新年度から「認知症の人と家族の一体的支援事業」がスタート

認知症地域支援推進員の新たな業務内容として追加

厚生労働省は3月28日、介護保険制度の地域支援事業として市町村が配置している「認知症地域支援専門員」の業務内容に、「認知症の人と家族への一体的支援事業」を追加すると「介護保険最新情報Vol.1053」にて通知を行いました。

この新たな事業は、認知症の人とその家族を支援対象とし、お互いの気づき・理解を深めることを目的としたものです。

厚生労働省によると、公共スペースや既存施設を活用して一連のプログラムに取り組むことで、本人の意欲向上や家族の介護負担感の減少、さらに家族関係の再構築を図れるとされています。

今回の改正地域支援事業の実施要項には、「認知症の人と家族への一体的支援事業」を行うに当たっての注意事項も掲載されています。その内容は、認知症の人とその家族を「一組」として複数の家族を対象として実施すること、専門職を確保すること、などです。市町村が取り組みを進められるように、国は予算を組んで補助金を出す体制作りを行っています。

背景にある認知症者数の増加傾向

今回、認知症の人とその家族に対する地域支援事業が打ち出された背景にあるのが、高齢者人口増に伴う認知症者数の増加傾向です。

「平成29年度高齢社会白書」によれば、認知症者数は2012年時点では約462万人で、高齢者人口における認知症の人の割合(有病率)は約15%でした。

その後も認知症者数と、高齢者人口に占める割合は増え続け、2020年には602万人~631万人、高齢者人口に占める割合が16.7%。2025年には675万人~730万人、高齢者人口に占める割合は18.5%になると推計されています。

地域支援事業の実施要項に「認知症の人と家族の一体的支援」が追...の画像はこちら >>
出典:『平成29年度高齢社会白書』(内閣府) 2022年04月15日更新

認知症は「若年性認知症」として若い世代でも症状がみられるタイプもありますが、多くは高齢者になります。現在日本では高齢者人口が一貫して増え続けているので、それに伴い認知症の人が増え続けるのは当然とも言えるでしょう。

しかし注目すべきは、人口に占める患者数の割合が増えているという点です。認知症の有病率は、2012年当時は65歳以上の約7人に1人でしたが、2025年には約5人に1人になるとの推計もあります。

認知症の人と家族の一体的支援とは?

オランダ発「一体的支援プログラム」

認知症の人と家族の一体的支援は、家族を一つの単位として、本人と家族に対する支援を行う点が特徴です。

従来、認知症の人と家族介護者に対する支援は別々に行われるのが一般的でした。例えば、認知症の人たちが集まり、自分が体験したことや必要としていること、悩みなどを打ち明けう「本人ミーティング」、認知症の家族が集まって相談し合ったり認知症について学び合ったりする場などです。

しかしこれらの支援は一定の意義はあるものの、あくまで別々の支援であるため、認知症の人とその家族の間の関係性の向上・再構築には必ずしも貢献しません。

そこで新たな取り組みとして注目を集めているのが、認知症の人とその家族に焦点を合わせた一体的支援です。もともと、1993年にオランダのアムステルダムで創設された「ミーティングセンター・サポートプログラム」が、認知症の人と家族の一体的支援の始まりだと言われています。日本では2020年からモデル事業や検証が繰り返され、2022年の4月から、正式に地域支援事業として組み込まれたのです。

認知症の人と家族の一体的支援プログラムの内容は、月に一回ほどの頻度で、本人と家族が一緒に楽しめる活動を行うというのが一般的です。

その中でお互いに話し合って思いを共有し、気持ちのズレや葛藤を調整し、関係性の再構築を目指していきます。

認知症カフェとの違いは?

認知症の人とその家族を支援する似た取り組みとして「認知症カフェ」があります。

認知症カフェとは、認知症の人とその家族、さらには社会福祉法人や医療法人、地域のNPOなどが参加して、お茶を飲みながら参加者同士で自由に会話をし、交流を深める場です。認知症カフェの開催数は近年急速に増えつつあり、2017年度末時点の開催数は全国で約5,800カ所でしたが、2年後の2019年には約8,000カ所まで増えています。

地域支援事業の実施要項に「認知症の人と家族の一体的支援」が追加!4月から何が変わる⁉
増え続ける認知症カフェの開催数
出典:『「社会福祉法人東北福祉会「認知症介護研究・研修仙台センター」の報告書、厚生労働省の資料』を元に作成 2022年04月15日更新

ただ、認知症カフェは、認知症の人とその身内のみが参加するわけではありません。各種専門職や地域の人なども幅広く参加し、認知症介護はどうあるべきかを地域社会全体として考えていくこともその目的に含まれます。この点は認知症サポーター制度も同様の位置づけと言えるでしょう。

一方、認知症の人と家族の一体的支援事業は、支援・参加対象はあくまで認知症の人とその家族です。

この両者が一緒に活動し、お互いに向き合うことで、その関係性を調整することを目的としています。つまり、「認知症の人と家族」に焦点を絞った支援プログラムであるわけです。

認知症への支援策は今後さらに重要性が高まる

認知症の介護を行う家族への支援の重要性

認知症者数・有病率ともに高まりつつある中、本人のみならず家族の介護者をも支援できる体制づくりは、今後さらにニーズ・重要性が高まっていくと考えられます。

認知症には中核症状と周辺症状とがあり、特に周辺症状については、妄想や徘徊など介護者のストレスが大きくなる症状が多いです。

豊橋市が2015年に実施した「認知症に関するアンケート調査報告書」によると、「認知症介護における、主介護者の困り事」について尋ねた質問に対して、最も回答割合が多かったのは「ストレスや精神的な負担が大きい」で、全体の38.6%を占めていました。「肉体的な負担が大きい」との回答が14.2%にとどまっていたことを踏まえると、認知症の介護における精神的な負担・ストレスの大きさがわかります。

地域支援事業の実施要項に「認知症の人と家族の一体的支援」が追加!4月から何が変わる⁉
認知症介護における精神的負担の大きさ
出典:豊橋市「認知症に関するアンケート調査報告書」を元に作成 2022年04月15日更新

認知症は症状として被害妄想や暴言、暴力なども見られる場合があり、認知症の人と家族介護者との関係性の構築が難しくなるケースが少なくありません。

そうした中で両者の関係を調整・再構築していこうとする今回の「認知症の人と家族の一体的支援事業」は、家族介護者の精神的負担やストレスの軽減につながり得るとも期待されます。

認知症の人と家族の一体的支援は今後も注力すべき取り組み

今回の「認知症の人と家族の一体的支援事業」は、先駆的な自治体によってすでに実施例が蓄積されています。

仙台市では、事業整理によって認知症の人と家族の話し合いの場として、「おれんじドア」を2015年に開始しました。これは、認知症の人向けの個別相談の場を設けると同時に、家族と本人が理解し合う場を提供することを目的として仙台市が実施したプログラムです。

参加者の平均人数は認知症者の本人が5人、その家族が5~6人。月に一回、「東北福祉大学ステーションキャンパス ステーションカフェ」で開催しています。

ただ、これらの先駆的事業、そして今回の制度改定においては、「認知症の人と家族の一体的支援」の取り組みはあくまで地域支援事業の枠組みとして捉えられています。そのため取り組み内容に自治体間で差が出るとも考えられ、支援の効果がどの程度高まるのかについては、多少疑問が残る面もあります。

専門家の中には、介護報酬という形で評価軸を設定できる給付サービスにおいて、同じような取り組みを位置づけるべきとの声もあるようです。

今回は新年度から始まる「認知症の人と家族の一体的支援事業」について考えてきました。認知症の患者数が増え続けることを考えると、認知症の人とその家族をサポートする体制作りは、今後さらに重要性を増していきそうです。