【動画】『ザ・スイッチ』予告編
7年間に渡って続けてきた連載の最終回となります。
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みんなの映画部 活動第74回[後編]
『ザ・スイッチ』
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子、ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)、オカモトレイジ(OKAMOTO'S)
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■生粋のホラー映画好きの小出部長の解説をどうぞ
小出 ホラー映画史のなかで『ザ・スイッチ』を位置づけを考えるとしたら、『スクリーム』(1996年/監督:ウェス・クレイブン)の系譜だと捉えるとまずはわかりやすいのかなと。ティーンが殺人鬼に襲われるポップコーンムービーなんだけど、ホラー映画のお約束をメタ的に盛り込んでいる。
90年代終わりから2000年代初頭あたり、その段階でも『最終絶叫計画』(2000年/監督:キーネン・アイヴォリー・ウェイアンズ)がさっそく『スクリーム』をパロディのネタとして取り入れているみたいに、ホラー映画まわりって“ベタの蓄積”がすごくあるわけで。
作り手も観客も共有済みである“ベタの蓄積”の先にどういう映画を作るかっていう……おそらくそれがホラー映画とかスリラー映画とかゾンビ映画とかの、ここ10年くらいの課題としてあったと思うんですよ。例えば『ゾンビランド』(2009年/監督:ルーベン・フライシャー)とかさ、既成の“ゾンビ映画マナー”をメタ的に押さえつつ、どんな新しいエンタメの形が可能なのか、みたいな。
『ハッピー・デス・デイ』では、ホラーとタイムループをかけ合わせて、ふたつのジャンルの「ベタ」を重ねながらも、そこに半回転ひねりを加えるようなアイデアがあった。『ザ・スイッチ』もその延長で、「スラッシャー×男女入れ替わり」というかなりキャッチーなアイデアを軸にしつつも、随所に“ベタ”が散りばめられていて、元ネタは『13日の金曜日』『ハロウィン』『悪魔のいけにえ』『スクリーム』……必要なものは全部あるんじゃないかってくらい。
レイジ いろいろ思い出しますよね、ホラー映画のクラシックを。
小出 僕がいちばん感動したのが、女子高生ミリーに入れ替わった殺人鬼が朝目覚めて、「あ、おっぱいある」とかはベタじゃん。『君の名は。』でもあったし(笑)。
ハマ あの殺人鬼の部屋もやりすぎていて、めっちゃ面白かったですけどね。
小出 そうそう。『悪魔のいけにえ』の舞台になるレザーフェイスの実家なんかは、昼でも暗いし、いかにもおどろおどろしいんだけど、無防備に窓開いてるし、朝日にガンガン照らされてて超笑った。
レイジ 「えっ、外?」みたいな感じ。
ハマ 外じゃん。工場でしょ、もう。
小出 動物のはく製みたいなのがあって、便器にドクロ突っ込んであるんだけど、殺人鬼のお宅探訪かよっていう部屋の明るさ(笑)。
福岡 たしかに。
小出 やっぱり“殺人鬼のおっさんになっちゃった普通の女子高生”って設定がとにかく秀逸だと思う。ギャグも最高。
福岡 あはは。
小出 これは笑わす気満々なんだなってすごい伝わってくる。
ハマ そこも過剰じゃなくて良かったですよね。『ジュマンジ』の新作(『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル』2017年、『ジュマンジ/ネクスト・レベル』2019年)だと、ジャック・ブラックが女の子に入れ替わっちゃうじゃないですか。あれも最初は面白かったですけど、だんだんしつこく思えてきて(笑)。
『ザ・スイッチ』の場合は“見た目はおっさん、中身は女の子”という設定も押しつけがましくないというか、アイデアとの付き合い方がちょうどいい具合なんですよね。そこのバランス感覚もすごいなと思います。
小出 さらに、入れ替わりをただのギミックに終わらせず、ここにはちゃんと「性別が入れ替わったらどうなるか」っていうジェンダー視点も含まれてるんだよね。女子高生と体のでかいおじさんが入れ替われば、社会的な景色も変わる。ミリーも殺人鬼も、それを体感することになる。
加えて、容姿、人種、セクシュアリティの問題意識にも触れていて、それらをギャグを折りませながらスリラー映画にまとめているんだから、本当にすごい。
■幾度の公開延期を経てついに劇場公開
──今、コロナ禍で公開延期になってる作品が多いんですが、『ザ・スイッチ』も今年1月の公開予定だったのが、4月9日に延期したんですよ。
レイジ 俺、前の公開予定日のときに、野崎くん(「みんなの映画部」のお友達)と行く約束してました。
──こういう面白い映画ほど、どのタイミングでお客さんに届けるのが最適なのか、配給・劇場側も思案されていると思います。ともあれ今回、映画館のスクリーンで『ザ・スイッチ』を無事味わえることになるのは、映画ファンとして本当に幸福だなと。
ハマ 娯楽映画として、問答無用の幸福感に浸れますよね。単純によくできてるし。“単純によくできてる”っていうのがすげえ難しいじゃないですか、今。ネタも出つくしてるし、世の中に。
小出 そうなんだよね。
ハマ こういうシンプルな作りを完璧にこなすっていうのは、本当にセンスがいいなって思いました。
レイジ ホラーだけど、誰にでもおすすめできますよね。
福岡 カップルでも全然行けるね。
レイジ 子供も大人も面白い。
小出 当「みんなの映画部」の推薦映画として、全力でおすすめします!
──遠くない未来でまた『みんなの映画部』をやりましょう。ではとりあえず、皆さんありがとうございました!
TEXT BY
森
直人(映画評論家)