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落語家は、人気商売である。
というより話芸で評価される実演家だから、芸談を語ることはあっても、また自分の口演のために資料を集めて研究することはあっても、それをまとめたり後世に遺すための資料的な価値の高い著作を遺す人はほとんどいない。そう桂米朝師匠(1925~2015)を除いては。
「落語界でも恩恵を被った人ははかりしれないだろう」と、今になっては思うばかりだが、いまさらながら、米朝さんがその名で遺した著作を紐解きそこに引用されている著作のいくつかに目を通している。
人気落語家であり、人気の司会者。あるいは若者にカリスマ的な人気を博したラジオDJ、様々な顔をもった米朝師匠は、典型的な売れっ子落語家の一人であった。TVや高座、あちこちで話題にされるその人の発言というものは、即時性のある影響力を持ちはするが、それはあくまで存命(あるいは現役)であるうちだけで、没後にはDVDや映像は残るにしても、著作が生きて長く残る。
必要とされるような、記録的な価値のあるものならなおさら。
実演者としても、もちろん米朝さんは自分の芸を遺すことで、絶えていた上方落語を記録にとどめ生き延びさせようとした。いまさらなぜそんなことを語るのかといえば、同じように落語の寿命を百年延ばしたといわれた談志さんはどうだろうか、とつらつら考えてしまったからだろう。
残した著作は多く、いまだ若手の落語家に読まれているかといえば、心ある人には、ということでしかない。