邦ロック界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。

【動画】『ザ・スイッチ』予告編

7年間に渡って続けてきた連載の最終回となります。
今回みんなで観たのは4月9日(金)に劇場公開となるホラー映画『ザ・スイッチ』。生粋のホラーマニアとして知られるようになった小出部長と、知らずうちにその薫陶を受けていた部員たちのおしゃべりが止まりません!

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みんなの映画部 活動第74回[後編]
『ザ・スイッチ』
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子、ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)、オカモトレイジ(OKAMOTO'S)
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■生粋のホラー映画好きの小出部長の解説をどうぞ

小出 ホラー映画史のなかで『ザ・スイッチ』を位置づけを考えるとしたら、『スクリーム』(1996年/監督:ウェス・クレイブン)の系譜だと捉えるとまずはわかりやすいのかなと。ティーンが殺人鬼に襲われるポップコーンムービーなんだけど、ホラー映画のお約束をメタ的に盛り込んでいる。

90年代終わりから2000年代初頭あたり、その段階でも『最終絶叫計画』(2000年/監督:キーネン・アイヴォリー・ウェイアンズ)がさっそく『スクリーム』をパロディのネタとして取り入れているみたいに、ホラー映画まわりって“ベタの蓄積”がすごくあるわけで。

作り手も観客も共有済みである“ベタの蓄積”の先にどういう映画を作るかっていう……おそらくそれがホラー映画とかスリラー映画とかゾンビ映画とかの、ここ10年くらいの課題としてあったと思うんですよ。例えば『ゾンビランド』(2009年/監督:ルーベン・フライシャー)とかさ、既成の“ゾンビ映画マナー”をメタ的に押さえつつ、どんな新しいエンタメの形が可能なのか、みたいな。


『ハッピー・デス・デイ』では、ホラーとタイムループをかけ合わせて、ふたつのジャンルの「ベタ」を重ねながらも、そこに半回転ひねりを加えるようなアイデアがあった。『ザ・スイッチ』もその延長で、「スラッシャー×男女入れ替わり」というかなりキャッチーなアイデアを軸にしつつも、随所に“ベタ”が散りばめられていて、元ネタは『13日の金曜日』『ハロウィン』『悪魔のいけにえ』『スクリーム』……必要なものは全部あるんじゃないかってくらい。

レイジ いろいろ思い出しますよね、ホラー映画のクラシックを。

小出 僕がいちばん感動したのが、女子高生ミリーに入れ替わった殺人鬼が朝目覚めて、「あ、おっぱいある」とかはベタじゃん。『君の名は。』でもあったし(笑)。
ただ、殺人鬼と入れ替わったミリー側の目線の描写がすごく新鮮だった。殺人鬼のプライベートを、普通の高校生の女の子目線で見たらめちゃめちゃ気持ち悪いっていう。

ハマ あの殺人鬼の部屋もやりすぎていて、めっちゃ面白かったですけどね。

小出 そうそう。『悪魔のいけにえ』の舞台になるレザーフェイスの実家なんかは、昼でも暗いし、いかにもおどろおどろしいんだけど、無防備に窓開いてるし、朝日にガンガン照らされてて超笑った。

レイジ 「えっ、外?」みたいな感じ。


ハマ 外じゃん。工場でしょ、もう。

小出 動物のはく製みたいなのがあって、便器にドクロ突っ込んであるんだけど、殺人鬼のお宅探訪かよっていう部屋の明るさ(笑)。

福岡 たしかに。

小出 やっぱり“殺人鬼のおっさんになっちゃった普通の女子高生”って設定がとにかく秀逸だと思う。ギャグも最高。
トイレのくだりとか、すごい長いよね。

福岡 あはは。

小出 これは笑わす気満々なんだなってすごい伝わってくる。

ハマ そこも過剰じゃなくて良かったですよね。『ジュマンジ』の新作(『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル』2017年、『ジュマンジ/ネクスト・レベル』2019年)だと、ジャック・ブラックが女の子に入れ替わっちゃうじゃないですか。あれも最初は面白かったですけど、だんだんしつこく思えてきて(笑)。


『ザ・スイッチ』の場合は“見た目はおっさん、中身は女の子”という設定も押しつけがましくないというか、アイデアとの付き合い方がちょうどいい具合なんですよね。そこのバランス感覚もすごいなと思います。

小出 さらに、入れ替わりをただのギミックに終わらせず、ここにはちゃんと「性別が入れ替わったらどうなるか」っていうジェンダー視点も含まれてるんだよね。女子高生と体のでかいおじさんが入れ替われば、社会的な景色も変わる。ミリーも殺人鬼も、それを体感することになる。

加えて、容姿、人種、セクシュアリティの問題意識にも触れていて、それらをギャグを折りませながらスリラー映画にまとめているんだから、本当にすごい。
今、少しずつこういった意識が広まり始めた日本と比べると、遥か先にいるんだなって感じがする。

■幾度の公開延期を経てついに劇場公開

──今、コロナ禍で公開延期になってる作品が多いんですが、『ザ・スイッチ』も今年1月の公開予定だったのが、4月9日に延期したんですよ。

レイジ 俺、前の公開予定日のときに、野崎くん(「みんなの映画部」のお友達)と行く約束してました。

──こういう面白い映画ほど、どのタイミングでお客さんに届けるのが最適なのか、配給・劇場側も思案されていると思います。ともあれ今回、映画館のスクリーンで『ザ・スイッチ』を無事味わえることになるのは、映画ファンとして本当に幸福だなと。

ハマ 娯楽映画として、問答無用の幸福感に浸れますよね。単純によくできてるし。“単純によくできてる”っていうのがすげえ難しいじゃないですか、今。ネタも出つくしてるし、世の中に。

小出 そうなんだよね。

ハマ こういうシンプルな作りを完璧にこなすっていうのは、本当にセンスがいいなって思いました。

レイジ ホラーだけど、誰にでもおすすめできますよね。

福岡 カップルでも全然行けるね。

レイジ 子供も大人も面白い。

小出 当「みんなの映画部」の推薦映画として、全力でおすすめします!

──遠くない未来でまた『みんなの映画部』をやりましょう。ではとりあえず、皆さんありがとうございました!

TEXT BY

直人(映画評論家)