河井克行ブログより


 こんな幕引きが許されるはずがない。河井克行・元法相と河井案里・前参院議員が有罪となった2019年参院選における大規模買収事件で、自民党本部が投入した1億5000万円の選挙資金について、今月22日、自民党の柴山昌彦幹事長代理が会見をおこなって「(買収に)使った事実がない」と公表。

説明責任を果たしたという見解を示したからだ。

 この日の会見は直前になって開催が発表されたといい、会見の時間もたったの20分。しかも「(買収に)使った事実がない」という証拠として示したのは、河井夫妻の連名による書面を含む、たった3枚の文書のみ。そこには領収書もなく、1億5000万円のうち約1億2400万円は機関紙や政策チラシの作成・配布費に充て、そのほかは人件費や事務所に使ったという河井夫妻の報告を、柴山幹事長代理はそのまま説明しただけだった。

 そして、柴山幹事長代理は「私どもとしては、こうした客観的な資料について報告をいただいたので、これに従って真摯に受け止めたいと考えている」「いま私どもが現執行部としてできうる最善のことをしたのではないか」などと発言。ようするに、有罪となった夫妻の言い分を提示しただけで、自民党としては何の調査もしていないというのに、事実上「この問題はこれで終了」宣言をおこなったのだ。

 有権者をバカにするにもほどがあるだろう。河井案里氏と同じ広島選挙区で公認された岸田派の重鎮・溝手顕正氏に自民党から提供された選挙資金は、河井案里氏の10分の1でしかない1500万円。なぜ河井陣営には1億5000万円もの資金を提供したのか、まずはその理由を説明しなければ意味がない。

 しかも、法相経験者が逮捕され有罪判決を受けるという大規模買収事件を引き起こしただけでなく、疑惑の1億5000万円のうち1億2000万円は政党交付金、つまりは税金なのだ。当然、これほどの重大事について説明すべきは選挙資金の決裁権者だった二階俊博幹事長であり、あの田崎史郎氏も「総裁である当時の安倍総理は決裁にかかわる立場にいた」と指摘していたように、安倍晋三・前首相も会見で説明をおこなう責任がある。

 ところが、問題の当事者たる二階幹事長も出てこず幹事長代理に説明させ、安倍前首相にいたっては会見もせずに総裁選に熱中。

〈国会内の自身の事務所にこもり、党所属議員に電話をかけて応援を依頼し、高市氏の好感度を上げる演出にまでもの申す「軍師」ぶり〉だという(西日本新聞26日付)。

 まさしく自民党の無反省ぶりと腐りっぷりを象徴する展開だが、当然ながら、「大規模買収に自民党本部からの1億5000万円は使われていない」とする自民党の主張には、何の裏付けもない。

 まず、疑念が高まっているのは、人件費だ。前述したように、今回の自民党の報告では、1億5000万円のうち約2600万円を人件費や事務所に使ったことになっている。

 また、先日、河井夫妻が代表を務めていた2つの自民党支部の、2019年分の政治資金収支報告書と政党交付金使途等報告書の訂正分が公表されたが、そこでも、案里氏が代表を務める「自民党広島県参院選挙区第七支部」は人件費に2574万円を支出したと報告している。だが、〈県選管によると、人件費の記載には領収書が必要ないため、詳細は分からない〉(中国新聞デジタル24日付)。

 しかも、克行氏の公判で運動員への買収費用がこの人件費のなかに含まれていることがうかがえる事実が明らかになった。2月におこなわれた公判で検察側が読み上げた会計担当者の供述調書によると、会計担当者は克行氏から指示を受けて党本部からの資金を管理するための専用口座を開設し、買収罪の対象とされた3人の陣営スタッフに支払われた計約220万円も、ここから引き出され振り込まれたという。そして、6月の東京地裁の判決では、この3人の陣営スタッフへの報酬を買収と認定している。

 さらに大きな疑問は、地元政治家たちにばらまかれた買収資金の問題だ。河井夫妻が買収に使った現金は3000万円近くにのぼるが、裁判で克行氏は「全て手元にあった資金」「議員歳費を自宅の金庫に入れていた」と説明してきた。

 だが、2019年分の資産補充報告書によると、河井夫妻には計5000万円近い借入金があったといい(中国新聞デジタル24日付)、さらに金を受け取った側は「全て新札」「帯封の付いた状態」と証言。

このとき「安倍さんからじゃけえ」「二階さんから」と言われて金を手渡されたという証言も出ている。

 いや、そればかりか、買収が「自民党公認」でおこなわれていたことを疑わせる証言も出ている。2月におこなわれた公判での前三原市長の天満祥典氏の証言によると、克行氏が広島市内のホテルにある鉄板焼店の個室で会食し、天満・前市長に現金100万円を渡した際、当時、自民党の組織運動本部長だった山口泰明衆院議員も同席。そのほか党の職員も居合わせていたというのである。

 前述したように、もっとも重要なのは、なぜ安倍自民党は河井陣営に溝手陣営の10倍にものぼる選挙資金を提供したのか、という点だ。買収がおこなわれたこの選挙には、当時の安倍首相が地元の安倍事務所の秘書複数名を指南役として投入していたこともわかっており、さらには克行氏が広島県議サイドに金を渡したあと、安倍首相の秘書がこの県議を訪ねて案里氏への支援を求めていたことも判明している。

 自民党は1億5000万円のうち約1億2400円は機関紙や政策チラシの作成・配布費に充てられたというが、そもそもこれほどの巨額を選挙活動にかけられるという状況自体が異常だとしか言いようがない。そして、安倍首相の秘書や自民党本部のかかわり方を見れば、この大規模選挙買収事件はやはり、かつて溝手氏が安倍氏を批判し「過去の人」と発言したこと私怨を抱いていた安倍前首相の意向を受け、自民党本部が主導したとしか考えられないのだ。

 選挙買収という違法行為を時の総理大臣と党本部が主導した疑惑がまったく払拭されていないにもかかわらず、徹底した外部の専門家による検証もおこなわず、幕引きしようとする──。だが、最大の問題は、明日の総裁選で誰が新総裁・次期首相になったとしても、この大規模買収問題にメスが入れられることはなく、自民党のこの体質は変わることはない、ということだ。

 実際、最有力と見られている岸田文雄氏は、地元・広島で起こった買収事件の際、溝手陣営側におり、総裁選でも党改革の柱に「政治とカネ」の問題を挙げているが、今回の河井事件の自民党本部による説明に対しては“今後を注視する”という生ぬるい姿勢を見せ、本格調査が必要であることは明々白々なのに「(自分が総裁になれば)必要であれば説明する」と発言。すでに腰が引けた状態だ。

 また、河野太郎氏や高市早苗氏も“党本部に十分な説明を求める”としているが、河野氏のバックには買収事件当時は官房長官だった菅義偉首相が、高市氏のバックには事件の元凶になった安倍前首相がおり、河野氏にしても高市氏にしても十分な説明などできるはずがない。野田聖子氏にいたっては、バックが二階幹事長である上、現執行部の一員でもあるため、すでに「党本部の説明を信じなかったら何を信じるのか」などと開き直っている始末だ。

 もはや「クズ揃い」としか言いようがないが、トップの顔が誰になっても、自民党の腐りきった体質は引き継がれるだけ。今後も選挙買収という有権者を裏切る違法行為を平気でやらかしかねないだろう。つまり、自浄作用がまるでない自民党に対しては、有権者が今度の衆院選でその審判を突きつけるしかないのである。