育児と介護を同時に担うダブルケア
2月はダブルケア月間
「ダブルケア」とは、身近な人のケアを同時期に担うことをいいます。主にその多くは育児と介護を同時進行で行うケースを指しています。
ダブルケアの問題は、ケアをする人の心身のみならず、経済的、時間的な面などあらゆる負担が大きいところにあります。
仕事との両立が難しいうえに、「育児」や「介護」といった縦割り行政のはざまで、必要なサポートを得にくいところも課題となっています。
このようにダブルケアは重大な問題にも関わらず、まだまだ認知度が低い言葉です。
「ダブルケア」の支援に取り組む全国約30団体は、この言葉をもっと多くの人に知ってもらいたい」、「全国のダブルケアの支援の輪をつなげて広げたい」という思いから、毎年2月を「ダブルケア月間」、2月2日を「ダブルケアの日」と定めました。
ダブルケアをしている人は25万人以上
2016年に内閣府が公表した推計によると、子育てと介護のダブルケアを行っている人は約25万人で、そのうち女性が約17万人、男性が約8万人となっています。
現状ダブルケアを行う人口は、女性が男性の約2倍います。男性の育児・介護休暇取得率も高まり始めた今、ダブルケアは女性だけでなく、男性ひいては社会全体の問題といえます。
出典:『育児と介護のダブルケアの実態に関する調査報告書』(内閣府男女共同参画局)を基に作成 2022年02月16日更新内閣府が行った調査では、排泄や入浴、食事など日常生活における身体的ケアを行う行為を介護と定義しているため、経済的支援や電話での悩み相談などの精神的支援は含まれていません。そのため、実際にはもっと多くの人がダブルケアを行っていることが予想されます。
また、厚生労働省の調査によると、高齢出産の割合は、1990年代は出産数全体の数%だったのに対し、2010年では20%台、2019年には約30%と増加傾向にあります。
この出産の高齢化の現状や、少子高齢化や核家族の現状からも、今後ダブルケアに直面する人はさらに増える見込みとなっています。
ダブルケアの介護負担感と、解決すべき問題点
ダブルケアの介護負担
ダブルケアの介護負担は非常に重く、余暇時間の不足や睡眠不足の他にも様々な負担があります。
直接的なケアをする時間だけでなく、被介護者のもとへの移動や医療機関の受診の付き添い、各種手続きの代行なども、介護者の大きな負担となっています。また、経済的な面での介護負担も少なくありません。
総務省の統計によると、高齢無職世帯の1ヵ月平均実収入が200,162円なのに対して、支出は257,230円となっており、通常の暮らしをするだけでも月々81,721円の赤字となっています。
要介護状態となった場合、月々の介護費用に加え、医療費も必要となるので、さらに家計を圧迫することになります。
生活・介護・医療という経済的な負担すべてを被介護者の年金だけで賄うことは難しいため、必然と介護者への負担も大きくなります。
ダブルケアは突発的に起こりうる問題です。育児で精一杯の時期に、突然親の介護が必要になることもあります。
対策を考える前にダブルケアに直面してしまい、八歩塞がりになってしまう場合も多いのです。
ダブルケアの問題点
ダブルケアの問題解決が難しいところは「育児」と「介護」のそれぞれに対する国の支援はあるものの、その両立を支える仕組みや制度がないということです。
役所によっては、育児と介護で窓口が異なることもあるため、どこに相談して良いかわからず、縦割り行政のはざまで1人で悩んでしまうケースも少なくありません。また、仕事との両立においても困難を極めています。
内閣府が行った調査によると、ダブルケアに直面する前に就労していた人のうち、ダブルケアを理由に「業務量や労働時間を減らした」人は18%、「仕事を辞めた」人は8%います。
つまり、ダブルケアに直面する4人に1人が就労への悪影響を被っています。
就業の仕方を変更した理由は、男女ともに「勤め先の勤務条件では両立が難しかった」と回答している人が多く、ダブルケアをしながら仕事ができる環境が整っていないことが大きな問題と考察できます。

「育児」「介護」と分けずに包摂的な仕組みを
ダブルケアの支援に求められること
ダブルケアを行う人が行政に充実してほしいと思う支援策には、「保育施設の量的拡充」「子育て・介護費用の負担の軽減(経済的支援)」が挙げられます。
国の積極的な施策により、少しずつ改善はされているものの、都市部ではいまだに待機児童が深刻な問題として解決が待たれています。
育児と介護を両立しているダブルケアを行う人たちにとって、一時預かりなどを含む、子育てサービスの不足がもたらす負担は大きいです。
一方、ダブルケアを行う人が、勤め先に充実してほしいと思う支援策には、「子育てのために一定期間休める仕組み」が最も多いのですが、男女ともに「特にない」と回答する人の多さも目立ちます。
ダブルケアに直面した際、勤め先へ相談したり、支援策を模索する前に、仕事との両立の難しさを自ら判断し諦めてしまう人も少なくないのではないかと推測されています。

新たな「家族政策」がダブルケア問題の解決の鍵
ダブルケアの問題を解決するためには、子ども・青少年・女性・高齢者と区切られている縦割り行政を抜本から見直し、世代横断的な視点で新たな家族政策の形成が不可欠です。
管轄の垣根を越えた情報共有と同時に、社会的・経済的・精神的などあらゆる側面において支援ができる環境をつくっていくことが重要なのです。
近年、男性の介護休暇取得率も増えており、ダブルケアは今以上に、女性だけでなく、男性も直面していく問題といえます。
また、企業においては、介護・育児休業法の改正に伴い、中小企業の経営者や人事労務者のみならず全従業員への研修や勉強会を行う企業も増えています。
この介護・育児休業法を契機に、家族のケアをしながら働くことが当たり前になるような企業構造が求められているのです。
今後企業は、行政に求められることと同様、育児と介護を別々に捉えるのではなく、ダブルケアの視点、包摂的なケアとワーク・ライフ・バランスのあり方を見据え、従業員のマネジメントをすることが重要です。