親の介護は、同じ家に住んでいても大変なことですが、離れて暮らしている場合はさらに難しさが増します。今回は、遠距離介護の現状と課題、効果的なサポート方法、そして親の呼び寄せを検討する際の選択肢について詳しく解説します。
離れて暮らす親...不安になるタイミングは?
近年、仕事や家庭の事情で親元を離れて暮らす人が増えています。
実際、issin株式会社が2024年に実施した調査によると、実に65.2%の人が離れて暮らす65歳以上の親がいると回答しています。しかし、この状況は多くの人々に不安をもたらしています。
2024年の夏は3割弱が「離れて暮らす親に会えなかった」と回答
遠距離介護の最大の課題は、日常的に親の様子を確認できないことです。同調査によると、離れて暮らす高齢の親がいる人のうち、28.5%が2024年の夏に親に会うことができなかったと回答しています。
親のことを気にかけていたとしても、子供にも生活があります。仕事が立て込んでいたり
これは、新型コロナウイルスの影響や仕事の忙しさなど、様々な要因が考えられます。
しかし、会えないことで生じる不安は大きいものです。
同調査によると、特に、以下の3つが主な懸念事項となっているようです。
離れて暮らしている場合、親の様子を把握することはできません。
とくに親が一人暮らしをしている場合、突然の体調不良などがあった場合、気づくことができません。
親の健康状態を把握する難しさ
別居している高齢の親の健康状態を把握することは、最も難しい課題の一つです。電話では、表面的な様子しか分かりません。特に、高齢者は自分の体調の変化に気づきにくかったり、子どもに心配をかけたくないという思いから、体調不良を隠したりすることがあります。
例えば、以下のような変化は電話では気づきにくいものです。
- 歩行の不安定さ
- 家の中の整理整頓状況
- 食事の内容や摂取量
- 服薬管理の状況
このような日常動作に問題がないかを確認するためには、やはり直接顔を見に行くことが必要になってきます。
とはいえ、「かなり遠くに住んでいるから、気軽に会いに行けない」といった方も多いはずです。
そのような場合はどうすれば良いのでしょうか。
離れて暮らす親をサポートする3つの効果的な方法
ここでは、離れて暮らす親をサポートするための3つの効果的な方法を紹介します。
定期的なビデオ通話でのコミュニケーション
ZoomやSkypeなどのテクノロジーの発展により、PCやスマホ、タブレットを活用することで離れていても顔を見ながら会話ができるようになりました。
定期的なビデオ通話は、親にとって子どもと話せる楽しい時間となるうえ、子どもにとっても親の表情や部屋の様子を確認し、健康状態に変わりはないかを目で見て確認できる貴重な機会となります。
とはいえ、「何を話せばいいのかわからない」「やってみたけど、一度で終わってしまった」という方も多いでしょう。
ビデオ通話を効果的に活用するためのポイントは以下の通りです。
1. 定期的な時間を設定する例えば、「毎週日曜日の午後2時は必ずビデオ通話をする」など、決まった時間を設定することで、お互いの生活リズムに組み込みやすくなります。
日々の出来事や、昔の思い出話など、会話を楽しむための話題を事前に考えておくと、コミュニケーションがスムーズになります。
3. 家族全員で参加する可能であれば、孫や配偶者も一緒に参加することで、より豊かなコミュニケーションが生まれます。
4. 親の趣味や興味に関連した話題を取り入れる親の生きがいや楽しみを共有することで、精神的な健康維持にもつながります。
スマートデバイスを活用した健康管理
最近では、高齢者の健康管理をサポートするスマートデバイスが数多く登場しています。これらのデバイスを活用することで、離れていても親の健康状態を把握し、必要に応じて適切なサポートを提供することができます。
issin株式会社の調査によると、44.6%の人が遠方から親の健康状態や生活リズムを確認できるサービスに関心を示しています。
例えば、以下のようなデバイスやサービスがあります。
1. スマートウォッチスマートウォッチは、腕時計型のウェアラブルデバイスです。通常の時計機能に加え、様々なセンサーを搭載しており、健康管理や活動量の測定が可能です。
心拍数や活動量、睡眠の質などを測定し、異常があれば家族に通知するように設定することが可能であるため、親が元気にしているかを毎日確認することができます。
最新のモデルでは、転倒検知機能や不整脈の検出機能も搭載されており、緊急時には自動で救急サービスに連絡することも可能です。
また、歩数や消費カロリーなどのデータを記録し、日々の活動量を可視化することで、高齢者の健康意識向上にも役立ちます。
2. スマート体重計スマート体重計は、通常の体重計にWi-FiやBluetooth機能を搭載し、測定データをスマートフォンなどと連携できるようにしたデバイスです。
定期的な体重測定結果をアプリで管理し、急激な変化があれば通知してくれます。単なる体重だけでなく、体脂肪率や筋肉量、骨量なども測定できる高機能なものもあります。これらのデータは長期的な健康トレンドを把握するのに役立ち、栄養状態の変化や脱水症状の早期発見にも活用できます。
3. 服薬管理アプリ服薬管理アプリは、スマートフォンやタブレットにインストールして使用するソフトウェアです。
服薬時間を知らせ、服薬状況を記録したうえで、家族に共有できます。複数の薬を管理する必要がある高齢者にとって、このアプリは非常に有用です。服薬のリマインダー機能に加え、薬の情報(用法・用量、副作用など)を登録しておくことで、医療従事者との情報共有も容易になります。
4. 見守りセンサー見守りセンサーは、高齢者の生活空間に設置する小型のデバイスです。
部屋の温度や湿度、人の動きを検知し、長時間動きがない場合などに通知します。例えば、ドアの開閉、電気のオン/オフ、水道の使用状況なども把握でき、生活リズムの変化を察知することができます。また、AIを活用して通常の生活パターンを学習し、それから逸脱した場合にアラートを発する高度なシステムも登場しています。
5. GPSトラッカーGPSトラッカーは、全地球測位システム(GPS)を利用して、デバイスの位置情報をリアルタイムで把握できる小型の装置です。高齢者が身に着けたり、持ち歩いたりすることで、その所在地を確認することができます。
親の外出を見守るために活用できます。小型で軽量なデバイスを持ち歩くだけで、リアルタイムで位置情報を確認することができます。
適切に活用することで、これらのスマートデバイスは遠距離介護の強力な味方となり、高齢者と家族双方の生活の質を向上させる可能性を秘めています。
地域包括支援センターと連携した見守り
地域包括支援センターは、高齢者の生活を総合的にサポートする公的な機関です。遠距離介護において、この機関との連携は非常に重要です。
地域包括支援センターが提供するサービスには以下のようなものがあります。
なお、遠距離介護において地域包括支援センターを活用する際には、親が元気なうちから、センターに連絡を取り、どのようなサポートが受けられるか確認しておくのがおすすめです。親の状況について定期的に情報を共有し、変化があればすぐに相談できる関係を築いておきましょう。
また、緊急時にセンターがどのように動いてくれるか、事前に確認しておくことも大切です。
地域包括支援センターと連携することで、専門家の目で親の状況を見守ってもらえるだけでなく、必要な時に適切なサービスにつなげてもらうことができます。これにより、遠距離介護の不安を大きく軽減することができるでしょう。
遠方の親を呼び寄せるべき?同居・近居・施設入居の比較
親の健康状態の変化や介護の必要性が高まってきた場合、呼び寄せを検討する家族も多いでしょう。ここでは、同居・近居・施設入居それぞれのメリットとデメリット、そして選択する際の考慮点について詳しく解説します。
同居する場合のメリットとデメリット:介護と家族関係のバランス
同居は、最も密接に親の介護を行える形態です。しかし、家族全員の生活に大きな影響を与える選択でもあります。
メリット、デメリットは以下の通りです。
【メリット】なお、同居を選択する際は、以下の点を十分に考慮する必要があります。
- 家族全員の同意と協力が得られるか
- 介護の分担方法について具体的な計画があるか
- 住居の広さや構造が同居に適しているか
- 介護サービスの利用など、外部のサポートを取り入れる余地があるか
近居という選択肢:適度な距離感の重要性
近居は、親と子どもが同じ地域や近隣に住む形態です。これは、同居のメリットを活かしつつ、デメリットを軽減できる選択肢として注目されています。特に、まだ介護の必要性が低い段階や、親が独立した生活を望む場合に適しています。
【メリット】近居を選択する際には、以下についても検討する必要があります。
- 親の自立度と健康状態
- 地域の介護サービスや医療機関の充実度
- 家族の仕事や学校との兼ね合い
- 経済的な負担能力
老人ホーム入居の検討も一つの手
親の介護度が高くなった場合や、専門的なケアが必要な場合、老人ホームなどの施設入居を検討することも選択肢の一つです。
近年は、さまざまなタイプの高齢者向け施設が増えており、個々のニーズに合わせた選択が可能になっています。
施設入居は、専門的なケアが必要な場合や、家族だけでは十分な介護が難しい場合に適しています。ただし、親の意思を尊重し、可能な限り本人の希望に沿った選択をすることが重要です。
近年注目されているのが、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)です。これは、バリアフリー設計の住宅に、安否確認や生活相談などのサービスが付いた施設です。自立した生活を送りつつ、必要に応じてサポートを受けられるため、施設と自宅の中間的な選択肢として人気が高まっています。
国土交通省の「サービス付き高齢者向け住宅の整備等の実績」によると、2023年12月末時点でのサ高住の登録戸数は282,589戸となっており、年々増加傾向にあります。ただし、人気の高い物件では待機者も多いため、入居を検討する場合は早めの情報収集と申し込みが必要です。
どの選択肢を取るにせよ、最も重要なのは親の意思を尊重し、家族全員で十分に話し合うことです。また、選択した後も定期的に状況を見直し、必要に応じて変更を検討することが大切です。
介護は長期にわたる取り組みです。家族の絆を深める機会ととらえつつ、介護する側の生活の質も維持できるよう、バランスの取れたアプローチを心がけましょう。