内閣官房トップの菅官房長官(首相官邸HPより)


 参院選が終わり、さっそく安倍政権が本来の強権性を剥き出しにした。なんと、統計不正問題の再発防止策として、今後は内閣官房が公表前の統計などのチェックを一元化しておこなう、というのである。

 報道によると、政府は内閣官房の統計改革推進室に「分析的審査担当」を31人配置し、26日付で厚労省経産省、農水省など10府庁に配属。各府庁に常駐させ、統計の公表前にその正確性や、調査方法が適切かどうかを分析したりするという。

 言うまでもなく、内閣官房とは内閣総理大臣直属の組織であり、そのトップは内閣官房長官だ。つまり、統計不正の再発防止を、菅義偉官房長官を頂点にした安倍官邸が取り仕切るというのだ。

 実際、安倍官邸が事実上、統計チェックを担うというニュースを最初に報じた日本経済新聞電子版25日付記事は、こうも伝えている。

〈政府は8月上旬に統計改革推進会議(議長・菅義偉官房長官)を開き、一連の統計不正の再発防止策を議論するための作業部会を設ける。

有識者を交えて話し合い、年内をメドに統計改革に向けた総合対策を取りまとめる方針だ。〉

 こんな話があるだろうか。そもそも統計不正問題では、官邸の圧力によって「毎月勤労統計」の調査手法が歪められ、賃金伸び率を異常なまでに上振れさせたという“アベノミクス偽装”の疑いが濃厚だ。ようするに、その統計不正の張本人が、再発防止策を担うというのである。

 いや、それどころか、今回の内閣官房への統計チェック一元化には、もっと大きな問題がある。表向きは「再発防止」のためと謳われているが、内閣官房が公表前の統計のチェックまでおこなうということは、官邸の意向が直々に反映されてしまうということではないか。

「統計不正の防止」どころか、「統計データ改ざんの一元化」と言っていいだろう。

 ネットでも「泥棒を警備員にするつもりか」「狼に羊の番をさせるのか」「まるで『1984』の真理省だ」「盗賊に門番をさせる構図」「労働基準監督署をワタミにアウトソーシングする日も近い」「ジャニーズの圧力監視を吉本にやらせるようなもの」など、ツッコミが殺到している。

 しかも、これらは、けっして冗談では済まない。実際、内閣官房=官邸のこれまでの省庁に圧力をかけてデータや統計手法を捻じ曲げてきたやり口を見れば、圧力が露骨になるのは確実だ。

例えば、前述した厚労省の「毎月勤労統計」。厚労省の採用した調査手法「総入れ替え方式」について、中江元哉首相秘書官(当時)がで賃金伸び率が低く出るとして、厚労省の担当者に調査手法の「改善」を求める「問題意識」を伝えたていた。

その結果、厚労省は有識者による「毎月勤労統計の改善に関する検討会」を発足。検討会に“官邸の意向”を強調した。実際、検討会の委員のひとりは、検討会の休憩中の雑談で厚労省職員がこう述べていたことを証言している。

「サンプルを(全数)入れ替えるたびに数値が悪くなるそれまでのやり方に官邸か、菅(義偉官房長官)さんかが『カンカンに怒っている』と言って厚労省職員は検討会の最初から相当気にしていた」(東京新聞2月10日付)

 しかし、検討会の方針は「現在の総入れ替え方式が適当」と思い通りにならなかったことから、官邸が激怒。中江首相秘書官は官邸で厚労省担当者に「部分入れ替え方式」を提案し、同日中に検討会の「中間的整理案」の文面は「総入れ替え方式が適当」から「引き続き検討する」に変更された。

 こうして官邸の圧力がかかった結果、2018年1月から「毎月勤労統計」の調査手法はこっそり変更され、あの手この手で賃金伸び率を引き上げた。

そして、同年6月には名目賃金が「3.3%増」となり、「21年5カ月ぶりの高水準」「アベノミクスの成果」などと大々的に報じられることになったのだ。

 だが、実態はどうか。野党合同ヒアリングにおいて、『国家の統計破壊』(集英社)などの著書もあり統計に詳しい明石順平弁護士による試算を、野党が提示したが、その試算では、2018年1~11月の実質賃金伸び率は、「アベノミクスの成果」と喧伝された6月だけが0.6%のプラスとなったが、それ以外の月はすべてマイナスに。この試算は、厚労省の屋敷次郎大臣官房参事官も(厚労省が試算した場合も)同じような数字が出ると予想される」と認めているものだ。

 ようするに、安倍官邸は「アベノミクスの成果」を演出するため、圧力をかけて調査手法を変更させるなどして、あたかも賃金が伸びているかのように国民を騙してきたのだ。

そして、こうして不正の実態があきらかになると、今度は「再発防止」のお題目を隠れ蓑にして、菅官房長官をトップにした内閣官房の官僚が各省庁の統計に直接口出しするという、むしろ不正をより円滑に可能にするシステムに変えようとしているのである。

 じつは、これとよく似たことはすでに起こっている。森友・加計学園問題などを受けて、安倍首相は「私のリーダーシップの下、公文書管理の在り方について政府を挙げて抜本的な見直しをおこなう」などと宣言。昨年4月に行政文書の管理に関するガイドラインを改正したが、改正後、官邸は安倍首相と官庁幹部との面談の際に議事概要などといった打ち合わせ記録を、一切、作成していないことが判明。一方、この問題を追及している毎日新聞の取材では、複数の省の幹部職員がこんな証言をおこなっている。

「官邸は情報漏えいを警戒して面談に記録要員を入れさせない」
「首相の目の前ではメモは取れない。見つかれば、次の面談から入れてもらえなくなる」
「面談後に記録を作っても、あえて公文書扱いにはしていない」
「幹部は面談後、記憶した首相とのやり取りを部下に口頭で伝えてメモを作らせている」

 つまり、安倍官邸は森友・加計問題などの再発防止策として打ち出したガイドライン改正によって、そもそも公文書を改ざんしたり隠蔽する必要がないよう、はなから記録を残さないようにしてしまった。

安倍首相が「徹底的に実施する」と言っていたのは、「正確な面談記録をこの世からなくしてしまう」ことの徹底だったのである。

 この実例に照らし合わせれば、今回の統計不正問題の「再発防止策」は、内閣官房からの出向者によって省庁に睨みをきかせて忖度をより強化し、同時に政権にとって不都合な統計データが世に出る前に官邸がそれを把握してコントロールできる、官邸支配のための手段でしかないだろう。

 そして、こうしたシステムづくりは、安倍官邸にとって喫緊の課題だったはずだ。というのも、この10月からは消費税率が10%に引き上げられる。そうなれば、あらゆる統計にその負の影響が表れることになるのは間違いないからだ。

 政権維持のため、政府統計が本格的に歪められてゆく──。冗談ではなく、安倍官邸が本当に「真理省」になってしまう日も近いかもしれない。