フジテレビHPより


 いまだ復旧の見通しが立っていない千葉県の台風災害。約4万戸で停電がつづいているほか、熱中症での死亡例のみならず屋根の補修時に3人が転落死するなど二次被害も相次いでいる。

 ここで浮き彫りになっているのは、政府の初動対応の遅れだ。実際、『news23』(TBS)では、気象庁が記録的な暴風になると記者会見を開いた8日、関係閣僚会議を開催する動きがあったというのに「大きな被害は出ない」として見送りにしていた上、9日には官邸幹部との会議で「2、3日で復旧するだろう」という見方を共有していたと報じた。

「2、3日で復旧する」という甘い見通しに立って内閣改造を予定通りにおこない、その結果、メディア報道も組閣の話題で一色に染まり、被災地は置き去りに──。しかし、ほとんどのメディアはそうした問題から目をそらし、せいぜい東京電力と千葉県の責任を問うくらいだ。

 たとえば、昨日18日放送の『バイキング』(フジテレビ)では「県・政府…初動対応に問題は?」とテロップを打ち、MCの坂上忍が「東電だけでなく千葉県や政府の初動の遅れも指摘されている」と台本を読んだものの、問題にしたのは災害救助法適用まで4日もかかった千葉県の対応のみ。坂上も「市町村の現場はてんてこ舞いなんだから、どこが何するの?といえばやっぱり千葉県だと思うんですよ、僕。

国にあげるのだって千葉県なわけでしょ?」と批判した。

 たしかに千葉県の対応はずさん極まりないが、自治体が動かないならその尻を叩き、復旧・支援のために全力をあげるのが国の責任だ。しかも、安倍首相はいまだに関係閣僚会議さえ一度も開いていないのである。だが、そうした点には言及することなく、菅義偉官房長官が13日の会見で述べた「大雨となる前から災害発生後にかけて迅速かつ適切に行ったと考えております」という言い分をそのまま紹介しただけ。普通、ここで「大雨じゃなくて台風、暴風による災害でしょ」というツッコミが入るはずだが、坂上は千葉県知事の森田健作の「こういうのは自然との戦い」「自然とは予測がつかないんですよ」という発言に「ものすごい他人事なんだよね、この方」と怒りを見せることに終始。解説用ボードには11日に内閣改造がおこなわれたことも記載されていたのに、それもスルーしたのだ。

 千葉県の対応は猛批判するのに、国が何もしていないことは隠されるのか。いや、政府の対応に疑義を呈しても、それがかき消されるという事態も起こっている。

 17日放送の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)では、火曜レギュラーコメンテーターの青木理が政府の初動対応に切り込んだのだが、それをMCの羽鳥がことごとく批判を封じてしまったのだ。

 まず、番組では千葉県内の被害状況を伝え、そこで羽鳥が「まあ、やっぱりちょっと初動対応は、まあ東電も、自治体も多少あったかなということだと思いますけども」と言うと、青木は「いや、ちょっとどころか大変に問題だと思いますよ」とコメント。台風通過後、マスコミも被害規模を甘く見積もってあまり報道しなかったこと、そうしたなかで内閣改造がおこなわれたことを踏まえた上で、こう語った。

「ところが、停電はまずどんどんどんどん復旧が先送りにされているということがひとつと、問題なのは家屋の全壊・半壊がこんなにあるのに、なんでいまごろまで、まだわからないっていうのはどうなってるんだということですよね。

つまり、これ、停電による影響もあったんでしょうけども、まずひとつは自治体ですよね。それから千葉県ですよね。それから国、政府ですよね。さっきも申し上げた内閣改造なんかやってる場合だったんだろうかっていうことも含めて、把握することすらこんなに遅れた理由というのは一体何なのかというところを、僕はこれきちんと検証すべきだと思いますよね」

 さらに、解説をおこなった元東電社員で国際環境経済研究所の竹内純子氏が“全体の戦略と現場での個別の現場力が必要なのに、今回は全体戦略が遅れたことと弱かったことが長期化の原因”と指摘すると、青木はさらにこうつづけた。

「とすると、いまのお話だと、一義的には県と政府の問題ですよね。これがね、たとえば大都市から遠い山間部であるとか離島であるとかといったことであれば、なかなか人的な問題でも難しかったということはあり得るんでしょうけれど、千葉のこの房総なんてのは、千葉(市)のほうから行っても近いですし、アクアラインなんかで行けば東京から下手すれば1時間以内で着けるような場所なわけですよね。

そこでこんな体たらくということは、これから類似の災害が起きた場合にどうなるんだって心配になるんだけども。まずはそこをきちんと検証すべきですよ。なぜこんなに把握が遅れたのか。それから、いまおっしゃったように、全体状況の連携がとれていないとすれば、これはやっぱり政府は何をやっていたんだ、と。内閣改造なんかやってる場合だったのか、というあたりも含めてメディアが検証しないといけないなと思いますよね」

 まったく青木の言うとおりだろう。というよりも、まず普通に考えて、災害時に政府の対応が妥当かどうかは真っ先に問題になることで、こんな当たり前の批判が出ていないこと事態がおかしい。

 しかし、この青木のコメントに対し、羽鳥は「まずはいま困っている方へのフォローというか復旧が第一ではありますけども、その次に考えなきゃいけないのは、青木さんが言うように台風はまたやってくるわけですから、連携ができなかったでは今後は済まないなという」とフォロー。今後の問題などではなく現在進行形の問題なのに、「復旧が第一」と話をすり替えて政府への批判をウヤムヤにし封じてしまったのだ。

 それだけではない。東電が被災者支援のために電気自動車40台を千葉県に派遣したという話題を取り上げた際、やはり青木が「やるのはいいことですよ。だけど、なんで40台なんですか? こんなのもっとね、県なり政府なりとかが指示をして100台、1000台出せばいいじゃないですか」といたって当たり前の反応を示したのだが、ここでも羽鳥は「やらないよりはいい。ただ、そう思う人もいると」と取り繕った。

 東電と千葉県への批判は出てくるのに、政府の責任は問われない。さらに政府の対応を批判すると、「復旧が第一」などとかき消される──。しかも、これはテレビのなかの世界だけの話ではない。

 たとえば、18日に時事通信が「政府初動対応に批判 内閣改造で「空白」」という記事を配信し、8月の台風10号では関係閣僚会議を2回開催したのに今回は一度も開いていないなど初動の遅れを検証。菅義偉官房長官は東電を批判しているが、その対応に対しては政府高官も「後手に回ったのは政府も同じ」と述べていることを伝えた。

 しかし、この記事のYahoo!ニュースのコメント欄では、「直ぐに国へと批判を向けるのはどうかと思う」「国よりも千葉県自治体の初動が遅すぎる方が問題」「国というより完全に県の初動ミス」と千葉県に批判が集中。一方、政府の対応に対しては「頑張っている政府を批判ばかりしている」「政府を叩けばなんとかなる訳ではない」などという意見まで寄せられ、SNS上でも「批判するよりまず復旧が先」という意見から「政権を批判したいが為の記事」「災害を安倍叩きに利用している」という“政権批判・批判”までもが起こった。

「国には責任はない。問題は千葉県だ」って、じゃあ国の仕事って何なんだという話だが、言うまでもなく今回の災害対応が後手後手になっている責任は、県だけではなく国にもある。

 実際、これはすでに専門家からも問題として挙がっている事実だ。たとえば、安田陽・京都大学大学院特任教授は、千葉県が災害対策本部を設置したのが10日、経産省の停電被害対策本部の設置が13日だったことにくわえ、〈政府全体の災害対策本部に至っては17日現在も設置されていない〉と言及し、〈大規模災害では電力のみならず、医療や食料の提供、避難場所の確保などさまざまな課題があり、政府や都道府県による対策本部を速やかに設置し、意思決定・情報発信していくことが必要〉と指摘(東洋経済オンライン18日付)。今回の災害対応の問題点をこう述べている。

〈大規模災害時には、正確な情報を得られず不確実性がある中で、意思決定をしていかなければならない。これが「クライシスマネジメント」(最悪の状態を想定した危機管理)の考え方だ。むしろ、国や地方自治体にクライシスマネジメントが欠如していたことこそ問題にすべきだ。〉

 国民の生命と安全を守る責任がある国が、危機管理を放棄し、被災地無視で内閣改造までやってのけた。この愕然とするような現実が目の前で起こったのに、「国は責任ない」と大合唱する──。メディアだけではなく、国民にまで“政権忖度”が浸透してしまったのか。ともかく、異常な状況だと言うほかないだろう。