨年7月にもファイザーと「2021年6月末までに6000万人分の供給を受けることで基本合意した」としていた。ところが今年1月になって「年内に7200万人分を供給で正式契約」と発表。「6月末」のはずが「年内」と時期が半年もずれ込んだのだ。

 それも当然で、この昨年7月の「基本合意」について、「週刊文春」(文藝春秋/4月8日号)が実態は「“注文書”を交わしただけ」だったと報道。官邸関係者が「あくまで努力義務のような形で、何かファイザー側に事情があれば、初期の注文書から変更できる。

極めてファイザーに有利な約束だった」と証言している。

「基本合意」でさえこれほどあやふやなものだったのに、今回、河野ワクチン相が口にしたのはさらに表現が弱い「実質的な合意」なのだ。予定通り供給されると考えるほうがどうかしている。

 いや、それどころか、「実質的な合意」というのは国民をごまかすために河野ワクチン相が勝手に言っている言葉で、菅首相は今回、ファイザーとなんの「合意」にも漕ぎ着けられていないのではないか、という見方が有力だ。

 そもそも、菅政権は以前から、ファイザーにまったく相手にされていないに等しい。日本政府は今年1月下旬、ワクチンを1瓶から6回分採取する特殊な注射器を準備していなかったため、新たに「1瓶5回分で7200万人分の確保」をおこなうとし、河野ワクチン相が「私が直接、ファイザーと話をする」と乗り出した。

 ところが、このときブーラCEOは「交渉には首相を出してほしい」と河野ワクチン相を門前払いしているのだ。しかも、「首相を出せ」と要求されたあとも、交渉は〈不調に終わった〉(中日新聞など3月7日付)。

 今回の菅首相による“直談判”も同様だ。当初、官邸は菅首相がアメリカ滞在中に、ワシントンでブーラCEOとの対面会談を実現させようと動いていた。しかし、わざわざアメリカに出掛けながら、ブーラCEOとの会談は「電話会談」に終わったのである。

 田崎氏は先の『ひるおび!』で、「菅首相は(コロナ対策もあり)ワシントンD.C.から動けず、ブーラCEOはニューヨークにいてワシントンに来てくれとは言えないので電話会談になった」などと説明していたが、実態はまるで違う。

「対面で面会したい」と官邸サイドが要請するも、ファイザーには冷たくあしらわれ、対面での面会を拒否されただけだ。

 そして、菅首相がこの電話会談で、最低でも「9月末までに対象者全員の接種分供給の基本合意」を引き出そうとしたにも関わらず、ブーラCEOは結局、「協議を迅速に進める」としか言わなかったのである。

 言っておくが、これはファイザーだけの問題ではない。ファイザーのこうした日本軽視の姿勢を生み出した責任はまぎれもなく、菅首相、そして前首相の安倍晋三にある。

 ワクチンをめぐって欧米で争奪戦が始まったのは昨年3月ごろ。当時の安倍首相も6月に「早ければ年末には接種できるようになるかもしれない」などと言い、8月には「2021年前半までに全国民分のワクチンを確保」などとしていた。

ところが、そうした大言壮語の裏では何をしていたかと言えば、厚労省の予防接種室長がファイザーの日本法人とやり取りするだけだった。

 安倍首相から菅首相に代わっても、菅首相は和泉洋人・首相補佐官と厚労省の大坪寛子審議官という“コネクティングルーム不倫”のコンビを中心にタスクフォースを組ませる始末で、自分で汗をかこうとはしなかった。

 積極的に動かなかっただけではない。菅官邸は前述した特殊な注射器をめぐって、ファイザーやEUを敵に回すような事態まで起こしている。

 ファイザーのワクチンは1瓶に6回分が入っているが、通常の注射器では5回分のワクチンしか採取できないため、6回分を採取するには特殊な注射器が必要になる。ところが、日本政府はそのことを知らされていたにもかかわらず、何の対策も打たなかった。

 そして、特殊な注射器の確保のめどがまったく立っていなかった2月、加藤勝信官房長官が記者会見で、接種しきれない1回分のワクチンはどうなるのかと質問を受け、「基本的には廃棄されると承知している」と発言してしまったのである。

 この発言に、EU諸国が「ワクチンが世界中で足りないのに、日本では捨てるのか。それなら輸出する必要はない!」と反発(前出「週刊文春」より)。一時は、ファイザーのワクチンの日本向け輸出をEUが承認しないのではないかという危惧の声もあがるほどだった。

 ようするに、こうした安倍政権、菅政権の怠慢と失態が、現在の状況を生んでいるのだ。そのことは、イスラエルのネタニヤフ首相と比べればあきらかだ。ネタニヤフ首相とエデルスタイン保健相はブーラCEOに17回も直談判し、独自契約に漕ぎ着けた。その結果、イスラエルは16歳以上の対象者の80%以上が2回接種を終え、感染者数や入院社数が激減。屋外でのマスク着用義務も解除された。

 かたや、この国のワクチン接種率はG7でダントツ最下位の0.87%(4月10日時点)。感染が爆発状態に陥っているなか、重症患者を受け入れている病院で1回目の接種も済んでいない医療従事者が丸腰で診療にあたっている。

 にもかかわらず、「9月までに供給されるめどが立った」などとうそぶき、あたかも成果をあげたかのような顔をする総理大臣──。なぜ、この国の国民はこんな政権を許しているのか、ほんとうに不思議でしようがない。