明日、公示される衆院選を控えて、党首討論など各党代表による論戦がスタートしているが、何を言っているのかわからない岸田文雄首相を差し置き、際立ってツッコミが殺到しているのが、「口利き金銭授受問題」の説明責任から逃げつづけている自民党の甘利明幹事長だ。
甘利幹事長といえば、衆議院が解散された翌日の15日に〈選挙用の写真、こんな仕上がりになりました〉とTwitterに投稿。
だが、こうした声も甘利幹事長にはどこ吹く風。9党幹部が集まった昨日17日放送の『日曜討論』(NHK)に出演した際には、iPhoneと思しきスマートフォンを掲げて「ここにある世界を席巻しているスマホも、3Dプリンターも、量子コンピュータも全部、日本の発明です」などと発言。一体、何を根拠にして「日本の発明」としているのかは定かではないが、自民党政権下で技術力が低下し世界に遅れをとってきたというのに、過去の栄光にすがった「日本スゴイ!」を振りかざした。
無論、これにもツッコミが殺到。ネット上では〈そうだっけ?〉〈現実を見ようぜ〉〈技術で勝ってる?違う世界から来てるんか…?〉〈甘利のスマホ日本起源説、夏野剛あたりに「iモードはスマホの元祖みたいなもんですよ」とか吹聴された説を推します〉〈無知を自信満々にさらけ出すジジイほど痛々しいものはないわ〉などと呆れの声が広がった。
しかし、甘利幹事長の厚かましく恥知らずな発言は、これだけではなかった。
『日曜討論』で甘利幹事長は、冒頭から立憲民主党と日本共産党の閣外協力について攻撃しつづけ、司会者から総選挙の争点を質問された際にも「政府の意思決定のなかに限定的とはいえ共産党の意思が入ってくる。これは日本の政治史上これまでなかったこと」などと発言。コロナでも経済政策でもなく、共産党攻撃を繰り広げた。
政策論争の場だというのに、腐っても政権を握る自民党の代表が、松井一郎ばりにネチネチと「共産党ガー」とがなり立てる……。まったく見苦しいにも程があるが、これには立憲の福山哲郎幹事長が「政策論議ができない」「重要なのは国民生活」と批判。
ところが、この「首相が変わっても自民党は変わらない」という批判に対し、甘利幹事長は「自民党のどこが変わらないのか」と反論したのだ。
何を言い出すかと思えば、まさかの逆ギレ。しかも「お前が言うか」という話だろう。
甘利幹事長はつづけて「岸田さんは内閣を岸田カラーで染めた」「元総理経験者に遠慮することなく総理自身が指揮権を発揮できるようにした」と抗弁していたが、さんざん指摘されているように新内閣は「岸田カラー」ではなく「甘利カラーで染めた」と言うべき顔ぶれ。さらに、自民党の選挙公約からは総裁選で訴えていた岸田氏の主張がことごとく外され、安倍晋三や麻生太郎といった元総理経験者の意向に沿った主張がズラリと並んでいる。なのに「総理自身が指揮権を発揮できるようにした」とは、まったく笑わせる。
いや、そもそも安倍政権下で起こった「政治とカネ」の代表格が、甘利幹事長の「口利き金銭授受」問題だ。甘利氏は不起訴に終わったことを盾にしているが、それも「安倍政権の守護神」と呼ばれてきた黒川弘務・元東京高検検事長が捜査を潰したというのは有名な話。つまり、甘利氏の存在自体が「安倍政権の政治腐敗・官邸独裁」の象徴なのだ。その甘利氏が、政権与党を取り仕切る幹事長に就き、いまや「影の総理」として実権を握っている、その事実こそが「自民党が何ひとつ変わっていない」ことの最たる証拠ではないか。
この甘利幹事長による「自民党のどこが変わらないのか」発言には、落語家の立川雲水が〈「どこが変わらないのか?」と訊かれりゃ「大臣室で賄賂貰った人間がずっと変わらずに偉そうに居座ったままの現状」って即答できますやん〉とツッコミを入れていたが、まさに御名答と言うほかないだろう。
自身の問題について国民に説明責任も果たさないまま権力中枢に登り詰め、恥も外聞もなく調子に乗りつづける甘利幹事長──。しかも、甘利幹事長はこの『日曜討論』で、安倍元首相かと見紛うようなとんでもない嘘を平然と吐いた。
それは、共闘野党が公約に打ち出している消費税減税について司会者から「どう考えるか」と問われたときのこと。甘利幹事長は、こんなことを言い出したのだ。
「あのー、消費税の使い道はですね、社会保障って限定されているんですね」
消費税の使途は社会保障に限定されている……!? よくもまあこんなあからさまな嘘を言えたものだと呆れるしかない。消費税を増税する際、安倍政権は「消費税率の引上げ分は、全額、社会保障の充実と安定化に使われます」と大々的に喧伝してきたが、増税した分の多くは財政赤字の穴埋めに使われているのが実態だからだ。
その上、本サイトでは繰り返し指摘してきたように、安倍政権は医療費を削減するために公立・公的病院の統廃合を進めて病床数を20万床減らすという「地域医療構想」なる制度を推進させ、菅政権ではコロナによって病床不足が叫ばれている最中に、病床を削減した病院に補助金を付け、しかもその補助金の財源を全額消費税で賄うための法改正まで強行。これにより、今年度は消費税を195億円も使い、なんと1万床も削減するというのだ。
しかも、この方針を岸田・甘利体制の現政権も堅持。立憲民主党は選挙公約でも「地域医療構想」の抜本的な見直しを打ち出し、参院代表質問では共産党の小池晃書紀局長が「消費税収を使った病床削減の仕組み、とりわけ急性期病床を削減・縮小する計画をただちに撤回すべき」と岸田首相に迫ったが、岸田首相は「地域の実情を踏まえて地方自治体と連携して検討を進める」と答弁。病床削減の政策を撤回しなかったのだ。
つまり、「消費税の使い道は社会保障に限定されている」という甘利幹事長の発言は大嘘であるばかりか、消費税を使って国民の命と健康を守る社会保障を削っているのが現実で、甘利幹事長はそれを推進している張本人なのだ。
本日おこなわれた日本記者クラブ主催の党首討論では、共闘野党が打ち出している消費税の減税に対して、岸田首相も「消費税は社会保障を支える重要な財源」だとし、さらには「消費税を引き下げるということになると、引き下げにともなう買い控え(が起こる)」などとトンデモ発言をおこなう始末。これを受けて共産党の志位和夫委員長は「消費税は社会保障のためと言いながら、社会保障を削るために使っているじゃないか」「『消費税は社会保障のため』と2度と言わないでほしい」と反論していたが、まさにそのとおりだろう。
本サイトでは既報でも言及したが、岸田首相は安倍元首相や菅前首相のようには横暴になりきれず、要領を得ない話をダラダラすることで必死になって安倍・菅政権の継承をごまかそうとしている。だが、甘利幹事長は安倍元首相と同じで、説明責任から逃げている身でありながら図に乗り、さらにはこのように平気で嘘を喧伝している。
安倍元首相に瓜二つの、厚顔無恥の嘘つき男が牛耳る政権を選択するのか否か。これも総選挙の大きな争点なのである。